現代社会はストレス社会とも呼ばれ、意識的にリラックスしてストレスを軽減することが推奨されます。リラックスするためにはさまざまな方法がありますが、いずれも「副交感神経」と呼ばれる神経の働きが重要です。
そもそも、副交感神経とリラックスはどのように関係しているのでしょうか。また、どうやってケアすれば良いのでしょうか。今回は、副交感神経について詳しく見ていきましょう。
副交感神経とリラックスの関係は?
副交感神経とは、自律神経と呼ばれる神経系の一つです。自律神経には、日中の活動や興奮・緊張などを司る「交感神経」と、リラックスや睡眠時の身体機能を司る「副交感神経」の2つがあり、消化器官や心肺機能・分泌腺など、我々が自分の意思ではコントロールできない身体機能を調節し、体内環境を整えています。
つまり、意識しなくても呼吸を行ったり、食べたものを消化したり、体温を維持するために汗をかいたりできるのは自律神経の働きがあるからです。逆に、知覚神経や運動神経など自分の意思でコントロールできる神経は「脳髄神経系」と呼ばれています。いずれも脳や脊髄にある神経ではありますが、それぞれ伝達経路が異なります。
脳から脊髄にかけては神経の集中する場所です。交感神経は脊髄の外側から出て前側(腹部側)に回り、脊髄の両脇にある「交感神経幹」に入ったのち、各臓器など全身に分布して情報を伝えるという経路を取ります。一方、副交感神経は中脳・延髄・脊髄の下部から出て身体の中に伸びていきます。
いずれも、脳や脊髄から全身に向かう神経経路と、逆に全身から脳や脊髄に向かう神経経路があります。実際に自律神経系を図で見てみると、脊髄をに沿って伸びる交感神経系と、それを取り巻くように位置する副交感神経系があるのがわかります。ここから各種臓器に対し、交感神経と副交感神経はそれぞれ以下のような反応を促します。
臓器・分泌 | 交感神経 | 副交感神経 |
---|---|---|
瞳孔(ひとみ) | 散大(光が多く入るようにする) | 縮小(光の刺激を抑える) |
涙腺 | 血管が収縮し、涙の分泌が減る | 血管が拡張し、涙が増える |
唾液腺 | 唾液の分泌が減少し、喉がカラカラに渇く | 唾液が増える(※唾液は消化液の一種) |
胃腸の分泌腺 | 胃液(胃酸)や腸液の分泌が減る | 胃液や腸液の分泌が増える |
胃腸の運動 | 動きが減り、便秘がちになる | 蠕動運動などが活発化し、場合によっては下痢を引き起こす |
気管の平滑筋 | ゆるんで気管の内径が広がる | 気管を締めつけ、気管内径が狭くなる(※喘息と同様の状態) |
心臓のリズム | 心拍数が増え、ドキドキする | 心拍数が減る |
心筋の収縮 | 大きく収縮し、全身に十分な血液を送る | 弱い収縮となる |
末梢血管 | 収縮し、血圧が上がる | 弛緩し、血圧が低下する。片頭痛が起こることも |
汗腺 | 汗の分泌量が増える | なし |
立毛筋 | 収縮し、鳥肌が立つ | なし |
膀胱、直腸、肛門の筋肉 | 尿や便を溜め込むように働くため、便秘になる | 尿や便を押し出すように働き、下痢になることも |
脳や神経系 | 興奮状態になる | 静まり、眠くなる |
神経伝達物質の分泌 | アドレナリン、ノルアドレナリン | アセチルコリン |
人間は目が覚めると交感神経が副交感神経よりも活発に(優位に)なるので、身体がしゃきっと目覚められ、周囲の明るさに関わらず目の瞳孔が開き、より多くの視覚情報が脳に入ってくるようになります。視覚情報をより多く得るために、涙の分泌量も減少します。活発な活動のためには酸素と栄養分が必要ですから、全身に血液を送るため拍動数が増え、それに伴って血圧が上がります。
このように、交感神経は心身を興奮状態に置くことで活動しやすい状態を作るほか、とっさの事態にもすぐ対応できるように備える体制を作ります。活動中に排便や排尿をすると外敵に襲われやすくなることから、膀胱の筋肉をゆるめて尿の貯留量を増やしたり、肛門括約筋を締めて排便が起こらないようにしたりする働きもあります。
ただし、これらの変化は活動モードに変化したとき交感神経によって自動的に調整されるものであり、人間が意識的にコントロールできるものではありません。唯一、呼吸だけは自分でも意識的に変化させることができますが、交感神経の支配下で無意識に呼吸をしているときは、浅く速いリズムになっています。
リラックスしたり眠ったりしているときは、副交感神経が優位になります。呼吸は深くゆっくりになり、心拍数も低下します。血管が拡張するため血圧は下がりますが、血行は良くなります。胃や腸をはじめとした消化器官は活発に活動し、食物を移動させる「蠕動運動(ぜんどううんどう)」を行います。
近年では、こうした自律神経系の働きと感情やストレスの間に密接な関係があるとわかってきました。例えば、耐えきれないような大きなストレスがかかると、原因がわからない身体の痛み、イライラなどさまざまな異常が生じてきます。これは自律神経のバランスが崩れ、うまく身体活動をコントロールできなくなってしまったサインと考えられます。
具体的には大きなストレスがかかると、身体は交感神経を活性化して対応しようとしますが、対応しきれないと身体にさまざまな異常が出てきます。つまり、ストレスによってイライラしたり、覚えのない痛みが生じたりしたときは、副交感神経を優位にしてリラックスし、自律神経のバランスを整える必要があるというわけです。
交感神経が優位な状態が続くとどうしていけないの?
日中活動するときは交感神経、リラックス時や睡眠時は副交感神経が優位になるよう、しっかり切り替わるのが理想的な状態です。つまり、人間の基本的な状態はリラックス状態ですから、必要なときだけ交感神経が優位な状態になれば良いわけです。しかし、ストレス社会と呼ばれる現代ではこの切り替えが上手くいかないだけでなく、交感神経が優位な状態が続いてしまっていることが大きな問題とされています。
人間はストレスを感じると、交感神経を刺激して一時的に身体に負担をかけてでもストレスから逃げようとします。ストレスから上手く脱してリラックス状態に切り替えられれば良いのですが、交感神経が優位になりっぱなしでバランスが崩れてしまい、疾患などが見つからないのに体調不良(不定愁訴)が多発する「自律神経失調症」に陥ってしまう可能性があります。
交感神経が優位になると、血管は収縮して心拍数や拍動の大きさが増加します。そのため「血管の抵抗×心拍出量」で規定される血圧を上昇させてしまいます。このように、交感神経の働きで日中の血圧のアップダウンが激しいと考えられる人は「交感神経緊張型高血圧症」と定義されています。つまり、ストレスなどで交感神経が強く活性化して血圧が上がってしまう人です。
また、目覚める直前の時間帯は、睡眠中で副交感神経が優位になった状態から、日中の交感神経が優位の状態に切り替わるときです。高血圧症の患者さんでは早朝から急激に血圧が上がる現象(モーニングサージ)がありますが、これは心血管系の重篤な疾患を引き起こす危険因子となりえます。
さらに、ストレスで交感神経を刺激されると、白血球のうち「顆粒球」が増えます。顆粒球は活性酸素を放出するので、組織を傷つけたり生活習慣病を引き起こしたり、がんや老化の進行を促進してしまったりします。逆に、副交感神経が優位になると白血球のうち「リンパ球」が増え、ウイルスに感染した細胞やがん細胞などを攻撃する「細胞性免疫力」が高まります。
他にも、交感神経が優位になった状態では消化器官の働きが弱まってしまい、便秘や神経性の下痢などを引き起こします。ですから、健康寿命を伸ばすためにも、心血管系の生活習慣病を防ぐためにも、入眠時や早朝を含め、活動モードとリラックスモードでスムーズに2つの神経を切り替える必要があります。
そのためには、日中に交感神経を十分に活性化すること、また、リラックスするときにはしっかり副交感神経を刺激してスイッチを切り替えることなど、肉体的・精神的にメリハリのある生活を送ることが重要です。
人間が健康に暮らしていくためには、活動しっぱなし、あるいは休みっぱなしが必ずしも良いわけではありません。休むときは休み、活動するときは活動するというように、単なる心理的な面ではなく、交感神経と副交感神経の切り替えを意識して行いましょう。
副交感神経の働きを高めるにはどうすればいい?
ストレス社会と呼ばれる現代では、基本的に交感神経が働き続け、副交感神経にうまく切り替わらないことで自律神経のバランスを崩す人が多いです。そこで、最後に副交感神経を刺激し、休息時やリラックス時にしっかり副交感神経を優位にするための方法をご紹介します。
- 深呼吸を行う
- 人間は自律神経の働きによって無意識にでも呼吸ができるが、交感神経が優位になっていると呼吸数が増えて浅くなってしまう
- ゆっくり4秒かけて息を吸い、8秒かけて息を吐くという深呼吸を心がけると、副交感神経を刺激できる
- 通常の呼吸より多くの酸素を取り入れられるため、血管が開いて血流が良くなり、緊張した筋肉がゆるんでリラックスする
- 1日に20回を意識して微笑む
- 口の両端をきゅっと上げて微笑む。口角を上げることで副交感神経が刺激される
- 朝日を浴びる
- 朝日を浴びると気持ちいい、清々しいと感じることは多いが、体内でも「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが分泌される
- セロトニンによってすっきりとした目覚めややる気アップ、自律神経のバランスが整うことにつながる
- セロトニンは全身にあるが、特に腸に多いため、腸の蠕動運動が活発になる効果も
- 落ち着いてゆっくり話す
- 意識してゆっくり話すようにすると、自然に呼吸も深くなり、副交感神経が刺激される
- 人に伝えたいことがあるときほど、ゆっくり話すことを心がけるのがよい
- 出だしをゆっくり話すと話もわかりやすくなるため、説得力や信頼感もアップする
- 適度な運動や体操、ウォーキングをする
- 自分に合った無理のない運動や体操、ウォーキングを取り入れる
- 身体を動かしながら深い呼吸ができる程度のペースで行うことが重要
- 副交感神経の働きを保ちながら、新鮮な酸素や栄養分を含んだ血液が末端の組織までしっかりと届くため、リラックスにも健康にも良い
- 毎朝、コップ1杯の水を飲む
- 朝に飲む水は、睡眠中に失った水分を補うとともに副交感神経の働きを高める
- 消化器官の働きを促すことで、自然な便意につながり便秘予防にもなる
- 朝食を摂る
- 朝食を摂取した直後は交感神経の働きが高まるものの、その後は消化・吸収のために副交感神経が活発に働く
- 3度の食事の度にこのように自律神経が切り替わるため、胃腸の働きが活性化する
- 1口につき30回くらいよく噛んで食べると、消化が良くなり過剰な食欲も抑えられる
- 首を温める
- 冷え性の人は首・手首・足首などを冷やさないようにと言われるが、特に「首」を温めることが副交感神経の活性化につながる
- 首には副交感神経と交感神経の要所が存在し、脳から腸まで届く重要な神経の通り道
- 日常の動作に「ゆっくり」を心がける
- ゆっくり歩く、ゆっくりかがむ、ゆっくり立ち上がるなど、日常の動作をゆっくり行う
- 同時に、座ったり歩いたりするときの姿勢を正すこともおすすめ
- ゆっくりできる時間を持つ
- 1日30分、1週間に1日など、予定のないブランクな時間を作る
- 完全な白紙の時間を作ると、心身ともにリセットできて気持ちに余裕が生まれる
また、こうしたことを実践するために、朝はこれまでよりも10〜30分程度早起きすると良いでしょう。ゆっくり朝ごはんを食べ、余裕を持って支度をすることで、自律神経のバランスを崩さずに済みます。一方、早く準備しなくてはと気持ちが焦るとストレスとなり、呼吸が浅く速くなって交感神経が優位のままになってしまいます。
もちろん、副交感神経の働きを高めるためにここでご紹介した全てのことを行う必要はなく、自分に合った方法で行うことが重要です。毎日忙しくてリラックスに使う時間もないということであれば、口角を上げて笑うことや、深い呼吸を心がけるだけでも良いでしょう。何らかのストレスを感じたり、緊張したりしたら大きく深呼吸し、副交感神経を刺激しましょう。
緊張したときやストレスを感じたときには、水を飲むのもおすすめです。例えば、不整脈の発作を起こした患者さんに水を飲ませると落ち着いたり、講演会の演者席に必ず水が用意されていたりするのは、副交感神経の働きでリラックスするためです。他にも、軽いストレッチやヨガ、アロマ、入浴、好きな音楽を聴く、ペットと触れ合うなども副交感神経の活性化に効果的です。
また、副交感神経と交感神経はあくまでもバランスが大切ですから、普段、交感神経ばかりが働いている人では副交感神経を活性化する必要がありますが、日常生活に刺激がなさすぎてもそれがストレスとなり、代謝を抑制したりアレルギー疾患を発症したり、無気力や抑うつ状態を引き起こしたりする可能性があります。何事もほどほどに、バランスの良い生活を心がけましょう。
おわりに:深呼吸や笑顔を心がけ、副交感神経の働きで心身ともにリラックスしよう
副交感神経はリラックスを司る自律神経ですが、ストレス社会と呼ばれる現代では交感神経が働きやすく、意識的に副交感神経を刺激してリラックスし、自律神経のバランスを整えることが心身の健康のために重要です。
副交感神経を刺激するには深呼吸や笑顔、適度な運動や体操、ウォーキングなどさまざまな方法がありますので、自分に合った方法で行いましょう。10分早起きして、朝の時間に余裕を持つことも大切です。
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