運送業は、一人でトラックなどを運転する時間が長いため、人間関係などのストレスを溜めにくいイメージがあります。しかし、運送業には特有のストレス要因が数多くあり、蓄積されればストレスから退職する人もいます。
そこで、運送業の人が抱えやすいストレスやおすすめのストレス解消法についてまとめました。企業側ができることもご紹介していますので、ぜひチェックしてください。
運送業者が抱えるストレス、辞めたくなる理由とは?
運送業者は、トラックなど車に乗っている間は基本的に一人きりなので、運転中は他の職種と比べて人間関係に神経を使わなくて済む点で気楽だと言えます。同僚や上司、お客さんとコミュニケーションをとらなくてはならないシーンもそう多くはありませんので、対人関係でストレスを抱えることはあまりないでしょう。
しかし、運送業者には運送業者ならではのストレスがあります。具体的には、運送業者が抱えやすいストレス要因として以下の10項目が挙げられます。
- 長時間の運転によるストレス
- 運転が好きな人でも、毎日長時間の運転はストレスになることも
- 中距離や近距離であっても、運転時間が長時間に及ぶことがある
- ドライバーにとって肉体的・精神的なストレスを蓄積してしまう
- 睡眠不足のストレス
- 夜間にトラックで荷物を運ぶ仕事、早朝から夜遅くまで荷物を運ぶ仕事の2種類
- どちらの仕事であっても、睡眠時間が削られやすいのが難点
- さらに、睡眠をトラック内で仮眠としてとることも多く、睡眠不足とストレス要因になりやすい
- 身体的疲労によるストレス
- 運転の他、荷物を積んだり下ろしたりする肉体的疲労も大きい
- 運転だけでなく、荷物の積み下ろしも腰への負担が大きくなる
- 長時間運転は精神的疲労が肉体的疲労を増加させてしまい、大きなストレスに
- 長時間座りっぱなしでいることによるストレス
- 毎日同じ姿勢で長時間過ごすため、足のむくみや痺れなど血流不良、腰痛などの慢性的な症状が現れやすい
- いわゆる職業病なので改善は難しく、肉体的疲労と相まって大きなストレスに
- 事故・渋滞によるストレス
- ある程度の渋滞は考慮に入れながら運転しているものの、突発的な事故渋滞や高速道路で行われる集中工事による渋滞などでスケジュール見直しを余儀無くされることも
- 自分がとろうとしていた休憩時間や場所が削られ、大きなストレスに
- 荷主の時間厳守によるストレス
- 時間に正確さを求めることは、運送業界では当たり前となってしまっている
- 顧客である荷主の要求は絶対なので、時間に遅れることはもちろん、早すぎるのもクレームに
- 時間厳守は、ドライバーにとって大きなストレスになる
- 荷待ち・荷下ろしの順番待ちストレス
- 荷物の積み下ろしも運転とセットの仕事なので、運転がスムーズでも荷待ち・荷下ろしがスムーズに行かないことも
- 倉庫に時間通り到着できても、荷待ちや荷下ろしの順番待ちが長いとその後の運行スケジュールを大きく変更せざるを得なくなる
- あおり運転によるストレス
- トラックにはスピードリミッターが装着されていて、90km/h以上には加速できない
- 一般ドライバーがサイドミラーに向けてパッシングする「あおり運転」があっても、加速できず併走する時間が長くなってしまうことも
- リミッターもあおり運転も、ドライバーにとって大きなストレス
- ドラレコに監視されることによるストレス
- 近年、トラブル発生時の証拠とするためのドライブレコーダーが標準装備されている
- 常時録画されているため、ドライバーの運転行動が常に監視されていることにもなる
- 運転手を守るためのものでもあるが、監視をストレスに感じる人もいる
- 給与・待遇面でのストレス
- 平均給与は30万前後、休日も週休2日をうたう企業が多いが、人材不足から休日出勤などが多い
- 給与に多少余裕があっても、労働時間が長すぎることは大きなストレスに
- ドライバーの仕事は運んだ分の反映なので昇給の見込みがないことから、仕事量のわりに給与が安いという結果になってしまいやすい
また、運送業に多い退職理由としては上記のストレスによるもののほか、「上司との人間関係の悩み」も挙げられます。対人的なストレスは抱えにくい運送業者ですが、会社に帰社したのち運行管理者から走行状態のチェックが入ります。このとき、企業ルールや交通ルールから逸脱した走りをしていた場合、上司から指導を受けることがあります。
また、企業によっては同僚であっても先輩・後輩などの上下関係が厳しいところもあります。このように、運転中は一人で気楽で良いものの、帰社後に大きな人間関係のストレスが待ち構えていることもあり、これが退職理由につながることもあるのです。
運送業の人におすすめのストレス解消法は?
運送業の人が抱えるストレスのうち、長時間同じ姿勢で運転を続ける肉体的ストレスは非常に多くを占めます。そこで、まずは肉体的ストレスを解消するために以下のようなストレッチを行いましょう。高速道路のサービスエリアなどには、ストレッチができる公園が併設されていることもあり、こうした施設を効率よく利用して筋肉をほぐすとリフレッシュにつながります。
- 目の体操
- 上下左右と斜めを加えた8方向に目玉だけを動かし、目の筋肉をほぐす
- 1:右上を3秒見て、正面に戻し、左上も同様に
- 2:右下を3秒見て、正面に戻し、左下も同様に
- 3:右、左、上、下の順で3秒ずつ見て戻す
- 4:正面に戻し、ゆっくりと右回り、左回りに2〜3周ずつ回す
- 座って行うストレッチ
- 両肩を10秒間上げ、ストンと落とす(3セット)
- 手を頭の後ろで組み、ゆっくりと肘を外側に開く(10秒×3セット)
- 首を右、左、上、下と10秒ずつ傾け、最後に右回し、左回し
- 両足のかかとを床から上げ、ストンと落とす(10回)
- 車から降りたときに行うストレッチ
- 両手を大きく上げ、伸びをする
- 両手を腰に添え、ゆっくりと回す
- ふくらはぎを、下から上へ血流を促すように揉みほぐす
- アキレス腱を伸ばす
- 片足ずつかかとを台に乗せ、背中を曲げずに上体をゆっくり前に倒す
また、以下のようなポイントを日常生活に取り入れることも、精神的・肉体的なストレス解消に有効です。ぜひ、できることから少しずつ取り入れていきましょう。
- 定期的に運動する
- 長時間の運転で、首・肩・背中・腰などの筋肉が凝り固まり、身体の変調によるストレスが生じやすい
- 日頃の運動不足から起こるので、休日など定期的に運動することが大切
- ドライバー仲間と話す
- 長く仕事を続けていると、同じ時刻・同じ場所にやってくる系列グループのドライバーと話す機会も
- 他社のドライバーと話す機会も出てくるかも
- 同業のドライバーと世間話などを話すことで、ストレス解消につながる
- 睡眠をしっかりとる
- 睡眠不足は判断を鈍らせ、安全運転にも支障が出やすくなる
- 仮眠が多いとなかなか睡眠不足が解消されにくいが、工夫次第で質をアップできる
- 質の良いマットや毛布、遮光カーテンなどを取りつけると良い
- 趣味を持つ
- 長時間労働で自分の時間を持ちにくく、趣味のない人も多い
- 何か一つ、打ち込めるものを見つけると大きなストレス解消に
- トラックに乗務したままできる、カラオケアプリなどがおすすめ
運送業で働く人に企業側ができることは?
運送業で働く人も、特有のストレスを抱えて退職を考えてしまうこともあります。企業側としては、人手不足解消のためにも良い働き手には働き続けてほしいものです。そこで、企業側のとれる対策として「ドライバーの求めるものを知る」「ドライバーに目的を持ってもらう」「コミュニケーションに時間をかける」という3つの方法があります。最後に、それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
企業側のストレス対策①:ドライバーの求めるものを知る
ドライバーの求めるものは人それぞれですが、主に「自分を認めてほしい」「労働環境を良くしてほしい」という項目が共通しています。自分を認めてほしいというのは、昨今でもSNSなどでよく言われる「承認欲求」というもので、人間なら誰しも持っている「自分を気にかけてほしい」「話や意見をしっかり聞いてほしい」という根元的な欲求です。
この欲求が「仕事で成果を出して認めてもらおう」という良い方向へ向かえば本人にとっても、会社にとっても有益なのですが、「力づくで言うことを聞かせてやろう」という悪い方向へ向かってしまう人もいます。特に、他人から無視された、自分の話や意見を真っ向から否定された、といった経験が多い人ほど後者の方向へ向かいやすいようです。
そこで、管理者側は「不条理なことを言われても、相手の話や意見を最後まで聞く」ということを徹底し、必要があれば「なぜその考えに至ったのか」と質問することを心がけましょう。相手の話を最後まで聞くことで「自分のことを認めてくれた」という欲求が満たされ、もしその後に反対意見を述べたとしても、ドライバーは受け入れやすくなるはずです。決して、相手の話をさえぎって途中で反対意見を述べたり、徹頭徹尾相手の言うことを否定したりしてはいけません。
「労働環境を良くしてほしい」という項目に関しては、給与と事務所内の雰囲気が槍玉に挙げられやすいです。特に、給与に関しては「同じ配送ルートで、ドライバーの能力によって作業にかかる時間が違っても歩合給が同じ」「社長の感覚・感情的な部分でドライバーごとに給与差をつけている」といった項目が不満につながりやすいです。
こうした不公平さを解消するための一つの方法として、人事考課制度を導入する方法があります。従業員の能力や勤務態度に対する評価を制度化し、その評価結果を賃金や配属部署の異動などに活用するのです。一律にドライバーを評価し、作業能力や勤務態度の差をしっかり給与に反映させることで、給与への不満は減っていくでしょう。
また、社内にドライバーがいない時間が多いことから、運送会社は事務所内の雰囲気を軽視してしまう傾向にあります。例えば、常に社長や運行管理者がピリピリしていて、それを隠そうともしない事務所や、タバコなどのニオイが常に充満していて、薄暗い雰囲気の休憩所などは、どうしても雰囲気が悪くなってしまいます。
人の感情は外部環境からも影響を受けますから、薄暗くニオイのこもった部屋ではゆったりと休憩する気分になれるはずもありません。多くのドライバーは、出庫前や帰庫時に運転の菌腸管から離れてホッと息をつきたいものです。窓から日が差し込むようにする、社長や運行管理者こそがメンタルのセルフケアに務めるなど、居心地の良い空間づくりをしましょう。
企業側のストレス対策②:ドライバーに目的を持ってもらう
毎日配車を告げられ、トラックで荷物の積み下ろしをすることの繰り返しでは、なかなか目的意識を持てず、仕事へのモチベーションも保ちにくくなってしまいます。そこで、ドライバーに対して短期的な目的・目標を持ってもらうことが重要です。お金で報酬を与えなくても、一緒に食事にいく、皆の前で表彰するなど、さまざまな方法があります。
重要なのは、目的を達成した、すなわち成果を出したことに対する達成感を味わってもらうことで、モチベーションは愛社精神にもつながります。例えば、チームを作って売上の目的を持たせ、達成したらチームの全員を打ち上げに誘うなども良いでしょう。
企業側のストレス対策③:コミュニケーションに時間をかける
コミュニケーション不足は、思惑のすれ違いを生みます。社長と従業員は立場の違いこそありますが、同じ会社の発展のために働くという意味では同じ目的を持った人どうしの付き合いなのです。普段からたわいのない話をできるような雰囲気を作ったり、時間を見つけてドライバーと雑談をしたりするコミュニケーションを行いましょう。
理想を言えば、定期的に個人面談をして日常生活のことやキャリアについてのことなど、ドライバーの価値観を知る機会を設けられるとよりお互いのすれ違いを防ぎやすくなります。忙しい社長ほど従業員と話す時間を疎かにしてしまいがちですが、ぜひ時間を見つけてドライバーとコミュニケーションをとりましょう。
おわりに:運送業者のストレスは、特有のものが多い
運送業者、すなわちドライバーが抱えるストレスは、一般的な企業などで多い対人関係よりも、長時間の運転による肉体的ストレスが非常に大きな位置を占めます。そこで、こまめなストレッチや定期的な運動習慣などで筋肉をほぐしましょう。
また、精神的ストレスとしては帰社後の人間関係がどっとのしかかるケースが多いです。企業側としても、十分なコミュニケーションをとったり、事務所の環境に気をつけたりすると良いでしょう。
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