ストレスや心の病気で歯が痛むこともある?治療方法はあるの?

ストレス

転んですりむいた場所が痛い、風邪を引いて頭が痛いなど、痛みの原因は何かしらの傷や病気が原因となっていることが多いです。それと同じように、歯が痛いのは歯に何らかの傷がついたり、虫歯ができたりしているからだと思う人は多いでしょう。

しかし、歯が痛い原因はそれだけとは限りません。今回は、歯の痛みのうちストレスや心の病気によって痛む「非歯原性歯痛」についてご紹介します。

歯の痛みにも種類がある!?

歯が痛いというと、ほとんどの人は「虫歯だ」と考えるのではないでしょうか。もちろん虫歯である可能性は高いのですが、虫歯以外の原因(歯周病、噛み合わせ、歯肉・口腔前庭・口腔底などの悪性腫瘍)もありますし、その他、歯そのものには原因がない痛みもあります。

一般的に、痛みは身体に起きた不調を知らせるための「警告」だと考えられています。通常、痛みを感じる場所には何らかの異常が起きていて、それを脳に伝えるための不快な感覚が「痛み」だとされています。こうした痛みのことは「侵害受容性疼痛」と呼ばれていますが、痛みには他にも「神経障害性疼痛」と「心因性疼痛」の2種類があります。

侵害受容性疼痛:身体の一部が傷ついて生じる痛み
痛みを感じている場所に、傷をつけるような刺激が加わっている
または、その場所の体組織が傷ついていて(組織損傷)、末梢神経の刺激を感じるところ(受容体)が刺激を受けた
いずれかの要因で「痛み」の信号が脳に送られて感じる痛み
神経障害性疼痛:神経が傷ついて生じる痛み
いわゆる「神経痛」と呼ばれる痛み
神経そのものが傷ついて、「痛み」の信号を脳に送り続けている状態
心因性疼痛:脳の中で起こる痛み
脳の中にある、痛みをコントロールする働きに異常が起きて生まれる痛み
この痛みは、ストレスと関連して発症することが多いとされている

歯が原因となる痛み(歯原性歯痛)とは、基本的に「侵害受容性疼痛」の一種であると考えられます。歯の神経(歯髄)の炎症や、歯を支える組織(歯周組織)の炎症などで起きる痛みであり、歯科医院で最も治療の対象となる疾患による痛み、とも言えます。

一方、歯そのものが原因でない「神経障害性疼痛」や「心因性疼痛」のことは「非歯原性歯痛」と呼ばれます。非歯原性歯痛にはどんな種類があるのか、次章で詳しく見ていきましょう。

非歯原性歯痛にはどんな種類がある?

非歯原性歯痛で多いのは、「アゴを動かす筋肉の影響による痛み」と「神経痛」の2つです。アゴを動かす筋肉の一部が痛むという状態を「筋・筋膜性歯痛」と言います。歯ぎしりや食いしばりなどで慢性的に筋肉に負担がかかり、疲労が溜まった結果生じてしまう痛みなのですが、これを歯の痛みと認識してしまう「関連痛」の一種です。

力の負担がかかりやすい上下の「奥歯」に鈍い痛みが起きやすく、人によっては痛みが24時間続く場合もあります。この痛みは筋肉疲労によるものなので、口のストレッチや筋肉のストレッチ、マッサージなどを行って血流を改善すると痛みも改善されます。

一方、神経痛は前述の「神経障害性疼痛」のことで、以下の2つのタイプがあります。

持続性神経痛(帯状疱疹性歯痛)
帯状疱疹ウイルスによる感染症で、急性期と慢性期に分けられる
ジリジリするような痛みが、神経に沿って左右どちらかに生じる
発作性神経痛
頭部神経を司る「三叉神経」と、知覚や味覚を司る「舌咽神経」の神経痛
上の前歯の二つ隣に位置する歯や、下顎奥歯の周辺にツーンとするような激しい痛みが生じるケースが多い
洗顔や歯磨きなど、神経領域に刺激を与えたときに痛みを誘発することがある

その他、以下のような原因で非歯原性歯痛が生じることがあります。

頭痛の影響
片頭痛や群発性頭痛によって、歯に痛みが生じることがある(神経血管性歯痛)
何時間か痛みが続いた後、消失するケースが多い
副鼻腔炎などの影響
副鼻腔炎などが原因で、上顎の奥部分に炎症が起こる状態(上顎洞性歯痛)
頬の骨の裏側にあり、鼻の左右にある空洞(上顎洞)の周囲に圧迫感があるため、上の歯の痛みと勘違いしやすい
身体を動かすと歯に響くような感覚があったり、痛みが数日間にわたって続いたりする
心疾患の影響
心筋梗塞などの心疾患が原因となって、歯に痛みが生じることがある(心臓性歯痛)
歩くなど、身体を動かすと痛みが生じるケースが多い
心理的・社会的要因
うつ病、統合失調症、身体表現性障がいなどが原因で歯痛を感じることがある
痛みが出たり治まったりと、1日の中でも変動があるのが特徴
抑うつ、イライラ感、不安感などの精神的不調を伴う場合がある

上記のいずれにも当てはまらない「特発性歯痛」という原因不明の痛みもあります。歯にもその他の部分にも異常が見当たらないのに、歯に痛みが生じる状態です。ジンジンという痛みが慢性的に、起きている間続くケースが多いとされています。

心の不調やストレスが歯の痛みを作り出すのはなぜ?

前章でご紹介したように、心の不調やストレスから歯が痛むケースもあります。古来、「病は気から」と言われていましたが、この言葉には「身体的な疾患は、精神的な調子の影響を強く受ける」という意味が含まれています。「気の持ちよう」という意味で使われてしまうことが多い言葉ですが、疾患のみならず体調は精神的な調子の影響を強く受けます。

例えば、緊張したときに口の中がカラカラに渇いてしまったり、何かを我慢するときに歯をくいしばったり、本人の意思とは無関係に身体が心に反応してしまうことはよくあります。ということはもちろん、逆に身体の不調が心に影響することもあります。美味しいご飯も、歯が痛いと美味しく感じられず気持ちが暗くなったり、親知らずが痛んで仕事も手につかないほど落ち込んだり、歯をキレイに白くすると笑顔に自信がつき、気分が明るくなったりします。

このように身体と心は密接に結びついていて、お互いに強く影響し合っていることを「心身相関」と呼びます。最近の研究では、心の一面である感情が免疫系・内分泌系・自律神経系など、身体機能と密接に関係していることも科学的に証明されてきています。さらに、人間は社会的動物と呼ばれ、家庭や職場、学校などの複雑な人間関係からも大きな影響を受けます。

ですから、人間の疾患を心と切り離して身体のみの不調と考えず、心理面や社会面を考慮して全体的(総合的)に診療を行う医学を「心身医学」と呼んでいます。心身医学では、主に「心身症」と呼ばれる疾患を診察・治療しますが、この「心身症」は、ある特定の疾患のことだけを指すものではありません。

身体の病気であっても、心理的・社会的な因子が密接に関わって起こる病態のことを「心身症」と言います。そして、心身症のうち心理的・社会的因子の影響が歯科系統に強く出るものを「歯科心身症」または「口腔心身症」と呼んでいます。代表的な歯科心身症には「口臭症、舌痛症」などがあり、心身症を扱う歯科のことを「心療歯科」と呼ぶことがあります。

顔や顎や口内など歯科の治療対象領域は知覚神経に富み、口唇や口内粘膜は触覚・痛覚に敏感で、舌はこの他に味覚も感じます。歯の神経は、痛みなどの違和感が生じない限り意識することはあまりないかもしれませんが、歯の根の周囲の神経感覚は、髪の毛1本も識別できるほど敏感です。この神経があるおかげで、食べ物に異物が混ざっていても知覚できるわけです。

歯科領域の心身症とは、これらの感覚に関連した病態が現れるものです。例えば、ある感覚が過敏になったり、感覚の錯誤(間違い)が起こったりします。こうなると、患者さん本人は確かにそこに感覚を感じていても、直接口内外に関連する原因が見つからない状態になってしまいます。

つまり、患者さんは歯や歯茎、舌、口唇などに問題があると強く思うのですが、その部位を治療しても本来の症状は軽減されないのです。このように、心身症を心と切り離して身体側からの治療だけしか行わないと、いつまでも原因がわからず治療期間が長引いてしまいます。歯科心身症はこのようなケースが多く、現れる症状にも個人差が多いという特徴があります。

では、なぜストレスや心の病気から歯科領域に問題が起こるのでしょうか。歯痛を引き起こす直接的な要因としては、以下のようなものが考えられます。

免疫力の低下
ストレスを感じている状態では、身体の免疫力が落ちてしまっている
普段の状態なら身体に影響しない程度のことでも、体調不良として現れやすい
免疫力が落ちていると口内で雑菌が繁殖しやすくなったり、健康な状態では起こらないような炎症が起きて歯茎が腫れたりすることがある
ストレスがあっても、口内が健康な状態なら歯の痛みは起こらない。ストレスで歯が痛む場合、何らかの異常があることを知らせてくれている
歯ぎしりや食いしばり
ストレスがあると無意識に歯ぎしりをしたり、奥歯を強く噛んだりしてしまう
歯にいつも以上に強い力を加え続けると、歯がひび割れてそこから炎症が起きてしまうことも
頭痛や肩こりによる関連痛
「関連痛」とは、全く別のところで起きている痛みが他の痛みを引き起こしてしまうもの
人間の神経は繋がっているため、どこかで起きた痛みが原因で他の場所にも痛みが生じることがある

歯科心身症は治せるの?

歯科心身症は、その病態も原因も個人差が大きい疾患です。ストレスが原因の場合は、まずストレスを取り除きましょう。ストレスがなくならないと免疫力が下がったままで、根本的な痛みの原因が解消されません。そこで、自分の生活を今一度振り返り、寝不足・不規則な生活・食生活の乱れなど、知らず知らずのうちにストレスを溜めていないかどうかチェックしてみましょう。

上記のような身体性のストレス以外にも、心因性のストレスが原因となる場合もあります。何らかの心配事や大きな悩み、人間関係や仕事に関係するストレスなど、すぐに解消するのは難しいかもしれませんが、ひととき悩みから離れて頭を休められるよう、リラックスできる環境を整えることが大切です。

ただし、ストレスではない原因、または大きすぎるストレスによる歯科心身症の場合、「心療歯科」「心身医学」を掲げる歯科医院や大学病院、総合病院の口腔外科などで診察してもらい、専門的な治療を受ける必要があります。まずは患者さんが抱えている痛みや諸問題を問診し、「いつから始まり、どのように経過し、どんな症状なのか」といった症状の特徴を把握します。

次に、実際に痛みを訴える部位や口腔内に症状を引き起こしている疾患があるかどうか診断します。このため、主に「除外診断」という、疾患がないことを確認するタイプの診断を行います。こうしてさまざまな検査を行った後、身体面だけでなく心理面や社会面が痛みに強く影響していることがわかった場合に心身症が疑われます。

最初から心身症の懸念がある場合など、これらに心理検査が加わることもあります。一般的に精神科やカウンセリングなどでも行われる心理面の検査で、最も多い方法は患者さん自身が「自分に最も当てはまる」と認識している質問に答えていくアンケート方式のもの(心理テスト)です。心理検査のみで心身症の確定診断がくだされるわけではありませんが、診断の大きな助けになります。また、治療の途中で心理検査を行い、心理面に対する治療の効果を図ることもあります。

検査の結果、口腔内に異常がないとわかるとそれだけで気分が楽になり、安心して痛みも引く人もいます。しかし、心身症であることが判明しても痛みが続く場合は、心理療法と薬物療法の2種類の治療法が用いられます。

歯科心身症の心理療法って?

心理療法とは、いわゆる医療的なカウンセリングと考えて差し支えありません。これにはさまざまな方法があり、担当医やカウンセラーによって得意な方法が異なりますので、まずは得意な方法で行います。特に歯科心身症では、症状に意識が集中してしまう「とらわれた」状態の患者さんが多いので、このパターンを改善していく心理療法が中心となります。

歯科治療などで強い不安が生じると、その不安が治療した部位に意識を集中させてしまい、意識が集中した部位の感覚が敏感になりすぎて今まで感じていない感覚が生じます。この感覚に対して(身体的なアプローチとしての)歯科医療など何らかの対処療法をとった場合、さらに意識が集中して感覚が過敏になる悪循環に陥ってしまうケースが多いです。

そこで、個人の考え方のパターンに気づき、意識的に変えていくのをサポートするのが「心理療法」です。直接考え方にアプローチするのではなく、行動を変えていくタイプの心理療法もありますが、いずれにせよ患者さんそれぞれに対して適切な方法が選ばれれば、治療の効果も実感できるでしょう。

歯科心身症の薬物療法って?

もう一つの治療方法は、薬を使う方法です。精神に働きかける「向精神薬」というタイプの治療薬を使うため、中には精神面に影響がある薬を使うことに抵抗感がある人や、副作用が怖いという人もいるのですが、近年、心身症は脳機能の不調から生じていることがわかってきました。このため、脳機能に影響する薬を使った治療法が最も効果を得られるのです。

精神薬は医師の指示を守って適切に使えば怖い薬ではありませんし、効果もしっかりわかります。副作用が出た場合はすぐに主治医に相談すれば、効果が同じ別の薬を使えることもありますので、心配しすぎる必要はありません。実際の診療では、向精神薬の処方はその専門家である精神科や心療内科の医師に紹介し、処方を依頼することもあります。

心身症の治療はその症状と同じように治療期間にも個人差があり、1ヶ月程度で変化が現れる人もいれば、半年〜1年以上の通院が必要な人もいます。疾患で悩んでいる期間が長いほど、どうしても「1分、1秒でも早く治りたい」という気持ちから焦ってしまう人も多いのですが、特に心理的なアプローチで焦りは禁物です。

精神薬を使った治療は、開始してすぐは効果がわからないものも少なくありません。使っていくうちに徐々に効果が現れてくるものも多いので、少しでも症状が良くなったならそこに注目し、一時的に悪くなったとしても長い目で見たときに良い方向に向かっているのであれば、諦めず治療を続けることで治りもより早くなるでしょう。

おわりに:ストレスや心の病気で歯が痛むこともある。専門家の治療を受けよう

歯が痛いとき、虫歯など歯そのものに原因があることが多いですが、一方で歯そのものには異常がない「非歯原性歯痛」という痛みもあります。非歯原性歯痛の中には、ストレスや心の不調が関連する「歯科心身症」というものがあります。

歯科心身症は、身体的なアプローチだけでなく、原因となっている心理面・社会面など、心の問題からのアプローチが必要です。歯に異常がない痛みの場合は、歯科心身症の専門医に相談してみましょう。

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