人間関係は、ストレス社会と呼ばれる現代社会においてさまざまなストレス要因がある中でも、人間が感じるストレスの大きな原因の一つです。生きている以上、人間関係のストレスを完全にゼロにすることはできませんが、負担にならない程度に減らすことは可能です。
そこで、人間関係のストレスから抜け出すための対処法を詳しくまとめました。人間関係に悩んでいる全ての人にお届けします。
- この記事を読んでわかること
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- 人間関係によるストレスの種類
- 人間関係のストレス「自分側の原因」
- 人間関係のストレス「環境的な要因」
- 人間関係のストレスを回避につながる考え方のコツ
- 人間関係のストレスの解消法
人間関係のストレスにはどんなものがある?
人間関係によるストレスにはさまざまなものがあり、最近では子どもでも人間関係のストレスからは逃れられないとされています。具体的な人間関係としては「家庭での人間関係」「友人との関係」「職場での人間関係」の3つが挙げられます。それぞれの場所で起こるストレスを詳しく見ていきましょう。
家庭での人間関係
家庭でのストレスは、親や子ども、パートナーといった毎日顔を合わせる間柄に加え、親戚づきあいなども含まれます。お互いに身内であるという連帯感は、裏を返せば言いたいことがなかなか言えない、逆に気遣いを忘れてしまうといったように、なかなか心地よい距離感を保つことができない関係にもなりかねません。
一つ一つのストレスは些細なことでも、顔を合わせる機会が多ければストレスが蓄積されていくスピードも早く、気づけば大きなストレスとなって心身の負担になっていることもあるでしょう。友人関係であればストレスが限界に達した時点で距離を置くこともできますが、家族ではそうもいかないことが余計にストレスを増幅させてしまうこともあります。
友人との関係
友人関係のストレスは、家庭での関係とはまた違った複雑さを持っている場合が多いです。例えば、ある友人の行動が気に入らなかったり、必要以上にプライベートに踏み込まれて嫌気がさしたり、ときには嫌がらせのようなことをされてしまったりと、大きなものから小さなものまでさまざまなことが考えられます。
友人関係は家族関係とは異なり、付き合いをやめてしまえばストレスもなくなるものですが、同じ学校や同じクラスの出身だったり、長年続けてきた趣味の集まりだったりすると、そう簡単に友人づきあいをやめてしまえるものでもありません。そのような場合は、やはり家族関係と同じように「ストレスがあるのに付き合いをやめられない」というストレスを溜めることになってしまいます。
また、現代では互いに顔を合わせなくても、身元がわからなくても、スマホやパソコンなどを通じてインターネット上で気軽に会話ができます。無理に対面でなくても良い、無理に会話を続けなくても良い、といった気軽な関係性に慣れてしまっていると、実際に人と会ったときに良好なコミュニケーションをとれず困ってしまう人もいるようです。
このような人は最近増えてきているともされ、対面関係での友人を作れないというストレス、友人との付き合い方がわからないというストレスなどを感じている人は口に出さなくても多いと考えられます。
職場での人間関係
職場での人間関係は、友人関係よりも利害が絡んでいるぶん、さらに複雑になりやすい傾向があります。もちろん、働いている以上は円滑で平和に過ごしたいと思っている人が多いでしょうが、人と人が集まった場所には必ず感情が発生しますので、ロボットがライン作業をするように簡単にはいかないものです。
同僚や上司、部下との業務上のちょっとしたやりとり、取引先とのつきあいなど、気遣いからくる疲れがストレスになってしまうことは少なくありません。セクハラやパワハラ、アルハラ(お酒の強要)などはまだまだ日本では多く、うまくかわせたとしても嫌な感情は後を引きやすいものです。
また、あるプロジェクトでは一緒になった仲間同士でも、何か問題が生じたり、配置換えがあったりすると簡単に関係が変わってしまいます。付き合いを全くなくすわけにはいかないけれども、転職するほどのストレスではないと思ってしまう場合、あるいは転職するには条件などで折り合いがつかないといった場合は、ストレスを抱えながら仕事を続けることになるでしょう。
ブラック企業が問題となって久しいですが、そうでなくても職場で過ごす時間が一日の大半を占める人も多く、休憩時間以外は業務に集中して過ごさなくてはなりません。つまり、職場は過ごす時間が多ければ多いほど、ストレスが溜まりやすい環境なのに、そこで長い時間を過ごさなくてはならない場所と言えるのです。
人間関係のストレスの原因は自分にもある?
最初に非常にネガティブなことをお話しましたが、言い換えれば人間関係のストレスからは誰も逃れられないとも言えます。程度の大小という差はあれど、人間としてこの世に生まれた以上、人間関係でストレスを感じることそのものは避けられないのです。しかし、世界には人間関係のストレスが深刻化してしまう人と、深刻化しにくい人がいます。
この違いはいったい何なのでしょうか。まずは、人間関係のストレスが深刻化しやすい、ストレスを溜めてしまいやすい人の特徴を5つ見ていきましょう。
- 完璧主義である
- 熱心で理想が高く、内心では誰にも負けたくないと頑張りすぎてしまう人が多い
- 全てを完璧にこなそうとするあまり、心の余裕がない
- 些細なミスが気になってしまい、自分や周囲を追いつめてしまう
- さらに、小さなことを考えすぎるなど、失敗をずっと引きずりやすい
- 結果、「ミスをしない」ことだけを意識しすぎて、集中力を欠き、失敗しやすくなる
- 人に頼れず、自分で抱え込みすぎてストレスも溜め込んでしまう
- 内向的な人も多く、人付き合いが苦手でそのストレスも抱えやすい
- NOが言えない、周囲を優先しすぎる
- 人に対して「NO」を言えない人は常に自分の意見を押し殺しているため、ストレスを溜め込みやすい
- 体調が悪くても飲みに誘われたらOKしてしまう、残業を頼まれたら頑張りすぎてしまうなど
- その場の空気は読めるし、よく気が利いて仕事をこなし真面目だが、我慢しすぎる
- 自分のことがいつも後回しなため、我慢が積もりに積もって限界を超えると、体調を崩してしまう
- 神経が細やかである
- 周囲にどう思われるかを気にしすぎてしまう人も、ストレスを溜め込みやすい
- 周囲から見えない部分で常にプレッシャーを感じ続けている
- 自分とは違う無神経なタイプの人に対して苛立ちを感じ、それがストレスになる人も多い
- 感受性が豊かである
- 他人の苦しみを自分のもののように捉えてしまったり、相手の言った些細な言葉が頭から消えず一日中そのことで悩んだりしてしまう
- 自分が怒りを感じるようなことがあっても、相手が傷つくかもしれないと黙ってしまう
- ストレスを大きく受けることと、我慢によるストレスで深刻化しやすい
- 地位や肩書きに依存している
- 会社で役職に就くとその地位を保持するため、自分を押し殺してしまう人など
- 仕事以外に趣味がなく、気分転換が上手くできないタイプの人も多い
このように傾向を細かく見ていくと、「自分に求めるものを相手にも求めてしまう、理想主義な人」や、「自分さえ頑張れば、我慢すれば上手くいく、と自分を犠牲にしてしまう人」などが特にストレスを溜め込みやすいと言えるでしょう。「〜べき」「〜ねばならない」と口に出してしまったり、考えてしまったりするタイプの人は要注意です。
また、周囲の反応が気になる、他人の発言ひとつで一喜一憂してしまう、といったように神経が細やかで感受性が豊かなタイプの人もストレスを溜め込みやすい傾向にあります。人間関係とは、一度の失敗がすぐに大きなストレスに発展することは少なく、たいていは小さなストレスの積み重ねが限界を超えて大きな問題に変化してしまうものです。
ということは、ストレスが深刻化しやすい人と深刻化しにくい人との大きな違いは、小さなストレスを受けたときに感じる反応の違いである、とも言えます。そもそもストレスが心身に悪影響を及ぼすのは、ストレッサー(精神的・身体的な外的刺激)に対し、心身に悪い反応が生じるためです。
同じストレッサーを受けても、生じる反応は個人によってさまざまです。これは、ストレッサーが人それぞれの「フィルター(経験や思考、捉え方、ストレッサーが生じた状況)」を通すことで反応が起こるためです。つまり、フィルターを通した結果、心身に対して良い反応を引き起こしたとなれば、それは問題にならないのです。
しかし、フィルターを通した結果、心身に対して悪い反応を引き起こしてしまった場合、それはストレス反応として大いに問題になってきます。例えば、精神面でのストレス反応は「怒り、不安、悲しみ、憂鬱感、絶望感、またはそれらの感情によって客観的な判断が下せなくなる、集中力がなくなる」といったことが、身体面でのストレス反応は「心拍数や血圧の上昇、発汗など自律神経への影響、ストレス性疾患の発症」などが挙げられます。
ですから、問題はストレッサーに対して心身の反応を決めてしまう「フィルター」の存在だと言えます。つまり、人間関係のストレスとは、一見ストレッサーである他人に全ての原因があり、自分ではコントロール不可能な現象に思いがちですが、ストレスの大半は自分の中のフィルターによってコントロールできるのです。
ストレス(ストレッサー)は必ずしも全てが悪いわけではなく、そこから自分の心身に良い反応を引き出せれば、やる気や活力にもつながります。他人が変わるよりも自分が変わる方が簡単だ、ということは昔から言われてきたことですが、こうした「フィルター」の存在が経験則的に知られていたということなのでしょう。
「フィルター」は変えられるの?
「フィルター」は、非常に乱暴な言い方をすればその人の「思い込み」や「思考のクセ」のことだ、と言い換えることもできます。例えば、あるコップに半分だけ水が入っていたとして、それを「あと半分しかない」と捉える人と、「あと半分もある」と捉える人がいます。これもやはりその人の「思い込み」や「思考のクセ」がとっさにそう思わせたと言えるでしょう。
性格を変えるのは難しいと思っている人も多いのですが、「思い込み」や「思考のクセ」を変えるのはそれほど難しいことではありません。例えば、以下のような考え方をしやすい人は、こう考え直してみましょう。
- 人が褒められるのを見て、つい自分と比較して自信を失くしてしまう
- →他人が褒められたことは自分とは関係なく、比較されている事実はない
- 人の小さなミスにもイライラしてしまい、なかなか許せない
- →自分に対して課す基準を、他人にも適用しているかも。人それぞれだと気をつける
- 自分の言動がどう思われているか、人からどう見られているのかが気になってしまう
- →他人の心の中は実際のところ、わからない。考えても仕方がないので、考えるのをやめる
- あのときこうすればよかった、ああすればよかったと引きずってしまう
- →過去は変えられないので、「今」のことだけを考えるようにする
- 自分のことより他人を優先し、後から自分が損をしたと思ってしまう
- →人間関係に損得を求めてしまっているので、報われないならやりたくない、ということはやらない
ここに挙げたのは一例であり、後ほどさまざまな対処法を詳しくご紹介しますが、このように人間は意外と自分の「思い込み」や「思考のクセ」に無意識に囚われているものです。そのクセを少しだけずらしてあげれば、フィルターも変化し、視野や思考が柔軟になり、ストレスを上手に良い反応に変えていくことができるでしょう。
もちろん、中には明らかに相手に非があるといった場合もあります。そういった場合にストレスを感じ、ストレス反応が起こってしまうのは致し方ありません。とはいえ、人間関係から生じるストレスの大半は、自分の中にあるフィルターを変えることで良い反応に変えていけるということを知っているだけでもストレスの軽減につながるでしょう。
次章では、さらに詳しいストレスへの対処法についてご紹介します。
人間関係のストレスを解決するためにできることは?
前章でもご紹介したように、人間関係のストレスの多くは自分の中の「フィルター」を変えることでコントロールし、良い反応に変えていくことができるでしょう。しかし一方で、相手に明らかに問題があり、自分のフィルターだけでは対処しきれない場合もあります。
そこで、最後にフィルターを変える根本的な方法と、ストレスが起こってしまった後の対処法、両方の面から人間関係のストレスを解決するために自分でできることについてお話します。既にストレスが溜まっていて解決したい人も、自分の「フィルター」に悩んでいる人も、ぜひ確認してみてください。
ストレスになる前に「フィルター」を変える方法3つ
まずは、ストレッサーを受けたときに反応を変えてしまう「フィルター」に働きかける方法から見ていきましょう。言いたいことが言えない、理解されない、ついつい我慢してしまうなど、コミュニケーションにまつわるストレスの多くはフィルターを少し変化させれば対応できる場合が多いのです。
具体的には「アサーティブ・コミュニケーション」「客観的な事実の把握」「リフレーミング」という3つの方法があります。順番に見ていきましょう。
フィルターを変える方法①:アサーティブ・コミュニケーション
アサーティブ・コミュニケーションの「アサーティブ」とは「自己主張」のことです。ここで誤解してはいけないのは、「自己主張」は必ずしも「自分の意見をごり押しする」ということではない、ということです。お互いに対等でWin-Winの関係を維持するために、誠実で率直な対応をするというのが「アサーティブ・コミュニケーション」です。
アサーティブ・コミュニケーションでは、コミュニケーションにおける自己表現のタイプを3つに分けています。
- ノン・アグレッシブタイプ(消極的な自己表現)
- 自分の考えを言えず、ただ我慢してしまう
- アグレッシブタイプ(攻撃的な自己表現)
- 自分の主張だけを押し通し、他人の意見は無視してしまう
- アサーティブタイプ(自分も他人も尊重する自己表現)
- お互いに対等に意見を言い合い、自分も他人も尊重する
消極的な自己表現も、攻撃的な自己表現も、結局はストレスが溜まってしまいます。消極的な人は自分が我慢することによるストレスを溜めてしまい、攻撃的な人は自分の意見を聞き入れてもらえないことによるストレスを溜めてしまうからです。このようなストレスを自分も相手も溜め込まないためには、アサーティブ・コミュニケーションによる誠実で率直な表現が必要なのです。
例えば、職場で上司や先輩から急な仕事を頼まれたけれど、自分は今たくさんの仕事を抱えていてすぐには対応しきれないというとき、どうすれば良いでしょうか。ストレスを溜めやすいノン・アグレッシブタイプやアグレッシブタイプの人は、以下のように反応してしまうことが多いのではないでしょうか。
- ノン・アグレッシブタイプ
- はい、わかりました(本当は断りたいのに、また断れなかった)
- アグレッシブタイプ
- 私の状況をわかってください!どうしていつも急に無理な仕事ばかり仰るんですか!?
ノン・アグレッシブタイプでは、相手は良いかもしれませんが、自分はストレスが溜まってしまいます。アグレッシブタイプでは、自分は仕事を引き受けなくて済むかもしれませんが、相手にストレスを与えてしまいます。また、攻撃的な言い方をしたことで、後から自己嫌悪に陥ってしまうかもしれません。
そこで、こんなときは「実は今、私もすぐに終わらせなくてはならない仕事を抱えています。しかし、先輩(課長、部長)の大変な状況もよくわかりますので、お手伝いしたいところです。最短で、明日の午後からなら対応できますが、いかがでしょうか。もしくは、他に対応できる者を探しましょうか」といったように、アサーティブ・コミュニケーションを行いましょう。
アサーティブ・コミュニケーションでは、上記のようにお互いに冷静に、相手の状況や気持ちを尊重したやり取りを行います。このように自分の状況を冷静に伝えるとともに相手の状況にも理解を示し、かつ提案やお願い、できれば複数の選択肢の提示ができれば、相手も「そういう状況なら仕方がないね、他に頼める人がいないか探してみるよ。ありがとう」といったように、冷静な返答を返してくれるでしょう。
このようなアサーティブ・コミュニケーションの方法は「DESC法」と呼ばれます。
- Describe:事実を伝える
- 自分の状況や相手の状況、事実を伝える
- →「実は今、私もすぐに終わらせなくてはならない仕事を抱えています」
- Explain:表現する
- 自分や相手の状況や気持ちを尊重し、かつ、そのことを伝える
- →「先輩(課長、部長)の大変な状況もよくわかりますので、お手伝いしたいところです」
- Specify:提案、お願いをする
- 提案や相手に望むことを、具体的かつ冷静に伝える
- →「最短で、明日の午後からなら対応できますが、いかがでしょうか」
- Choose:結果を示唆する、または選択する
- 選択肢を示したり、相手の反応を待ってから代替案を伝えたりする
- →「もしくは、他に対応できる者を探しましょうか」
アサーティブ・コミュニケーションは仕事の場面だけでなく、プライベートな場面でも使える機会の多いコミュニケーションスキルの一つです。家族関係や友人関係でも、複雑な事態に対処するときはぜひ試してみましょう。お互いにとってWin-Winの結果に導くことができれば、人間関係のストレスが溜まらないだけでなく、お互いに良好で建設的な関係を築くことができるのです。
フィルターを変える方法②:客観的な事実の把握
「フィルター」を直接的に変える方法として、起こった出来事のうち客観的な事実だけを捉えるように努めるのも有効な方法です。前章でもご紹介したように、人間は案外自分の中にある「思い込み」に囚われているものです。そのため、とにかく起こった事実だけに目を向け、客観的な観察をするためのキーワードとして以下の3つのポイントを意識しましょう。
- 省略
- 人は他人と話すとき、自分が持っている情報の全てを言葉にしているわけではない
- 必要だと思うこと、伝えたいことだけに情報を絞っている
- 歪曲
- 人は、事実をありのままに伝えられるものではない
- 自分の解釈を加え、理解した情報を改めて言葉に起こしている
- 一般化
- 一部の出来事を全体に当てはめてしまい、自分の思い込みや決めつけと気づいていない場合がある
これらの現象は、人間が会話をする上で多かれ少なかれ誰でもやっていることで、それ自体は責められることではありません。つまり、自分で意識していなくても、自分自身も会話の際にはこうした無意識な情報の改変をしているということです。これらの現象に一喜一憂するのではなく、人は誰でも省略・歪曲・一般化をしてしまう、と意識して会話をしましょう。
例えば、同僚Aさんが「上司は自分を認めてくれない、いつも提案を却下されるんだ」と話したとしましょう。親しい友人や同僚であるほど、「なぜ認めてもらえないのか」「認めてもらえる方法を考えよう」とアドバイスしたり一緒に悩んだり、あるいは「酷い上司だ」と憤ってしまうかもしれません。
しかし、一見非常に同情的で親身なこの反応は、Aさんの中で上司に対する不安や不満を高めてしまう可能性があります。最終的には上司に苦手意識を持ったり、上司と接するだけでストレスになったりしてしまうかもしれません。それは、Aさんの言葉には「省略・歪曲・一般化」の3つの要素があるからです。
例えば、「上司が認めてくれない」とAさんが感じている反面、上司からはAさんに対する期待があり、もっと実力をつけさせるために厳しくしている可能性があります。「省略」でもあり、「歪曲」でもあるのでしょう。「いつも提案を却下される」と感じていても、事実は2〜3回を過剰に「一般化」しているだけかもしれません。
このように、自分が発する言葉からも人が発する言葉からも、多くの情報が欠落していることや、思い込みのために情報が歪んでいる可能性があることをいつも念頭に置いておく必要があります。ストレスを感じてしまいそうなときはまず客観的な事実だけを捉えるようにし、客観的な事実がわからない場合は、思い込みを強化しすぎないように気をつけておきましょう。
フィルターを変える方法③:リフレーミング
「リフレーミング」とは、物事の捉え方や視点を変えることを指します。出来事を捉える際の枠組みを、自分にとって有効なものに変えてしまうということです。リフレーミングができることは、視野の広さや柔軟性にもつながりますので、ビジネスの面でもパワフルな打開策を打ち出したり、ひらめきを誘発したり、誰かにとって重要なアドバイスをしたりできることもあります。
例えば、「自分は短気だ」「自分の意見を主張できない」といった短所があるとしましょう。しかし、これを「決断が早く、その分どんどん先に進める」「他人の意見をしっかり尊重できる」と言い換え、ポジティブな一面にしてしまうこともできます。リフレーミングは、物事を変えることなく自分の捉え方を変えるだけなので、すぐにできるのに劇的な変化が起こる、非常に重要なテクニックだと言えるでしょう。
リフレーミングをもう少し具体的に説明すると、「状況のリフレーミング」と「内容のリフレーミング」があります。状況のリフレーミングとは、あるものごとや人物について、役に立つような状況を考え直すことを言います。内容のリフレーミングとは、あるものごとや人物について、他にどのような良い意味やプラスの価値があるかと考え直すことを言います。
例えば、松下電器産業(現:パナソニック)を起こした松下幸之助氏はこうしたリフレーミングの事例をいくつも持っています。あるとき、無口で沈んだ顔をしている社員について他の社員から「営業に出せない」「いると職場が暗くなる」と煙たがられていることを聞きつけると、「そんなに暗い顔をしているなら、葬式にうってつけだ。素晴らしい」と褒め、葬式課長に任命したということです。これは、状況のリフレーミングの一例です。
またあるときは、幼い頃から病弱で、当時は不治の病と考えられていた結核を患っていたことについて「体が弱いから、仕事で無理せず長生きできた」「病弱だったから他人に仕事を任せることができ、結果的にそれが事業を成功させることにつながった」と語っています。これは、内容のリフレーミングに当たります。
このように、一見悪い出来事でも良い意味で捉え直し、前向きな見方を身につけることは、自分自身の思考を柔軟にし、視野を広げることにもつながります。もし、自分で上手くリフレーミングできないときは、周囲の人にリフレーミングしてもらう方法もあります。「こういう出来事がったけれど、前向きに表現するとどうなるだろう」と相談すればよいのです。
リフレーミングはアイディアを発展させたり、問題や課題の解決方法を導き出したりする上でも有効な方法です。ぜひ、人間関係のストレスだけにとどまらず、さまざまな場面でリフレーミングを習慣化し、活用していきましょう。
ストレスになってしまった後の対処法3つ
前述のようにいくら「フィルター」を変えても、中には自分の捉え方だけではどうしようもないストレッサーもあります。そうしたどうしようもないストレッサーによってストレス反応が起こってしまった場合は、できるだけ体や心に良い方法でストレスを解消しましょう。
ストレス反応が起こってしまったということは、何らかの緊張状態や警戒態勢によって心身に歪みが生じたということです。ですから、この歪みを取り除いていく必要があります。ストレスに対処する行動を「ストレスコーピング」と言いますが、具体的には、生活習慣を改善したり、瞑想を行ったり、誰かと話したりするのがおすすめです。
ストレス反応の解消法①:生活習慣の改善
メンタルヘルスの維持において、大切な3つの「R」があります。それは「Rest(休養)・Recreation(娯楽、楽しみ)・Relax(リラクゼーション)」の3つで、基本的なストレス解消法としてもさまざまな場所でよく紹介される要素です。生涯にわたって心身ともに健康的な生活を送る上でも、欠かせない要素と言えるでしょう。
そして、Recreation(娯楽、楽しみ)を十分に行ってリフレッシュするためには、健康的な生活習慣が欠かせません。すなわち、毎日の「睡眠・食事・運動」です。不安や怒りなどの精神的なストレスが溜まっていくと、睡眠も食事もだんだん不規則になっていきます。すると、気力が低下し、体を動かすのが億劫になっていってしまいます。
やがては自律神経・ホルモンなど、体を正常に動かす機能のバランスが崩れはじめ、最終的にはさまざまな疾患や症状となって体を壊していってしまいます。生活習慣の乱れに心当たりがあれば、まずは基本となる睡眠・食事・運動の習慣から改善していきましょう。生活習慣を整えるだけでも、ストレスは溜まりにくくなるものです。
最初に行うべきは、質の高い睡眠をとる工夫です。3つのRにも「Rest(休養)」が入っているように、仕事のためだけでなく、娯楽や趣味を思いきり楽しむためにも十分な休養は不可欠です。1日の疲れやネガティブな出来事をしっかり眠ってリセットするためにも、以下のようなことに気をつけましょう。
- 睡眠時間は、90分の倍数でとる(6時間、7.5時間、9時間など)
- 寝る2時間前には、スマホやPCから離れておく
- 寝る前に、5〜10分程度の瞑想をする
- 適度な運動をし、自然な疲れで眠りにつけるようにする
- 外部からの明かりや騒音を遮断する
- 自分に合った枕などの寝具を使う
睡眠時間を90分の倍数にするのは、睡眠のリズムが60〜80分の「ノンレム睡眠」と、10〜30分の「レム睡眠」を合わせた90分間で1サイクルとなっているためです。この90分のサイクルが終わるところでちょうど目覚めれば、すっきりとした目覚めになり、日中に眠気を引きずりにくくなります。
次に、バランスの良い食生活で体に十分なエネルギーを供給しましょう。三大栄養素である「糖質(炭水化物)・脂質・タンパク質」に「ビタミン・ミネラル」を加えた五大栄養素をしっかりバランス良く摂取することが重要です。近年では糖質制限ダイエットなどの栄養が偏りがちなダイエットが流行したりしていますが、ストレスで体調を崩しているときに栄養バランスを崩す食事を摂取するのはおすすめできません。
とはいえ、一人暮らしをしている人などは、毎食必ずバランスの良い食事を摂取するのも難しいでしょう。そこで、体に悪いものや摂りすぎてはいけないものを控えたり、積極的に摂取することが推奨されるものをメニューにプラスしたり、できることから少しずつ実行していきましょう。摂取した栄養と、できたという達成感の両方が心身を健康に導いてくれます。
食生活において特に注意したいのは、以下の5つのポイントです。
- 減塩する(インスタントでも減塩味噌汁にする、調味料はかけすぎないなど)
- 糖質を摂りすぎない(間食は控える、夕食の炭水化物やイモ類を減らすなど)
- 食物繊維を摂取する(揚げ物ならつけ合わせのキャベツを増やす、海藻サラダをプラスするなど)
- トランス脂肪酸を控える(マーガリンやショートニング、それらで揚げたもの、古いサラダ油など)
- アルコールを控える(毎日飲む人は、週に1〜2日は休肝日を設ける)
これらの必須ポイントに加え、ときにはゆっくりと食事を味わい、楽しむ時間の余裕を持ちましょう。友人や家族と一緒に楽しく会話しながら食事をしたり、行きたいと思っていた飲食店でじっくり味わって食事をしたりするのがおすすめです。普段料理をしない人なら、たまには自炊してみるのも良いでしょう。料理は意外と集中力が求められますので、気持ちを切り替えるのに役立ちます。
十分な休息とエネルギーの供給ができたら、最後に適度な運動を取り入れましょう。運動は肥満予防や血行改善に効果があるのはもちろんのこと、心を穏やかに落ち着けてくれる脳内物質(ホルモン)である「セロトニン」の分泌を促してくれる働きもあります。具体的には、ウォーキングやジョギング、サイクリング、水泳、一定のリズムで行う呼吸法(ヨガなど)の有酸素運動がセロトニンの分泌を促すとされています。
これらの運動を適度に行う目安としては、「会話ができる程度」がポイントです。ウォーキングでもジョギングでも、息切れするほどの早歩きでは無酸素運動になってしまい、体が疲れるわりにはセロトニン分泌などの効果が思ったほど得られません。また、運動に慣れていない人は一度に長時間行わず、1日30分の運動を3回に分けて行うのも良いでしょう。
さらに、運動は習慣づけることが大切です。週に1回、数時間のサイクリングを行うよりも、週に3回、1回あたり15〜30分のウォーキングを行う方が心身に良い影響をもたらします。運動する時間がなかなかとれない人は、通勤時に最寄り駅から自宅まで少し遠回りして歩いたり、買い出しのついでに軽く散歩したりするのもおすすめです。
ストレス反応の解消法②:瞑想(マインドフルネス)
最近よく聞かれるようになってきた「マインドフルネス」という瞑想法は、「今この瞬間、自分が体験していることに注意を向け、現実をありのままに受け入れる」というものです。Googleがこのマインドフルネスを取り入れたトレーニング「SIY」を開発したことでも注目を集めています。
ストレスが溜まってくると、どうしてもまだ見ぬ未来への不安が募ったり、過去の嫌な出来事や暗い体験を思い出したりして、余計にストレスを溜め込んでしまいます。マインドフルネスの「今、この瞬間に注意を向ける」というトレーニングは、不要な思考を切り離して平静さを取り戻し、客観的に現実を捉え直すのに役立ちます。
マインドフルネスのやり方にはこれと決まったものはありませんが、よく使われている方法から2つをご紹介します。まずは、簡単に3分程度でできるものから見ていきましょう。
- 心地よく座り、目を閉じて、鼻から息が入ってくるのを感じる
- 呼吸に集中し、体の内側のリズムがゆっくりと落ち着いていくのを感じる
- 自分の呼吸に集中する
- 呼吸を変えようとせず、ただ気づく
- 思考や雑念が入ってきたら、呼吸に集中する
マインドフルネスでは、思考や雑念を手放し、ただ意識を呼吸に集中することが大切です。3分程度呼吸を続けたら、少し時間を置いてから、感じたことを書き留めておくと良いでしょう。マインドフルネスを続けていくうちに、自分に起こる変化についても気づけるようになってくるはずです。
少し時間に余裕があれば、10〜15分くらいかけてしっかりマインドフルネスを行うのも良いでしょう。
- 背筋を伸ばし、両肩を結ぶ線がまっすぐになるように座り、目を閉じる
- 脚を組んだり、正座したり、椅子に座ったりと、座り方は何でもよい
- 「背筋が伸びて、その他の体の力は抜けている」状態になれる姿勢で
- 呼吸をあるがままに感じる
- 呼吸をコントロールせず、自然なままの呼吸を行う
- 呼吸に伴ってお腹や胸が膨らんだり、元に戻ったりする感覚に注意を向ける
- 最初は、呼吸で体が変化する様子を内心で「ふくらみ、ちぢみ、ふくらみ」などと唱えるとより感じやすくなる
- 湧いてくる感情や悩みなどに囚われない
- 呼吸を続けていると、「ゴミ捨てに行かなくちゃ」「これが終わったら明日の準備をしよう」などと浮かんでくることも
- 雑念が浮かんできたら、内心で「終わり」と唱えるなどして思考を切り上げ、呼吸に意識を戻す
- 怒りや悲しみなどの感情が浮かんできたときも、呼吸に意識を戻す
- 身体全体で呼吸するようにする
- 次に、注意する範囲を広げ、「今、この瞬間」の現実を幅広く捉える
- 身体全体で呼吸し、吸った息が手足の先まで流れ込み、吐く息が身体の隅々から流れ出ていくようなイメージで
- 身体の外にも注意を広げていく
- さらに、自分の周囲の空間にも気を配り、そこで気づける現実の全てを見守る
- 自分を取り巻く部屋の空気の動き、温度、広さなどを感じ、さらに外側の空間や、部屋の外の音などにも気を配る
- このとき、雑念や感情が出てきたことに気づいたら、その辺りにふわふわと漂わせるようなイメージで、消えていくのを見届ける
- 瞑想を終わる
- 最後は瞼の裏に注意を向け、そっと目を開けていく
- 伸びをしたり、身体をさすったりして、普段の自分に戻っていく
マインドフルネスはストレスケアだけでなく、パフォーマンスの向上にも効果が期待できますが、うつ病など精神疾患の治療を行っている人は自己判断で始めず、必ず主治医に相談して許可をもらってから行いましょう。
ストレス反応の解消法③:会話
ストレス反応を解消する方法として、最後にご紹介するのは人と会話することです。人間関係で溜まったストレスを人間関係で解消するのは矛盾しているような気持ちになることもあるかもしれませんが、人間関係で溜まったストレスだからこそ、人間が癒すこともできる、という考え方もあります。
そもそも、怒りや悲しみ、不安や不満などを抱え込んでしまうのは、「自分の言いたいことが言えない」「誰も自分をわかってくれない」といった自尊感情の低下が主な要因と言えます。気の置けない人と話して「自分のことをわかってくれた」「ずっと言いたかったことを言えた」と思うことは、「自己重要感」という誰もが持つ強い承認欲求を満たせる最強の方法なのです。
心理学者のウィリアム・ジェームスは「人間の持つ感情のうち、最も強いものは、他人に認められることを渇望する気持ちである」と述べています。「渇望」という強い言葉で語られるほど、「認められたい」という欲求は人間の中で強い感情だということなのです。ストレスを自分ひとりで抱え込まず、誰かに聞いてもらうことは、自分で思っている以上に大切なことなのです。
ストレス解消や気持ちの整理のために人と話すときは、以下のようなポイントをおさえておくと良いでしょう。相手に一方的に負担を押しつけることなく、自分にとっても有意義な時間を過ごせるはずです。
- ただ不満や愚痴をぶつけるだけでなく、前向きな解決のために話すことを意識しておく
- 信頼できる人や、気心の知れた友人、心を許せる人などに話すこと
- 相手を人間関係のトラブルに巻き込んでしまうような話はしないこと
ストレスを自分で対処できないときはどうすればいい?
ここまで、人間関係のストレスを自ら対処する方法をご紹介してきましたが、もし既にあらゆることへの気力が低下してしまったり、何をしてもネガティブな考えや不安が頭から離れなくなっていたり、死にたい、消えたいという気持ちが強くなっていたりするようなら、自分一人でなんとかしようとせず、心の専門家に頼りましょう。
身体の不調があれば内科医にかかるように、心の不調があれば精神科医にかかるのは極めて当たり前のことで、恥ずかしいことではありません。心理療法の専門医やプロのカウンセラーなど、心の専門家であれば言えなかった感情や気持ちを引き出し、どんな話でもプロの立場からきちんと受け止められるでしょう。そして、心を回復させるための手段を講じることができます。
また、心が回復できないほどのダメージを受けているわけではなくても、ストレスの原因が自分では解決できない場合、他の人の手を借りることは重要です。例えば、会社の同僚との関係をどう工夫しても上手くいかない、という場合は上司に相談してみると良いでしょう。理不尽ないじめや陰口などの深刻な問題がある場合は、第三者や外部の力を借りることも必要です。
厚生労働省による「労働者健康状況調査」によれば、仕事や職業生活でストレスを感じている人は労働者の約6割にものぼったそうです。さらに、そのストレスの原因は、日本法規情報の「職場のストレス意識調査」によれば、最も多かったのが「人間関係」で43%とわかっています。このように、人間関係で悩む人は決して少なくありません。
ということはつまり、個々の人間関係だから、と当事者任せにしておいて解決できる時代ではないとも言えます。会社組織としても、そこで働く個人としても、さまざまな対策を講じる必要があるのです。仕事に責任感を感じていたり、迷惑をかけてしまうのではないかという罪悪感を持っていたりする真面目な人ほど、第三者の手を借りることに躊躇してしまいがちですが、健康な心身を失っては元も子もありません。
ぜひ、自分の健康を損なう前に、一度専門家や専門的な機関を頼ることも視野に入れてみてください。
おわりに:人間関係のストレスの多くは、「フィルター」を変えることで良いものに
人間関係のストレスからは、生きている以上誰もが逃れられないとも言えます。しかし一方で、ストレスを受けたときの「フィルター」を変えてしまえば、自分の中でストレッサーを良い反応に変えてしまえる場合も多いのです。
今回ご紹介した方法などを参考に、ぜひ人間関係のストレスをさまざまな方法で良い反応に変えてみましょう。しかし、自分ひとりで対処しきれないことは無理に解決しようとせず、第三者を頼ることも大切です。
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