現代社会に生きる私たちは、仕事やプライベートでストレスを感じることも多いです。ストレスを溜め込みすぎると身体に不調を引き起こしたり、心身の疾患につながったりすることもあるので、適度に解消しなくてはなりません。
ある研究によると、ストレス解消にはゲームがおすすめという報告がされています。では、ストレス解消に向いているゲームとはどんなものなのでしょうか。
ゲームはストレス解消に役だつの?
テキサスA&M大学のファーガソン准教授が2010年に行った研究によれば、暴力的なゲームを長時間プレイしている人は、男女ともにストレスに対処する精神的なスキルが身につくとされています。実際に、ストレスの多い作業をしているときでも抑うつ状態になったり、敵対的になったりしにくくなることもわかりました。
この研究では、103人の若い成人にストレスが溜まりやすい作業をしてもらった後、「ゲームをしないグループ」「暴力的でないゲームをするグループ」「善対悪というテーマを持つ、暴力的なゲームをするグループ」「暴力的なゲームを悪役の立場でプレイするグループ」に無作為に分けました。その結果、暴力的なゲームは、感情の制御を通じてプレイヤーの抑うつ的、敵対的な感情を軽減することがわかったのです。
つまり、暴力的なゲームは実生活におけるストレスをうまく処理する方法を見つけるために役立つセラピーのようなものとして利用できる可能性がある、ということです。ゲームをする人の多くが、その理由を聞かれて「リラックスのため」や「ストレス解消のため」と答えるのも肯ける話です。
マサチューセッツ総合病院の研究者もまた、研究によってゲームがセラピーの役割をする可能性を示唆しています。入院中の子どもたちにゲームをする習慣について調査したところ、大半の子どもは怒りやストレスなど、対処の難しい感情を処理する方法としてゲームを選んでいることがわかったのです。
この報告から、暴力的なゲームだけでなく、シューティングゲームやアプリなどの手軽な知能ゲームもこうしたセラピー効果が期待できると考えられます。しかし一方で、日本ではゲーム・SNS・動画などでインターネットを利用している時間が長いほど、ストレス反応が高いという調査結果もあります。
これらのことをまとめると、適度な時間プレイする限りでは、ゲームが怒りやストレスなどに対するセラピーとして働く可能性があると言えるでしょう。もちろん、ゲームの内容は暴力的なものでも、そうでなくても構いません。一方で、あまりに長時間ゲームを続けると心身の健康を損なう可能性があります。ほどほどの時間にしておきましょう。
ストレス解消にゲームをする人はどれくらいいるの?
実際に、日本においてストレス解消のためにゲームをする人はどのくらいいるのでしょうか。モバイルエンターテインメント業界の大手である「King」が行った調査によれば、ゲームをすることで気分転換になった経験がある人は約60%であり、特に操作が簡単で短時間でもプレイできるタイプのゲームでその効果が大きいことがわかりました。しかも、ゲーム専用端末でプレイするのに比べると、スマホゲームアプリでプレイする方が約25%も高いというデータがありますので、毎日のちょっとした時間が気分転換になることもわかります。
さらに、「ストレスオフラボ」が全国14万人の成人男女(20〜69歳)に行った調査によると、趣味などでなく純粋にストレス解消のためにゲームを行う人は男性12%、女性8.9%と約1割でした。年代別では20代・30代が多く、20〜40代までは男性が女性を大きく上回る反面、50代以降は女性がわずかに男性を上回りました。
ストレス度合いで見ると、男女ともに低ストレス群ではゲーム以外でストレス解消する人の方が多いのですが、高ストレス群ではゲームでストレス解消する人の割合が多くなってきます。また、ストレス解消にゲームを選ぶのは男性の方が多いにも関わらず、高ストレス群に分類される人の割合は女性に多いことも注目ポイントです。
ここから、男性はストレス解消法としてゲームを選ぶことが女性よりも多い分、ストレスが溜まりにくい傾向にあるのではないかという仮説も立てられます。大幅な差ではありませんが、もし効果的なストレス解消法が見つからなくて悩んでいる人がいれば、何かゲームを始めてみるのも良いのではないでしょうか。
ストレス解消に向いてるのはどんなゲーム?
前述のように、ゲームはストレス解消になりうることがわかりました。実際に、「ゲームをすることで気分転換になったという経験があるかどうか」という調査では、6割を超える人が経験ありと答えています。さらに、気分転換できるゲームの特徴は「簡単な操作」「短い時間でプレイできる」ということに加え、「無料でプレイできる」というように、手軽なゲームが好まれる傾向にあるようです。
気分転換に最適なプレイ時間は「10分以内」と回答した人が4割、通勤・通学の時間を含む「30分以内」と回答した人は7割にものぼり、スキマ時間の手軽なプレイが気分転換に人気なことがわかりました。多くの人が映画館や温泉に出向いて気分転換していたのは過去のことで、スマホが生活必需品となった現代では、デジタル機器を上手に使ってストレス解消していると言えそうです。
また、ゲームの内容では、以下のようなゲームがストレス解消におすすめです。
- シューティングゲーム
- 戦争の地へ赴いたり、見知らぬ土地へ行って他の敵と戦ったりする
- 銃やレーザーを打つことは現代社会でほとんどなく、非現実世界を楽しめる
- スマホの場合、操作が比較的簡単なものが多く、連続タップで攻撃できる
- 敵の動きや音で自分の打ち込んだ弾が当たったかどうかわかるので、的中すると爽快感や達成感が味わえる
- アクションゲーム
- アクションそのものをキレイに繰り出したり、何かを破壊したりする非現実感が味わえる
- 現実世界では壊していいものもなかなかないが、ゲームなら簡単に破壊できる
- 効果音やアクションの迫力で、ストレス解消しやすい
- 恋愛ゲーム
- 特に女性に人気で、理想の相手からアプローチされて誰かを選べる非現実感を味わえる
- 現実世界では恋愛に困難はつきものだが、ゲームではその要素ができるだけ省かれている
- 何人ものストーリーを何度でも楽しめるのも、ゲームならでは
3つのゲームのすべてに共通するのは「非日常感・非現実感」です。現実ではなかなか味わえない新鮮な体験も、ゲームの中なら特別なことをしなくてもアプリをダウンロードするだけで行えます。日常生活に変化がないことでストレスを感じているという人には、ぜひこうした非現実感のあるゲームがおすすめです。
位置情報を使ったゲームがストレス解消におすすめ?
近年では、どこへでも持ち歩けて手軽に操作できるスマホゲームならではの「位置情報ゲーム」が人気を集めるようになってきました。それまでゲームは家に引きこもりがちになる、健康を害するなど悪いイメージがつきまといがちでしたが、スマホを片手に現実世界で歩き回ることでパワーアップしたり、アイテムを探し回ったりする「歩く」ゲームは、ヘルステックとしても注目されています。有名なものでは、「ポケモンGO」や「ドラクエウォーク」などがあります。
ストレス解消にゲームを選ぶ人の6割以上は、歩く頻度が「月に1日未満」です。しかし、男女ともに低ストレス者で「週4日以上歩く人」が多い傾向が見られました。つまり、ストレス解消にゲームを選ぶ人でも、週4日以上歩く習慣があるのなら、ストレスレベルの軽減になる可能性が高いと言えそうです。
特に、リタイアした後で運動不足になりがちな高齢者がこうしたゲームのおかげで外出するようになった、というのもよく耳にする話です。同じように、引きこもっていた子どもがやはりゲームのアイテムやパワーアップのために歩くようになった、という話も聞かれます。歩くことは最も基本的な運動の一つですから、運動を促す効果は十分だと言えるでしょう。
逆に、1日中座り続けている人の死亡リスクは高く、座る時間が短くなるほどリスクが低くなる傾向があり、座り続けることは精神疾患のリスクも高めるとされています。また、歩行速度が遅い高齢者ほど死亡リスクが高く、特に心血管疾患による死亡リスクは歩行が早い高齢者の約3倍にもなることがわかっています。
歩くゲームの好影響は身体的なものだけでなく、メンタルヘルスにも及ぶという論文が発表されています。東京大学の医学系研究科精神保健学分野の大学院生と指導員教官によるもので、20〜74歳の日本人男女労働者2530人を対象に、「ポケモンGO」とストレスの関係について、インターネット上のストレス調査票で約4ヶ月間の調査を行いました。
この調査では、最初の調査から約1年後、「ポケモンGO」を1ヶ月以上プレイしたことがあったかどうか質問し、「した」と答えた群(9.7%)と「しなかった」と答えた群(90.3%)に分け、同じストレス調査票に回答してもらいました。すると、「ポケモンGO」をプレイした群の方がストレス反応の減少が見られ、心の健康状態が改善した傾向にあったことがわかったのです。
このように、歩くゲームがストレス解消・軽減に役立つ理由として、俗に「幸せホルモン」とも呼ばれる脳内物質「セロトニン」の影響が示唆されます。セロトニンは感情や気分のコントロールや安定に関わるホルモンで、減少するとイライラしたり不安な気持ちになったりしてしまいます。例えば、うつ病の患者さんはセロトニンの値が低いと言われています。
セロトニンを活性化するためには、一定のリズム運動が効果的だとされています。特殊な運動を行わなくても、呼吸や食事もリズム運動ですし、もちろん歩くこともリズム運動の一つです。さらに、誰かと行うことでより効果が高まるとされています。家族や友人、恋人などと一緒に歩くゲームに取り組めば、お互いに高いストレス解消効果が見込めるでしょう。
おわりに:ストレス解消には、位置情報ゲームや手軽なゲームがおすすめ
ストレス解消のためにゲームをする人は一定数いますが、特に近年の研究によれば、怒りやストレスなど対処の難しい感情を処理するためにゲームを行ったり、ゲームが抑うつや敵対感情を軽減させたりすることもわかってきました。
ストレス解消におすすめなゲームは、スキマ時間でできる手軽なものや非現実感を味わえるもの、同時に運動もできる位置情報ゲームなどです。ぜひ、好みのゲームを適度にプレイしてはいかがでしょうか。
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