ストレスで食欲不振になる人もいますが、逆にやけ食いや過食に走ってしまう人もいます。いずれも適切な栄養補給という観点から見れば、良いことではありません。では、ストレスによるやけ食いや過食は、どこからが危険なラインと判断すべきなのでしょうか。
今回は、ストレスで食べてしまう現象について、やだの食べ過ぎと過食症の違い、長引いたときの危険性、防ぐための対策などについてご紹介します。
- この記事を読んでわかること
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- 過食症とただの食べすぎの違い
- 過食症の特徴とチェックポイント
- 過食症のリスク
- ストレスによる食べすぎや過食症を防ぐ対策
ストレスによる過食症とただの食べすぎの違いとは?
人間にとって「食べる」という行為は、空腹を満たしエネルギーを補給するという生理的な役割はもちろん、楽しみや喜びを与えてくれる役割も持っています。食べるのが好きな人、食べ歩きが趣味の人はたくさんいるでしょう。思わずやけ食いをしてしまうことや、ついつい美味しくて食べすぎてしまった、という経験を持つ人も少なくありません。
しかし、もちろんそれらは一時的な食べすぎではあれど、「過食症」ではありません。「過食症」を疑うべきなのは、以下のような状態になったときです。
- 本人が精神的・身体的に強い苦痛を感じている
- 食べ物の内容や時間帯、食べ方を自分でコントロールできない
- 生活や健康状態に明らかな支障をきたしている
- 食べ物にお金を使いすぎて、経済的に困っている
- 食べすぎた後に自分を責めたり、抑うつ状態に陥ったりする
- 食べすぎる以外にも、精神的な不調を感じている
基本的に食べすぎも身体に良いわけではありませんが、もともと胃腸が丈夫でエネルギー代謝がよく、ときどき食べすぎても適度な方法でコントロールでき、健康に支障が出るほどでないのなら、それは大きな問題ではありません。たまに美味しいものをお腹いっぱい食べて、また翌日から元気に頑張れるというのであれば、単なるストレス解消法として考えて良いでしょう。
しかし、食べすぎが日常的になり、しかもそれが明らかに自分の身体の許容量や活動量を超えた状態なのに止められないという場合は、精神的にも肉体的にも大きな支障をきたすことになります。特に、食べすぎる自分を責めてしまったり、食べすぎた後に抑うつ状態に陥ったりするようなら、過食症の可能性が高いと考えられます。
しかも、過食症は自分でコントロールができないため、食べ物にかけるお金によって経済的に苦しくなったり、食べることに時間と体力を費やしてしまうため仕事や約束に知得してしまったり、身体がだるくなって必要な家事ができなくなったりしてしまうようであれば、生活や健康にさまざまな問題が生じます。
ストレス解消やたまに自分にご褒美、というのであれば、好きなものを好きな時間帯に食べるはずです。しかし、過食症の人は食べ物をより好みすることも、時間帯を選ぶこともできません。過食の衝動が訪れると、目の前にある食べ物に手を出さずにはいられず、仕事中や外出中でも我慢できず口に入れてしまうのです。
過食症の人の多くは、ほとんど噛まずに飲み込んだり、何かに取り憑かれたように味もわからないまま詰め込むように食べたりしてしまいます。重度になると、お店の品物や人のものを盗んだり、落ちている残飯を拾い食いしたり、カレールーやケチャップ、バター、冷凍食品、生米などをそのまま食べてしまったりします。
このような状態になると、当然身体も耐えきれなくなり、本格的な内臓病に進行したり、歯がボロボロになったりしてしまうこともあります。そんな段階まで進行してしまうと、嘔吐を伴うこともあり、過食と嘔吐がセットになると一日中を食べて吐くことだけに費やしてしまい、健康やお金はもちろん、社会生活も失ってしまうことになりかねません。
もっとも、ここまで重症に至ることは稀ですが、その前段階として「精神の不調を伴う苦しい食べすぎ」という軽度な過食症の状態があります。過食症は長引くほど依存の程度や合併症が増えて治療が大変になっていきますので、できればこの軽度な段階で何らかの対処を行いたいものです。
過食症の根底には他の精神的な疾患や、発達障害・パーソナリティ障害などの生きづらさが隠れている場合もあります。食べすぎてしまう以外にも抑うつ状態や気分の浮き沈み、眠りづらさ、ストレスの多さなどを感じた場合、自分の心を振り返るとともに、精神科や心療内科などの専門家に相談してみましょう。
過食の量には個人差がありますが、基本的に本人が普段食べる量や胃腸の許容量と比べて明らかに多すぎると感じる量は過食と言えます。例えば、「食事以外に菓子パン3個」「クッキーの大箱を1回に1つ食べてしまう」「コンビニで数千円使うほどの量」などさまざまです。もともとが少食か大食か、体型や胃の許容量などによっても過食と感じる量は異なりますので、量そのものというよりも、本人が苦痛なのに食べている状態かどうかをチェックしましょう。
どんな状態だと過食症の可能性があるの?
過食症(過食性障害、むちゃ食い障害)とは、摂食障害と呼ばれる食事に関する疾患のうち、体型へのこだわりは並か低く、食べ物や食事への依存が中心とした症状のことを指します。年齢・性別・体型へのこだわりに関わらず発症し、一般的な「太りたくない、過食で太って辛い」という気持ちはあったとしても、無茶な嘔吐や下剤などで抵抗しようとしたり、病的に「痩せ」や「体重」にこだわったりすることはありません。
ただし、ダイエットの反動として過食が起こってしまった場合や、それなりに痩せたいという願望がある若い女性が過食症にかかった場合、過食が止まらないと嘔吐に走ることがあり、注意が必要です。過食症は過食のみの場合よりも、過食嘔吐になった場合の方が症状が悪化しやすく、非常に抜け出しにくくなってしまいます。
また、過食症の亜種として夜間だけに食べてしまう「夜間食行動異常症候群」というものもあります。この場合、過食の症状が現れるのが夜間だけであり、夕食後〜睡眠にかけて過食してしまうため、過食しないと眠れないタイプや、就寝後に覚醒して半分寝ぼけたように食べてしまうタイプがあります。
過食症の特徴は最初にも「本人は精神的・肉体的な苦痛を感じている」「自分でコントロールできない」などをご紹介しましたが、他にも以下のような特徴が見られることがあります。
- 普通の食事よりずっと速いスピードで食べてしまう
- 食事の時間や空腹とは無関係に衝動的に食べてしまう
- あるものを食べ尽くすまで止まらない
- 食べるものがなければ、買い出しに行ってでもたくさん食べてしまう
- いつも食べ物のことを考えてしまう
- 常に食べるものが手近にないと落ち着かない
- 食べる量が異常だと悩んでいるため、人から隠れて食べる
過食の衝動は通常の食欲とは異なりますので、我慢しようという意志の力ではどうにもなりません。そのため、内容や時間帯すらも選ばず、異常なスピードで食べ物を詰め込むように食べてしまったり、目の前に食べ物があると際限なく食べてしまったりします。しかも、これらの症状は同じものがずっと続くとは限りません。
普段は一般的な食事ができている人が、週に何回か過食の症状が出てしまうという場合もありますし、普通の食事をした後、衝動的に過食をしてしまうという場合もあります。重症になると、普段の食事も過食となっていきますので、人前で食べるのは恥ずかしいからと我慢するものの、トイレなどに駆け込んで過食をすることが日常的になってしまう人もいます。
ですから、後述する過食症の診断基準に当てはまらなくても、以下のような状態があれば心や脳の疲れ、過食症の始まりのサインかもしれません。
- お腹が苦しくなっても、食べるのをやめられない
- 常に食べ物を口にしていないと落ち着かない
- これまでの自分と比べ、明らかに食べすぎることが増えた
- いつも食べ物のことばかり考えてしまう
- 異常に食べすぎているのではないかと悩んでいる
うつ病などの病気の始まりも、食欲低下ではなく過食が症状として現れることもあります。食べすぎる以外に眠れない、寝つきが悪い、夜中や早朝に目覚めてしまう、気分の浮き沈みが激しい、頭痛やめまいに悩まされている、何らかのストレスを抱えていて一人での対処が難しいということであれば、精神科や心療内科に相談してみましょう。
過食症の診断基準ってどんなもの?
医学的には、アメリカ精神医学会のDSM-5という診断基準を目安に診断されます。具体的には、以下のA〜Eの基準に当てはまれば過食症と考えられます。
- A:以下のような衝動的な過食行為が見られる
- 普通の食事以外に、一般的に見て明らかに多い量を食べる
- 過食の衝動は空腹に関わらず、自分で食べるスピードや量、内容をコントロールできない
- B:過食には、以下の特徴のうち3つが見られる
- 異常に速いスピードで食べる
- お腹が苦しくなっても止められない
- 空腹を感じていないのに、大量に食べてしまう
- 過食している自分を見られたくなくて、人目を避けて食べる
- 食べた後に自分を責めたり、抑うつ状態になったりしてしまう
- C:過食の行為により、明らかに強い苦痛を感じている
- D:過食の行為は、3ヶ月以上の期間に及んでいて、平均して週1回以上ある
- E:過食は神経性過食症(肥満恐怖の強い過食症)のように、排出行為(過食によって太らないよう嘔吐や下剤の乱用、過剰な運動、絶食など)を伴わない
- 神経性やせ症(拒食症)の反動でのみ過食が起こっているわけではない
とはいえ、実際にはさまざまな病態がありますので、必ずしも厳密にこの基準に当てはまらなくとも、実際の診療では患者さんの心理状態や生活状況などを鑑みて、過食が病的かどうかを判断していきます。ですから、この基準に当てはまらないからと油断せず、おかしいと思ったらぜひ一度病院で診察を受けてみましょう。
過食症が長引くとどんな危険がある?
過食症が長引くと、心身ともにさまざまな合併症が生じる可能性があります。代表的なものはうつ病や生活習慣病、臓器障害などが挙げられます。
- うつ病(抑うつ状態)
- 多くの場合、過食後は抑うつ状態になったり、無気力になったりする
- 過食中は頭が真っ白になったり、夢中でやったりしているが、終わった後は急速に虚しくなる
- 上記のアップダウンが繰り返されるうち、ものごとへの意欲や関心を失い、身体が重たくなることもあり、活動力が低下していく
- うつ状態が酷くなると過食も増す傾向があるため、悪循環に陥ってしまいがち
- 生活習慣病
- 過食で食べるのはパンなどの主食類、高カロリーのお菓子やジャンクフードなどが中心になるケースが多い
- 食べ続けていると高中性脂肪・高コレステロール・高血糖・塩分過多による高血圧などの生活習慣病を引き起こしやすくなる
- 胃腸障害
- お腹が苦しくなるまで食べる状態が続くと、胃腸は常に重たく、消化能力も低下する
- 衝動的な食べ方から、胃腸炎や食道炎を引き起こすこともある
- 肝障害・腎障害
- たくさんのものを食べると、それを処理するために肝臓も腎臓も休めない
- 肝臓や腎臓への負担増加から、肝障害や腎障害に及ぶことも
- アルコール依存症
- もともとお酒を飲む習慣がある人に過食衝動が加わると、アルコール依存症と過食症が合併してしまう可能性が高くなる
- この場合は、過食症の前にまずアルコール依存症の方に早急な対処が必要
このように、過食症がきっかけとなって起こる合併症はさまざまであり、中には生活習慣病や肝障害・腎障害など、取り返しのつかない疾患に進行してしまう可能性もあります。過食症が比較的軽度なうちに、早めの対処が重要です。
ストレスによる過食、やけ食いを防ぐための対策は?
ストレスによる過食を止められない原因には、「セロトニン」という精神安定をもたらすホルモンが関係しています。ストレスホルモンが過剰に分泌されると、セロトニンが不足してしまうため、食べるという行為によってセロトニンを分泌させようしてしまうのです。こうして食べすぎると、「自分で自分をコントロールできなかった」と、さらにストレスが溜まってしまいます。
そして増えたストレスを再び食事でなんとかしようとし、また食べて食べすぎる、という過食の悪循環に陥ってしまいます。仕事での緊張もストレスの原因になりえますので、仕事中は欲求や感情を抑えているものの、家に帰るととたんに食欲を解放できてしまい、食べすぎてしまうという人も少なくありません。
つまり、食べることしかストレスを発散する方法がないから食べている、と考えられます。そのため、過食の傾向がある人は、まず自分がストレスを溜めてしまっている、ということを自覚し、食欲で紛らわそうとするのではなく、悩みやストレスにまっすぐ向き合ってみましょう。自分の弱さや現実を見つめることは難しくとても苦しいものですが、目を逸らさず向き合うことで爆発的な食欲を抑えられるかもしれません。
なぜストレスを感じているのか自問自答したり、ノートに感じている違和感を書き出したりして、抑えていた気持ちを吐き出しましょう。気持ちをぶつける場所があれば、過食せずに済むかもしれません。また、以下のような方法でストレスを発散するのもおすすめです。
- 規則正しい生活をする
- 精神安定に関わる「セロトニン」は、午前中に陽光を浴びることで分泌される
- 起きたらカーテンを開けて朝日を浴び、朝食を食べ、昼食・夕食もよく噛んで食べる
- 支度ぎりぎりに起きると、カーテンを開けて朝日を感じる暇がない
- 夜に食べすぎてしまうと朝になってもお腹いっぱいで、抜かしてしまうことが多いため注意する
- 「噛む」ことがセロトニンの分泌につながるため、3食しっかり噛んでセロトニン分泌を活性化させる
- 軽い運動をする
- リズム運動はセロトニンを活性化させるため、習慣にできそうな軽い運動を取り入れる
- ランチの後半20分は付近を散歩したり、日曜朝は太陽を浴びながら散歩したりする
- 時間がないと思っていても、このくらいのスキマ時間は以外と見つけやすい
- ぐったり疲れない程度の軽い運動をして、ストレス解消を
- 充分な睡眠をとる
- 食べすぎから眠れなくなったり、疲れが溜まったり、さらに食べたりしてしまう悪循環に陥ることも
- 睡眠不足は精神的にも身体的にも大きな負担がかかり、ネガティブになってしまいがち
- 夜中に食べたいと思ったら寝てしまう、家についたらすぐお風呂に入って寝る準備をしてしまうなどの対処が有効
- 充分な睡眠が習慣になれば、集中力が上がって仕事のストレスも少なくなるかも
- 自分に合ったストレス発散法を見つける
- 呼吸を整える、掃除をする、お風呂に入る、読書をする、カラオケに行く、音楽を聞くなど
- おすすめは「食べたい」と思ったとき、サッとできる発散法
- ストレスを発散できて、さらに「食べなかった」という自信や達成感につながる
また、以下のように食べることそのものにも気をつけると、より過食に陥りにくいと考えられます。
- 幸せを感じながら食べる
- 食べるときは「また食べてしまった」という罪悪感で余計にストレスを溜めない
- 幸せと感じながら食べられるよう、少し高くて量の少ないものを食べる
- 一人でも食べる前に「いただきます」と言い、五感を使って味わう
- 食事は身体にとっても心にとっても栄養なので、1回ごとに幸せを感じることが重要
- 食べたものを記録する
- 客観的に自分の食生活を見つめ直すため、食事日記をつける
- 食べた量や、栄養の偏りなどを見つけやすい
- 漠然と「食べすぎている」と思うより、どこを直すべきか見えるので対策を立てやすい
- 自分がどれだけ食べているのか直視するのは怖いかもしれないが、まずは1日つけてみよう
- 誰かと一緒に食べる
- 普段の食事から食べすぎてしまう場合、友達を誘って一緒にご飯に行くとよい
- 量やペースを相手に合わせたり、「美味しいね」と言いながら味わって食べたりする
- 楽しく会話をしながら食べれば、心も満たされて過食しにくい
食事は、本来楽しくて幸せなものです。「食べてしまった」という罪悪感はストレスを増やし、さらに過食に走る悪循環に陥ることもあります。ですから、食べるときにはできるだけ幸せを感じながら食べられるよう、量が少なく高い美味しいものを味わって食べるようにしたり、友人と楽しく話しながら食べたりすると良いでしょう。
おわりに:ストレスでの過食は「自分でコントロールできるかどうか」が分かれ目
ストレスからやけ食いをしてしまうという人は少なくありませんが、その内容や時間帯を自分でコントロールでき、もともと胃腸も丈夫で、健康を脅かすほどの食べ過ぎでないならそれほど心配はいりません。
しかし、過食症となると自分で衝動をコントロールできなくなり、目の前に食べ物があるとなくなるまで食べ続けてしまいます。過食が重症化する前に、ストレスで食べすぎることが続くようなら、一度食生活を見直してみましょう。
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