心身にストレスがかかると、身体や心にさまざまな影響が現れます。怒りで呼吸が荒くなるなどはよく知られていますが、ストレスがかかることで逆に眠くなることがあるのはあまり知られていないのではないでしょうか。
そこで、今回はストレスで急に眠くなってしまう症状についてご紹介します。ストレス以外にも考えうる原因や、ストレスで眠くなるのを予防する方法についても見ていきましょう。
ストレスで眠くなってしまうのはなぜ?
そもそもストレスとは、外部からの刺激(ストレッサー)によって、心身に何らかの反応(ストレス反応)が起きている状態のことを指します。ストレッサーには、大きく分けて以下の5種類があります。
- 物理的ストレッサー
- 太陽光の紫外線、工事現場で発生する騒音、冷暖房で身体が感じる寒暖差などの環境的刺激
- 化学的ストレッサー
- 飲酒によるアルコール摂取、喫煙によるニコチン吸収などで受ける刺激
- 生物学的ストレッサー
- ウイルスや細菌などの病原体が体内へ侵入することによる刺激
- 社会的ストレッサー
- 情報過多な過密生活、家庭環境、職場での人間関係など
- 精神的ストレッサー
- 対人関係で生じる不安や苛立ち、悲しみ、仕事に対する緊張や焦り
こうしたさまざまなストレッサーに対し、身体は以下のようなストレス反応を引き起こします。
- 身体に現れるストレス反応
- 頭痛、腹痛、肩こり、めまい、肌荒れなど
- 胃潰瘍、過敏性腸症候群、高血圧症など
- 精神に現れるストレス反応
- 不安、気力・意欲・判断力・集中力の低下など
- うつ病、不安障がい、睡眠障がいなど
ストレッサーに接すると、ストレスホルモンの一種「アドレナリン」や「コルチゾール」が分泌され、循環器や消化器、呼吸器などの活動を制御している「自律神経」という神経系のうち、日中の活動を司る「交感神経」が活性化されます。すると、身体面と精神面の両方にさまざまな反応「ストレス反応」が現れます。
ストレスが溜まると、脳から「コルチコトロピン(CRH)」というホルモンが分泌されます。このホルモンは睡眠を抑える作用がありますので、ストレスが溜まっていると寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりして睡眠不足の状態になります。睡眠不足の状態が続くと、本来は睡眠によって解消されるはずの疲労物質(睡眠物質)が脳に溜まり、常に睡眠を促すようになってしまいます。こうして、日中でも強い眠気を感じるようになってしまうのです。
緊張で急激な眠気に襲われる「ストレス性睡眠発作」って?
ストレスを感じたり、緊張を強いられたりする場面で突発的な眠気を生じ、自己コントロールが効かなくなってしまう症状を「ストレス性睡眠発作」と呼びます。大切な場面で眠りに落ちてしまうため、発作があることを知らない周囲の人からは理解できないもの、しがたいものとして映ってしまいます。
一般的に、緊張やストレスを受けると最初にご紹介したように、ドーパミンやノルアドレナリンなど、興奮をもたらすホルモンの働きによって、眠れなくなったり眠りが浅くなったりしてしまうものです。しかし、ストレス性睡眠発作を引き起こす場合は、逆に急激な眠気が生じ、実際に入眠してしまうという矛盾した状態を引き起こします。
ストレス性睡眠発作が起こる具体的なメカニズムは明らかになっていませんが、ストレスは危険を知らせる身体からのシグナルである、と考えると、何らかの不安要素が作用して、緊張した身体を休めようとする危機回避のシステムから「眠る」という反応が起こっているのではないか、とされています。
このように緊張感から眠気に襲われる場合、幼少期の親との関係性や心理的なトラウマについて考えてみると解決の糸口が見つかるかもしれません。叱りつけていた子どもの瞼が重くなり、ばたんと眠ってしまう様子を何度も見た両親が、専門医に相談したというケースもあるようです。
親からの度重なる強い叱責、言い返せない我慢や恐怖心が心の中に残っていたり、現在でも他人の感情や言葉に敏感で、苦手な場面を受け流すことができず、自分の存在を否定しがちになっていたり、という人に発作が起こりやすい傾向にあるようです。
ストレス性睡眠発作はこうした根本的なストレスやトラウマが原因だと考えられますが、発症した本人は何が根底にあるのか気づいていない場合も多く、自分の感覚や感情に自ら気づかないようにするなど、自己防衛本能が働いている可能性があります。しかし、無意識に身体は自分を守ろうと睡眠の発作を起こしている、という状態がストレス性睡眠発作なのではないでしょうか。
昼間の眠気、ストレス以外の原因は?
ストレスによる睡眠の質の低下、ストレス性睡眠発作などのほか、別の疾患が原因となって昼間の強い眠気を引き起こす場合もあります。
- 睡眠の質・量に問題がある
- なかなか寝つけない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目覚めてしまう
- 寝ても寝ても眠い
- 睡眠の時間帯に問題がある
- 夕方から眠って夜中に起きたり、明け方まで眠くならず昼頃まで起きていられなかったりする
- 社会生活上、望ましい時間に寝起きができないというもの
- 交代勤務などで、体内リズムと睡眠・覚醒のリズムが崩れて起こると考えられる
- 睡眠中の異常現象
- 睡眠中の異常な行動や運動、呼吸の異常など
- 睡眠関連疾患:不眠症、過眠症、ナルコレプシー、睡眠時無呼吸症候群、睡眠相後退症候群、レム睡眠行動障がい、周期性四肢運動障がいなど
- 精神疾患に伴う睡眠障がい:不安障がい、うつ病などが原因で不眠や過眠が起こる
- 薬の副作用、生活習慣の乱れなどが関係する場合も
もし、睡眠時間を十分にとっているのに昼間の眠気が強く、仕事中に居眠りをしてしまうという場合は、以下のセルフチェックを行ってみましょう。これは「エップワース眠気尺度」と呼ばれるテストで、主観的な日中の眠気を測定できます。世界中の医療現場で広く用いられていることからも、非常に信頼性の高い眠気評価だと言えます。
最近3ヶ月間の平均的な状態として、下記の項目についてそれぞれ「うとうとする可能性はほとんどない」を0点、「うとうとする可能性は少しある」を1点、「うとうとする可能性は半々ぐらいである」を2点、「うとうとする可能性が高い」を3点とし、合計点数を算出します。普段やらないことは、そうした場面になったらどうなるかの想像で構いません。
- 座って何かを読んでいるとき
- 座ってテレビを見ているとき
- 人が大勢いる場所(会議中、映画館など)で座っているとき
- 他の人が運転する車に、1時間続けて乗っているとき
- 午後、横になって休んでいるとき
- 座って人と話しているとき
- 昼食後、静かに座っているとき(※飲酒はしていない)
- 座って手紙や書類などを書いているとき
合計点数が11点以上になった場合、日中の眠気が強いと判断されます。専門医の診療を受けましょう。ただし、11点に満たなくても、慢性的ないびきをかく人や、睡眠時に呼吸が止まる人、日中頻繁に眠気を感じる人などは睡眠時無呼吸症候群の可能性がありますので、点数に関わらず早めに病院を受診しましょう。
この検査方法はあくまでも簡易的なものですから、本人の心理状態によっては眠気を過大評価したり、過小評価したりしてしまう可能性があります。得点が実情に見合わないと感じたときは、客観的に本人の眠気を評価できる家族などに協力してもらうか、専門医を受診してPSG(睡眠ポリグラフィ)検査などを受けるのがおすすめです。
ストレスで日中眠くなるのを予防するにはどうすればいい?
ストレスによる日中の眠気を予防するためには、根本的な原因であるストレスを解消するのが良いでしょう。ストレスとはストレッサーに対してストレス反応が起こっている状態である、というのは最初にご紹介しましたが、そのストレス反応を軽減させ、リラックスできるための方法を最後にご紹介します。
すぐに行えるリラックス方法として、自律神経のうちリラックスを司る「副交感神経」を活性化する呼吸法があります。ストレスが溜まって交感神経が活発になると呼吸が浅く速くなってしまいますので、意識的に呼吸をゆっくり深く行うことで交感神経の働きを抑えられます。今回は、「ゆるめる呼吸」と「歩く呼吸」の2つを見ていきましょう。
- ゆるめる呼吸:イライラした心を整える
- 肩を持ち上げながら、鼻からゆっくり息を吸う
- これ以上息が吸えないというところに来たら、「ハアー!」と声を上げながら一気に吐き出しながら、肩を落とす
- ※息を吐くとき、野太い声を出すことがポイント
- 歩く呼吸:気持ちを切り替えてぐっすり眠る
- 息を吐きながら歩き出す
- 息を十分に吐ききったら、少しだけ息を止める
- 力を抜いて、自然と入ってくる息を鼻から吸う
- ※歩きながら、息を吐いて吸ってと繰り返す。呼吸をしながら歩数を数えるとよい
「ゆるめる呼吸」では、吐くときに一緒に声を出すため、多くの腹式呼吸とは順番を変えています。野太い声としているのは、高い声よりも身体をゆるめてくれる働きが大きく、全身に声の響きを伝えてくれるからです。このように、声の余韻や響きを感じることが心を整えるのに有効で、過去のイヤなことに対するイライラや、未来に対する不安などから意識を「現在」に引き戻してくれます。
「歩く呼吸」では、職場から駅まで、駅から家までなどで歩くときに一緒に行うと効率的です。例えば、応援歌などで使われる「3・3・7拍子」を使い、7拍子からスタートして息をゆっくり長く吐き、次の3拍子で息を止め、その次の3拍子で息を吸う、というようなリズムを作るとやりやすいでしょう。
歩く呼吸は、意識のスイッチを仕事モードから休息モードに切り替えてくれます。あえて歩数を数えながらリズムを作ることで、歩くことと呼吸することだけに集中でき、それまで頭の中でぐるぐると回っていた問題を断ち切れます。仕事での気がかりや、職場で起きたイヤなことをいったん頭から消し、気持ちをリセットしましょう。
寝つきを良くするためにできることは?
ストレスが溜まった状態では、よく眠れなかったり寝つきが悪くなったりして日中の眠気が出やすいことを最初にご紹介しました。そこで、寝つきを良くして睡眠の質を高めることで、日中の眠気を予防するための方法を見ていきましょう。まずは、寝る前に行うと全身の緊張を解すことができる「筋弛緩法」です。
- 仰向けになり、全身の力を抜く
- 両手を思いきり強く握り、5秒間キープする
- 一気に力を抜き、30秒間リラックスする
- 1〜3を2、3回繰り返す
筋肉に力を入れて交感神経を活発にし、その後で力を一気にゆるめると、副交感神経を活発にすることができます。また、力を入れたり抜いたりすることを繰り返すと、身体の力を抜いてリラックスする感覚がつかめます。
また、食事を就寝の3時間前までに済ませておくこと、就寝の1時間前に入浴することも心がけると良いでしょう。就寝時に胃の中に食べ物が残っていると、胃腸に負担がかかったままとなり、眠りが浅くなってしまいます。消化にかかる時間を考え、就寝の3時間前までには夕食を食べておきましょう。
入浴は、就寝の1時間くらい前に20〜30分間、39〜40度くらいのぬるま湯につかるのがおすすめです。湯船で温まると身体の深部体温がいったん上がりますが、1時間くらいをかけてゆっくり下がっていきます。深部体温が下がるとき、自然な眠気を感じやすくなりますので、入浴の時間に注意しましょう。また、湯船につかって血行をよくすると全身の筋肉の緊張が解け、副交感神経が優位に働きやすくなります。
ストレスを抑える「セロトニン」を増やそう
ストレスを抑えるホルモン「セロトニン」を増やすのも、ストレスによる睡眠障がいに有効です。最も良いのは運動で、階段の上り下り、散歩など筋肉を規則的・継続的に動かす有酸素運動が良いでしょう。また、背中・太もも・ふくらはぎなどの筋肉を鍛えるヨガやストレッチでも脳に刺激が加わり、セロトニン分泌が促されます。
運動をする時間がなかなかとれないというときは、以下のような方法でもセロトニンの分泌を増やすことができます。
- 食生活の改善
- セロトニンは、アミノ酸の一種「トリプトファン」や「ビタミンB6」から作られる
- トリプトファンが含まれる食品:牛乳やヨーグルトなどの乳製品、豆腐や納豆などの大豆製品
- ビタミンB6が含まれる食品:刺身や焼き魚などの魚料理
- サプリメントの服用
- 食事だけでセロトニンを補いきれないときは、サプリメントの摂取もおすすめ
- 天然ハーブの一種「セントジョーンズワート」がセロトニンの生成を促す
- 朝に太陽の光を浴びる
- 午前中に太陽の光を浴びるとセロトニンが分泌されるので、朝起きたら太陽の光を浴びる
- 朝にセロトニンが分泌されると、夜に睡眠ホルモン「メラトニン」が十分に作られる
どうしても眠くなってしまうときの対処法は?
上記のような対策を行っていても、どうしても眠くなってしまうときは一時的な対処を行うのも良いでしょう。例えば、以下のような方法があります。
- 1分間仮眠する
- 椅子に深く腰掛け、1分間目を閉じる
- 目を閉じて脳に入ってくる情報を遮断し、脳を休ませて疲労回復する
- ガムを噛む
- 顎の筋肉の収縮と弛緩が周期的に繰り返されるので、一定のリズム運動になる
- 神経細胞の働きが活発になり、脳や身体が目覚める
- 明るい場所で光を浴びる
- 強い光は睡眠ホルモン「メラトニン」を減少させ、眠気を和らげる
- 背筋を伸ばす
- 体温が上がり、全身が「活動モード」になるため活発に動けるようになる
- 背中には長時間安定的にエネルギーを発生させる「遅筋(ちきん)」が集まっている
- 耳を引っ張る
- 耳には100以上のツボがあるとされ、特に耳たぶのツボは軽く揉むと身体が温まり、眠気が取れやすくなる
- 両手で左右の耳たぶを持ち、下にゆっくり3秒引っ張ったらぽんと放す動作を4〜5回繰り返す
- 仕上げに耳全体を揉んだり、上下・左右・斜め方向に引っ張ったりすると耳全体のツボが刺激されてより効果的
- カフェインを摂る
- コーヒーや緑茶などに含まれるカフェインは、脳に溜まった睡眠物質の働きをブロックし、眠気を払う
ただし、これらの方法はあくまでも一時的に眠気を払うだけで、根本的な解決方法ではありません。あくまでもメインは呼吸法や筋弛緩法などでリラックスして睡眠の質を高めたり、ストレスを軽減する「セロトニン」を増やしたりすることを行い、一時的な対処法は補助的に使っていきましょう。
おわりに:ストレスによる日中の眠気は、睡眠の質を上げて対処しよう
ストレスによって我慢できない日中の眠気が起こる場合、多くはストレスで寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりして、十分な休息がとれていないと考えられます。そこで、リラックスして熟睡できるような工夫をしたり、ストレスを軽減させる「セロトニン」というホルモンを増やしたりしましょう。
ストレスで突然入眠してしまう「ストレス性睡眠発作」の場合、根本的なトラウマなどが考えられます。専門医に相談してみましょう。
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