ストレスが溜まるとやけ食いをしてしまう、という人は時々いますが、中でも甘いものを食べたくなる人は多いようです。甘いものは疲労感を軽減してくれたり、脳にエネルギーを送り込んだりと良いことも多いのですが、甘いものでのストレス解消にはリスクもあります。
そこで、今回はストレスが溜まると甘いものが欲しくなる理由やそのリスク、食べるときのおすすめについてご紹介します。
- この記事を読んでわかること
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- ストレス解消と甘いものの関係性
- セロトニンとエンドルフィンの働き
- 脳がエネルギーを必要とする理由
- 母乳やミルクの甘さが赤ちゃんに安らぎを与える可能性
- 甘いものの食べ過ぎのリスク
- 正しい糖分のとり方
ストレスがたまると甘いものが欲しくなるのはなぜ?
人間関係や忙しい仕事、人混みや暑さ寒さなど、人間社会にはたくさんのストレス要因があり、私たちは日々さまざまな緊張や不安などを感じながら生きています。そんなストレスフルな毎日でイライラしてしまったり、疲労感を感じてしまったりしたときに、甘いものを食べてホッとした経験を持つ人は少なくないでしょう。
砂糖の甘味を感じるとその刺激は脳に伝わり、脳が「エンドルフィン」と「セロトニン」という2種類の神経伝達物質を分泌します。この2つの物質により、リラックスしてストレスを軽減する効果がもたらされるのです。「エンドルフィン」は病気に対する抵抗力をアップしたり、気持ちを落ち着かせてゆったりした気分にさせたりする働きがあります。
一方、「セロトニン」は気分を安定させるのに必要な神経伝達物質で、9割は小腸の粘膜にある細胞内に存在しています。脳を興奮させる物質でもありますが、落ち込んだ心を励ましたり、感情が爆発するのを抑えながら心を穏やかにしたりする感情物質の一つで、別名「幸せホルモン」と呼ばれることもあります。
実際に、摂食障害・暴力行動・うつ病などの原因にセロトニン不足が関係しているとされ、脳内でセロトニンが不足すると不安を感じてリラックスできないだけでなく、抑うつ状態が悪化するという実験結果も報告されています。さらに、セロトニンは睡眠に関係する「メラトニン」という物質の原料にもなることから、セロトニン不足は睡眠不足にも関係していると考えられています。
セロトニンは脳内で、タンパク質に含まれる「トリプトファン」というアミノ酸から合成されるのですが、トリプトファンが脳内に優先的に運ばれるためにはブドウ糖の働きが必要なのです。血液中のブドウ糖が少ないと、その他のアミノ酸が先に脳内に入ってしまい、トリプトファンが脳内にたどり着きにくくなってしまいます。
しかし、血液中にブドウ糖が十分にあると、その他のアミノ酸は筋肉に入り、トリプトファンが優先的に脳内に入れるようになります。つまり、タンパク質の豊富な食事(肉や魚、卵、牛乳など)を摂取した後、砂糖を使った甘いデザートを食べることでトリプトファンとブドウ糖を同時に摂取できますので、セロトニンが効率よく合成され、ストレス解消につながります。
また、甘いものやご飯などの糖質を摂取すると、血糖値が上がります。すると、上がった血糖値を下げるために、インスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは血糖値を下げるホルモンとして知られていますが、体内でタンパク質を作る働きもあります。タンパク質はアミノ酸からできますので、体内で多くのアミノ酸が使われて減れば、相対的にトリプトファンの比率が高まるので、一時的にセロトニンが増加するというわけです。
しかし、これはあくまでも一時的に比率が増えただけで、トリプトファンの量が増えたわけではありません。ストレス過多の人やうつ病の人がこの一時的な快楽を求めて甘いものに依存してしまうことも多いのですが、本来の解決策は甘いものだけではなく、トリプトファンが多く含まれた食べ物を食べるなどして、セロトニンの分泌を増やすことなのです。
ストレスを受けると脳がいつもよりエネルギーを欲するって本当?
人間の脳が体重に占める割合はわずか2%ですが、一方で人間が摂取する炭水化物の約半分を消費するという非常に燃費の悪い器官です。脳の燃料となるのはデンプンやショ糖などの炭水化物を分解して得られる「グルコース」ですから、炭水化物を摂取すると速やかに脳にエネルギーを補給できるというわけです。
このように、普段からたくさんのエネルギーを必要としている脳ですが、さらにストレスを受けると通常時より12%も多くのグルコースを必要とすることがわかっています。そのため、人々は脳の要求に従ってスナック菓子を食べたり、主食を多く食べたりしてしまいます。人が空腹を覚えると、交感神経及び副交感神経の機能や内分泌系の機能を調節する「視床下部」という脳の部位が活性化します。
特に、代謝や摂食行動に関わる視床下部の腹内側核、外側野、弓状核などの領域が空腹時の欲求に関わっているのですが、これらの部位は脳内のグルコースが不足すると身体の他の部位から送られてくる情報を遮断し、早くグルコースを供給するよう訴えかけるそうです。実際に脳と炭水化物の関わりを40人の被験者に対して調べた実験があります。
この実験は2回のセッションに分けられ、片方のセッションでは被験者が見知らぬ人の前で10分間スピーチを行い、その後で1時間にわたりビュッフェ形式の食事を摂りました。もう片方のセッションでは、被験者はスピーチをせず同じく1時間のビュッフェ形式の食事を摂取しました。
そして、それぞれのセッションで食事の前に、ストレスに応じて分泌されるホルモン「コルチゾール」と「アドレナリン」の血中濃度を測定しました。すると、スピーチを行ったセッションの方が被験者の血中ストレスホルモン濃度は高くなり、ビュッフェで食べる炭水化物の量も平均で34g多くなったとのことです。
このように、人間はストレスを受けると炭水化物や甘いものなど、グルコースを効率よく補給できる糖質を通常よりも多く欲することがわかります。ストレスを受けると認知活動が低下してしまいますが、食事でエネルギーを補給するとパフォーマンスを元に戻せることがわかっています。
ですから、仕事中にどうしても甘いものが食べたくなってしまった場合、我慢せず食べてしまう方が脳の働きが回復し、仕事のパフォーマンスも回復すると考えられます。一方、甘いものを我慢し続けていると脳は脂肪や筋肉からグルコースを取り出して脳へ供給するのですが、この方法ではさらなるストレスホルモンを分泌してしまう可能性があります。
ストレスホルモンが増えると人間の精神に悪影響なだけでなく、長期的には心疾患や脳血管疾患のリスクを高める可能性があります。このように、グルコースは脳の活動に必要不可欠なエネルギーではありますが、甘いものや炭水化物を食べすぎてしまうと肥満につながり、生活習慣病を引き起こす原因にもなりえますので、食べすぎには十分注意しましょう。
赤ちゃんが母乳やミルクで安らぐのは甘味のおかげ?
そもそも、人間が生まれて最初に出会う味覚が「甘味」であるとも言えます。生まれてすぐの赤ちゃんは母乳かミルクを与えられて育ちますが、これらにはほのかな甘味が含まれています。むずかって泣いている赤ちゃんが母乳やミルクを与えられて安らいだ表情を見せるのも、甘味のおかげかもしれません。
実際に、生まれたばかりの赤ちゃんに砂糖水を舐めさせると舌なめずりをしたり吸う仕草をしたりするものの、苦いものを与えると顔をしかめるなどで不快感を表すという実験結果も報告されています。つまり、人間は本能的に甘いものを美味しいと感じるようにできていますので、甘味を摂取すると心も身体も満たされると言えるのです。
甘いものでのストレス解消にはリスクもある?
前述のように、私たちは脳のエネルギーとして大量にグルコースを消費し、ストレスがかかるとさらに多くのグルコースを消費することから、本能的に糖質を必要とし、甘いものを美味しいと感じることがわかりました。しかし、ストレスが溜まるとついつい甘いものを食べてしまうという場合、「砂糖依存症」に注意が必要です。
砂糖依存症とは砂糖を大量に摂取せずにはいられなくなってしまう「甘いもの中毒」とも言える状態のことです。砂糖は「マイルドドラッグ」とも呼ばれ、薬物やアルコール並の中毒性や依存性があるとされています。健康な人は食後のデザートくらいの甘いもので満足できるのですが、砂糖依存症の人は大量に食べたり、四六時中甘いものを口にしていないと落ち着かなくなったりしてしまうのです。
特に、極端なダイエットや妊娠・出産、成長期などで身体の栄養バランスが大きく変化するときは要注意です。何らかのきっかけで砂糖を常用してしまい、耐性ができることによって、砂糖の摂取をやめたときに禁断症状を引き起こしてしまうことがあります。禁断症状によって、砂糖依存症に初めて気づくという人も少なくありません。
砂糖依存症は必ずしも甘いお菓子だけが引き起こすとは限らず、清涼飲料水やパン・スープなどの加工食品や調味料に含まれる砂糖が引き起こすこともあります。普段あまり甘いお菓子を食べないという人も、意識せずに糖質を摂取してしまって脳がその味を覚え、砂糖依存症になってしまう可能性があるのです。
砂糖依存症を一言で説明すると、「快感を得るためには糖質を摂取しなくてはならない」と脳が勘違いしている(中毒になっている)状態と言えます。食べ物から摂取された糖質(炭水化物や甘いもの)は体内の消化酵素によってブドウ糖に分解され、血中に溶け込んで全身を巡り、血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)を上昇させます。
糖の中でも砂糖は分子が小さいため、ブドウ糖に分解されやすいという特徴があります。特に、栄養を吸収しやすい空腹時に砂糖を摂取すると、血糖値が急上昇します。すると、血糖値の急上昇を抑えるために、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンが一気に分泌され、血糖値は急降下します。この短時間での血糖値の乱高下を「血糖値スパイク」と呼ぶこともあります。
血糖値が急降下すると即座に低血糖の状態に陥り、脳が「エネルギー不足=空腹」と認識してしまうため、「糖分を摂取して血糖値を上げろ」という指令を出してしまいます。つまり、砂糖を急激にたくさん摂取すると逆に血糖値が下がり、お腹が空いていなくても繰り返し砂糖(糖質や甘いもの)を摂取したくなってしまうという状態にのループにはまってしまいます。
低血糖になると、疲労感やイライラ・精神不安などの症状が現れることもあります。すると、砂糖による血糖値上昇はもちろん、セロトニンやエンドルフィンなどの脳内物質を分泌する働きによって気持ちを落ちつけようとしてしまう場合もあります。こうして「甘いもの(糖質)を食べると気持ちが落ち着く」という状態が繰り返され、脳が中毒に陥ってしまうというわけです。
ここで注意したいのは、甘いものが好きなら全員が砂糖依存症というわけではなく、甘いものが嫌いな人が必ずしも砂糖依存症ではないとも言いきれないことです。例えば、炭水化物過多になりやすいファストフード、コンビニのお弁当、レトルト食品なども砂糖依存症に陥りやすい食事の一種です。また、以下のような症状が現れていたら、砂糖依存症の可能性が高いと考えられます。
- 甘いものを食べないと落ち着かず、我慢しているとイライラしてくる
- ストレスを感じると、甘いものが食べたくて仕方なくなる
- チョコレートや飴を持ち歩き、ことあるごとに甘いものを食べてしまう
- 妙に疲れやすいが、甘いものを食べると元気になる
- 短時間の労働でもめまいや立ちくらみを感じてしまう
この他、「頭痛がする、手足が冷える、朝起きるのが辛い」といった疲労に起因する症状や、うつ病に似た「倦怠感、落ち込みやすい、集中力が切れやすい、怒りっぽい」といった症状が出ることもあります。これらの症状は、低血糖やビタミンB1の不足によるものだと考えられています。
気分を落ち着かせるためやストレス解消のために甘いものや炭水化物を摂取していたはずが、過剰摂取からの依存症の発症で逆に心身を疲れさせてしまうこともあるのです。何気なくお菓子を食べてしまっているなら、食べすぎになっていないかどうか、口に運ぶ前に一瞬考えるくせをつけてみましょう。
また、疲労やうつ病に似た上記のような症状が長期間続く場合は、砂糖依存症に加えてうつ病を併発している可能性もあります。思い当たる節が多ければ、ぜひ早めに専門の医療機関で医師の診察を受けましょう。
甘いものを食べるなら、どんなものがおすすめ?
どうしても甘いものが食べたいときは、ただ甘いだけのお菓子などではなく、食物繊維を一緒に摂取できる果物を食べるのが良いでしょう。食物繊維は血糖値の急激な上昇を抑える性質がありますので、砂糖と炭水化物のみのスナック菓子などよりも血糖値が急激に上がりにくいと考えられます。
スーパーなどでもよく見かける果物の中では、キウイフルーツやオレンジ、グレープフルーツ、りんごなどが当分控えめ、食物繊維多めでおすすめです。最近では、カットフルーツなどの食べやすいタイプもよく見かけるようになってきましたので、ぜひ活用してみましょう。
健康的だとドライフルーツを食べる人も多いですが、ドライフルーツは生の果物に比べて水分を飛ばしている分、同じ量食べたときの糖分が多くなってしまうこと、重量が軽いためお腹を満たせず大量に食べてしまう傾向があることなどに注意しましょう。生の果物で約100gが1日に食べる量の目安です。
- 【各果物100g分の目安】
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- キウイフルーツ:1個
- オレンジ:1/2個
- グレープフルーツ:1/4個
- りんご:1/3個
また、近年は糖質に気をつける人が増えたことから、低エネルギー低糖質のお菓子も増えています。低糖質のチョコレートやパン、ノンシュガーの飴、糖質制限のアイスやクッキーなどがありますので、どうしてもお菓子が食べたいときにはこうした食品を利用するのも一つの方法です。無糖のヨーグルトや牛乳、チーズ、ナッツなどできるだけ糖質が少なく、ビタミンやミネラルの豊富な食品をおやつ代わりにするのも良いでしょう。
体重増加を防ぎ、適度に楽しめる間食の目安となるカロリーは80〜160kcal程度です。低エネルギーのお菓子はたいていこの範囲に抑えられていますので、ぜひチェックしてみましょう。商品の表示は「カロリーOFF」「カロリー0」「砂糖が0」「血糖の吸収を抑える」「糖類0」「糖類OFF」などそれぞれ表現が異なりますので、パッケージの表現だけで安心せず、必ず成分表示でカロリーや糖質の量を確認しなくてはなりません。
ストレス対策に役立つ栄養素とは?
ストレスで甘いものが欲しくなってしまうタイプの人に特におすすめの栄養素が「ビタミンC」と「カルシウム・マグネシウム」です。いずれもストレス対策に役立つ栄養素であり、甘いものが欲しくてイライラしたり落ち着かなくなってしまったりするときにこれらの栄養素を摂取すると気持ちを落ち着けるのに役立つでしょう。
- ビタミンC
- ストレスホルモン「コルチゾール」が分泌されると、ビタミンC不足に陥りやすい
- 野菜や果物、芋類に多く含まれる。特にキウイフルーツ、オレンジ、グレープフルーツ、いちごなど
- カルシウム・マグネシウム
- 神経の興奮をしずめ、安定させるために役立つ
- カルシウム:チーズ、ヨーグルト、ちりめんじゃこ、木綿豆腐、納豆、小松菜などに多く含まれる
- マグネシウム:アーモンド、落花生、大豆、豆乳、牡蠣、ほうれん草などに多く含まれる
ストレスを感じると、副腎皮質から「コルチゾール」という抗ストレスホルモンが分泌されます。この「コルチゾール」はビタミンCを多く消費してしまいますので、ストレスを感じるとビタミンC不足に陥りやすいのです。ビタミンCは不安定な栄養素で、加熱調理のほか水や空気にも弱いため、できれば生で食べられる果物で摂取するのが良いでしょう。
水分補給に水ではなく、水にレモンの果汁を絞って入れたレモン水を活用するのも手軽でおすすめです。また、ストレスを感じるとタバコを吸ってしまう人もいますが、タバコを1本吸うとビタミンCが25mg消耗されると言われています。例えば、キウイフルーツ100gあたりに含まれるビタミンCは69mgですが、1/3以上がタバコ1本で消費されてしまいます。
ストレス解消のために吸うタバコが余計にストレスを増やしてしまうこともありますので、喫煙する人はこの点にも十分注意しながらビタミンCを摂取すると良いでしょう。食事から摂取しきれないという場合は、サプリメントなどを活用するのもおすすめです。
カルシウムとマグネシウムを効率よく摂取するためには、豆腐や納豆などの大豆製品を意識的に食べるのが良いでしょう。朝食に豆腐の味噌汁をつけたり、納豆を一品にしたりすると摂取しやすいです。日々の食事にこれらの栄養素を上手に取り入れ、甘いものに頼りすぎないストレス対策を行いましょう。
おわりに:ストレス対策に甘いものを食べるなら、生の果物がおすすめ
人間の脳は糖質を分解した「グルコース」をエネルギーとして大量に消費する器官であり、舌が甘みを感じるとエンドルフィンやセロトニンなどの物質が分泌されるため、人間は本能的に甘味で心地よさやリラックスを感じる性質があります。
しかし一方で、糖質の摂りすぎによる砂糖依存症には注意が必要です。甘いものを食べるなら、食物繊維を一緒に摂取できる生の果物が良いでしょう。低エネルギー低糖質のお菓子などもおすすめです。
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