疲れたとき、一般的には安静にしたり、入浴などでリラックスしたり、眠って体力を回復したりすることが勧められます。しかし、場合によっては疲労を運動でリフレッシュするのが有効なケースもあるとわかってきました。
今回は、疲れを運動でリフレッシュする「アクティブレスト」に加え、疲労回復効果が期待できる栄養素もご紹介します。ぜひ、一緒に摂取して効率的に疲労を回復しましょう。
疲労回復には休養と栄養補給が大切?
一口に「疲れ」と言っても、心配・緊張などの「精神的疲労」と、仕事や激しい運動による「肉体的疲労」があります。精神的な疲労の原因であるストレスは、脳を刺激してエネルギー代謝や酸素の消費量を増加させ、我々が思っている以上に体力を消耗させてしまいます。やがては全身に疲労感をもたらすこともあります。
一方、肉体的な疲労は、体力を消耗して身体の代謝能力が低下し、疲労物質の「乳酸」が溜まることで起こります。これらの疲労が解消されないまま蓄積していくと、睡眠や休養を取っても疲れがなかなかとれない「慢性疲労」に陥ってしまいます。さらに進行すると、心身の健康が損なわれる「過労」の状態になってしまうこともあります。
疲労を溜めすぎず、適度に解消するためには休養が重要ですが、休養の「休」と「養」にはそれぞれ異なった意味があります。
- 休養の「休」とは
- 労働や活動などによって生じた心身の疲労を、休んだり眠ったりすることで解消すること
- 心身を元の活力を持った状態に戻し、健康な状態を保つこと
- 睡眠は「休」の大事な要素の一つだが、睡眠のとり方によっては逆効果なこともあるので注意
- 休養の「養」とは
- 適度な運動や趣味の活動などで心身をリフレッシュし、明日に向かっての英気を養うこと
- 積極的休養とも言われる
「休む」ことと「養う」ことの両方の要素をバランス良く組み合わせることで、生活の質が向上し、健康的な人生の基礎を築くことができます。例えば、入浴などで身体をリラックスさせ、十分に睡眠をとるとともに、読書や映画鑑賞などで心身のバランスをとると効果的です。特に、頭の疲れにはただ身体を休めるのではなく、身体を動かしてから休養をとるとより良いでしょう。
さらに、心身どちらの疲れに対しても正しい栄養補給を忘れてはいけません。規則正しい食生活を基本とし、適宜おやつや携帯食などで補助的な栄養補給を行うことで、疲労回復を促し、心身を疲れにくくできる可能性が高まります。
疲労回復効果が期待できる栄養は?
では、実際に疲労回復効果が期待できる栄養素にはどんなものがあるのでしょうか。まず、頭の疲れにも身体の疲れにも欠かせないのが「炭水化物(糖質)、アミノ酸(タンパク質)、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、ミネラル」などです。疲れに応じてこれらの栄養素をタイミングよく適量補給すると、疲労を素早く解消できる可能性があります。
さらに、頭の疲れと身体の疲れそれぞれを解消しやすい栄養素をご紹介します。
頭の疲れに効く栄養素は?
頭、すなわち脳の疲れを解消するには、脳の唯一のエネルギー源である「ブドウ糖」を補給するのが一番良い方法です。消化吸収の早い糖質を摂取することはもちろん、一緒に糖質の代謝を助ける「ビタミンB1」や、ストレスによって大量に消費されてしまう「ビタミンC」を補給すると疲れが回復しやすくなり、頭をスッキリさせられます。
糖質の補給というと、どうしてもケーキなどの甘いお菓子類や砂糖そのもの、果物などが思い浮かぶでしょう。確かにそれも間違いではありませんし、こうした甘いお菓子や果物に含まれる単糖類や二糖類はブドウ糖に分解されやすく、したがって吸収されやすいため、頭の疲れに即時的な効果が期待できるのは事実です。
しかし、これら手軽に摂取できてしまうショ糖(砂糖)や果糖はもともとカロリーが高く、口当たりの良さからつい食べすぎてしまい、カロリーオーバーになりやすいという欠点があります。糖尿病・肥満・生活習慣病・アレルギーなど健康を損なう疾患や症状を招かないためにも、これらの糖類は摂取しすぎないよう十分に注意し、良性で有益な糖質を摂取するようにしましょう。
身体にとって良性で有益な糖質とは「フルクオリゴ糖(少糖類)」と呼ばれるもので、かぼちゃ・にんじん・たまねぎなどの野菜類に含まれます。オリゴ糖は腸内環境を整えてくれる「善玉菌」であるビフィズス菌や乳酸菌の生育を助けるのですが、悪玉菌である大腸菌やウェルシュ菌の繁殖にはほとんど使われません。これは、単糖類や二糖類にはない特別な作用です。
なお、1日に必要な量の糖質はご飯やパンなどの炭水化物(多糖類)にも含まれていますので、毎日規則正しくバランスの良い食生活を送っていれば、不足することはまずありません。その中で、単糖類や二糖類をやや少なめに、フルクオリゴ糖やマルトオリゴ糖などの野菜に含まれる糖類の割合をやや増やし気味にできると良いでしょう。
身体の疲れに効く栄養素は?
主な身体の構成成分がタンパク質であることはよく知られていますが、そのタンパク質を構成するのはアミノ酸です。つまり、身体の多くの部分はアミノ酸から出来ていると言っても過言ではありません。ですから、疲れた筋肉や臓器を修復するためには、アミノ酸(タンパク質)の摂取が重要です。日頃から、良質のタンパク質をしっかり摂取するよう心がけましょう。
タンパク質の構成成分であるアミノ酸は全部で20種類ありますが、そのうち体内で合成できない9種類の「必須アミノ酸」は食物から摂取しなくてはなりません。アミノ酸の栄養価は食品によって異なりますので、上手に組み合わせて効率よく摂取しましょう。特に、動物性食品はタンパク質も豊富ですが脂質も多いので、脂質を摂取しすぎないよう調理メニューや調理方法を工夫するのも大切です。
アミノ酸を含む代表的な食品には「牛乳・豆乳・チーズ・ヨーグルト・ヨーグルト飲料・アミノ酸飲料・ゆでたまご・おにぎり」などがあります。効率的に摂取するには、「パンと動物性食品(サンドイッチ、ホットドッグなど)、ご飯と大豆製品(納豆ご飯、麻婆丼など)、野菜と動物性食品(八宝菜、クラムチャウダーなど)」がおすすめです。
他にも、以下のような栄養素が身体の疲労回復に効果的です。身体の疲れを感じるときには、こうした栄養素を含む食品を積極的に摂取しましょう。
- ビタミンB群
- 肉体疲労の予防や回復に不可欠で、玄米や全粒粉のパンにはミネラル分も豊富に含まれる
- 代表的な食品:玄米、胚芽米、全粒粉のパン、豚肉など
- ビタミンC
- 肉体疲労を軽減し、ストレスから身体を守るために欠かせない
- 代表的な食品:レモンやオレンジなどの柑橘類、フルーツジュース、野菜スープ、野菜サラダなど
- ビタミンE
- 身体の酸化を防いで疲れにくくし、全身の血行を良くして筋肉の緊張をほぐす
- 代表的な食品:アーモンドなどのナッツ類、かぼちゃのポタージュなど
- クエン酸
- 柑橘類や酢などに多く含まれ、体内に溜まる疲労物質「乳酸」を分解してエネルギー源に変える働きがある
- 効率よく働かせる組み合わせ:クエン酸と糖質(レモンのはちみつ漬け、フルーツジュース、梅干しのおにぎりなど)
疲労回復におすすめのリフレッシュ「アクティブレスト」とは?
適度な運動は、心身の疲労を軽減させてくれることがわかっています。筋肉を動かすことによる生理的な効果のほか、リフレッシュなど精神面の効果も期待できるためですが、一方、過度な運動は肉体を消耗させ、疲労させてしまいます。運動でビタミンなど栄養素を消費しすぎてしまうと、代謝や循環機能が運動の要求に十分応えられなくなってしまうからです。
疲労回復に効果的とされる運動は、ストレッチなどの軽めの運動です。疲れで収縮した筋肉をゆっくり伸ばしてくれるストレッチは、血流を良くして酸素や栄養分を筋肉の隅々まで行き渡らせ、疲労の回復を早めてくれます。逆に、筋肉をずっと使わないままでいると筋力が低下し、疲れやすくなってしまうので、疲れにくい身体を作る上でも適度な運動は重要です。良い睡眠にもストレスの解消にもつながりますので、気分もリフレッシュされます。
このように、疲労回復のためにあえて軽い運動をする休養のことを「アクティブレスト」と言います。もともとはスポーツ選手の激しい筋肉疲労を抜くために考え出された方法で、筋肉を回復し継続的にトレーニングを行うためには、完全な休養よりも身体の隅々まで血流を流せるアクティブレストの方が早く回復できるとされています。
例えば、きついトレーニングやレースなどの後に行う「クーリングダウン」もアクティブレストの一つで、軽いジョギングやバイク、ストレッチなどを取り入れて回復を促します。一方で、完全休養とはトレーニングなどを一切せずに身体を休めることで、激しいレース後や、身体に痛みがある場合に推奨されます。
アクティブレストでは、「筋肉と血流」「脳と自律神経」の2つにアプローチします。
- 筋肉と血流へのアプローチ
- 身体を動かすことで、筋肉のポンプ作用で血液が身体の隅々まで巡る
- 血流がスムーズになると、栄養が行き渡り老廃物の排出もスムーズになり、筋疲労の回復が和らぐとともに身体のコリも和らぐ
- 脳と自律神経へのアプローチ
- 自律神経の疲労には、傷ついた細胞から出るFF(Fatigue Factor)というタンパク質が作用しているとされる
- FFを抑制するのがFR(Fatigue Recover)というタンパク質で、活性酸素の活動が弱い就寝中に働く
- FRを増やす方法の一つが運動で、運動によってFFが増えるものの、それに伴ってFRも増える
- 普段から身体を動かし、疲労回復物質であるFRを作りやすい身体にしておくことが、睡眠中に自律神経の回復を促す
筋肉は使わないと衰えて固くなり、コリや痛みにつながってますます動くのが億劫になってしまいます。全身の筋肉のポンプ作用を維持するため、アクティブレストで筋肉のコンディションを整えましょう。
他にも、アクティブレストは脳と身体の疲れを調整してくれるプラスの効果も期待できます。なんとなく身体がだるい、気分がスッキリしないと感じることは誰にでもあるでしょうが、そんなときあえてウォーキングやジョギング、軽いストレッチなどをこなすことで爽快感を感じられることがあります。これは、脳を覚醒状態に導く「セロトニン」という脳内物質の分泌が関係しているとされています。
セロトニン神経は単純なリズム運動によって活性化されますので、歩く・走るといった繰り返し運動はセロトニンの分泌を促すのに効果的です。ですから、アクティブレストとしてウォーキングなどを取り入れることは、アンバランスだった脳と身体の疲れのバランスが調整されるという効果も期待できるのです。
アクティブレストにはどんな運動を取り入れればいい?
アクティブレストでは、あくまでも縮んだ筋肉を伸ばして身体の隅々にまで血流を流し、コリをほぐしたり爽快感を得たりすることが目的なので、ストレスを感じるほどのきつい運動は禁物です。頑張る運動ではなく、気持ちいいと感じられる運動を行いましょう。心が安定したり、身体がぽかぽかと温まってきたりするのを感じながら、心地よくなることがアクティブレストの基本なのです。
先程もご紹介したように、アクティブレストとして最もおすすめなのはストレッチです。筋肉をゆっくりと伸ばすことで血流が良くなり、コリをほぐす効果が期待できます。痛いと感じるところは筋肉がコリ固まっている可能性がありますので、深い呼吸を繰り返しながらゆっくりと伸ばしていきましょう。具体的な部位別のストレッチ方法は、以下の通りです。
- 太もも
- 片方の脚を伸ばして床に座り、両肘を後ろの床につけながらゆっくりと上体を倒していく
- 前太もも全体の筋肉が伸びるのを感じながら10〜20秒伸ばし、反対側も同様に行う
- 太もも裏側
- 片方の脚であぐらをかき、ゆっくりと上体を前に倒していく。前側と同様に行う
- 腰
- 椅子に座って背筋を伸ばし、腰をひねるように回して脇腹〜腰の筋肉を伸ばす
- 回転できる範囲には個人差があるので、無理せず気持ちいいところまで。左右交互に5回くらい
- ふくらはぎ
- 立った状態で片方の足を一歩前に踏み出し、両足の裏をつけたまま後ろ側の脚のひざを伸ばし、前側の脚のひざを曲げる
- 後ろ側の脚のふくらはぎ〜膝裏が伸びるのを感じながら10〜20秒行い、反対側も同様に
- 肩と首
- 手を反対側の側頭部に置き、手の重みを利用して首を横に倒す(伸ばしている側の腕はリラックスさせておく)
- 首筋から肩にかけて伸びるのを感じながら、左右5回ほど行う
- 肩甲帯
- 片方の腕を後頭部に向かって曲げ、肘を引きつけるように20秒くらい伸ばす
- 肩背部
- うつ伏せに寝転がり、肘を伸ばして腕で身体を支え、背筋をぐっと反らせて伸ばす
- 股関節
- あぐらをかく要領で足の裏を合わせて身体の方へ引きつけ、上体を前に倒す
ストレッチの他にも、ウォーキングやハイキングなどの簡単な有酸素運動もアクティブレストにおすすめです。散歩よりもやや速めに歩き、肘を曲げて後ろに振ることを意識すれば、肩甲骨周りの筋肉が刺激されてより効果的です。もちろんいきなり走ったり長時間歩いたりすることは禁物で、まずは20分程度、身体がぽかぽか温かく心拍数が少し上がる程度を目安にしましょう。
週末などを利用してハイキングに行き、自然の中を歩いて風や木々・土の香り、木漏れ日などを感じて爽快感やリラックス効果を得るのもおすすめです。非日常の中に赴くことで、オンとオフのメリハリをつけて気持ちを切り替えることも疲労回復の助けになることでしょう。いきなり山などにいくのが心配だという場合は、アップダウンのある公園などから慣れていくのがおすすめです。
ハイキングでも散歩でも、外を歩くときには足に負担をかけないよう、ウォーキングシューズやビギナー用のランニングシューズを使いましょう。ソールが厚くクッション性があるので、衝撃を吸収してくれます。
疲れは、単純に筋肉を動かすことで起こるわけではありません。近年では、体内で発生した活性酸素が脳の神経細胞を傷つけ、自律神経が本来の機能を発揮できなくなることが疲れを感じる大元の原因だと考えられるようになってきました。休息しているはずなのになんとなく身体が重い、頭がすっきりしないといった疲労感を感じるのなら、脳と自律神経が疲れているせいかもしれません。
そんなときには、ぜひアクティブレストを行いましょう。ストレス過多で脳を酷使する情報化社会において、脳や自律神経が疲れやすいのは誰でも仕方のないことです。仕事のパフォーマンスを上げるためにも、日々を活動的に過ごすためにも、軽く動くことで疲労回復を促す「アクティブレスト」を取り入れてみてください。
おわりに:あえて筋肉を動かす「アクティブレスト」で、心身の疲れを解消しよう
精神的な疲れは脳の神経細胞を傷つけ、肉体的な疲れは筋肉に疲労物質を溜まらせてしまいます。これらを同時に解消できるのが、血流を良くして全身に酸素と栄養素を運び、老廃物の排出を促す「アクティブレスト」です。
アクティブレストでは、無理せず気持ちいいと感じられる運動を行いましょう。最もおすすめなのはストレッチですが、ウォーキングやハイキングなどの軽い有酸素運動も脳と身体の疲れを調整してくれます。
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