私たちの身体は、ストレスがかかるとそれに対抗しようとさまざまな反応を生じます。その反応によっては臓器が疲労してしまうことがあり、腎臓の上にある「副腎」という部分が疲労してしまうこともあります。
今回は、ストレスによって副腎が疲労してしまう仕組みやその見分け方、食事による回復方法などをご紹介します。最近ストレスが多いな、と思う方はぜひチェックしてください。
ストレスホルモン「コルチゾール」とは?
現代社会はストレス社会とも言われますが、会社や学校、家庭、親戚づきあいや友人関係など、内容や大きさに個人差はあっても、誰しもストレスから完全に逃れることはできません。また、本人にとってやる気を起こさせてくれる「良いストレス」というものもあります。しかし、いずれのストレスも慢性化して心身の疾患を引き起こしてしまうようになると、放置しておくわけにもいきません。
ストレスというと精神的な負荷を思い浮かべやすいですが、心への影響だけでなく、身体的にもさまざまな変化を与えます。例えば、プレゼンや舞台など緊張する場面に臨むとき、ストレスを受けると放出される「コルチゾール」というホルモンの値が10〜20分間で2〜3倍にも増えることがわかっています。
「コルチゾール」は副腎皮質から分泌されるホルモンの一種で、心身にストレスを受けると急激に分泌が増えることから「ストレスホルモン」と呼ばれています。このため、コルチゾールはどうしても悪者扱いされやすいのですが、本来、コルチゾールはストレスから身を守ろうとして心身に変化を起こすために分泌されるものです。
ですから、一時的にコルチゾールの量が増えるのは人体にとって正常な変化とも言えますので、問題はありません。しかし、長期間に渡ってストレスにさらされ続けると、脳の海馬を萎縮させてしまうなどの悪影響を及ぼします。例えば、うつ病患者さんのコルチゾール値が高いことからも、コルチゾール値が上昇しっぱなしであることは心身に悪影響であるとわかります。
コルチゾールの主な働きは、肝臓でタンパク質から糖を作る「糖新生」、筋肉のタンパク質をエネルギー源として利用するタンパク質代謝、脂肪組織での脂肪分解などの代謝促進、抗炎症、免疫抑制などであり、正常な身体機能を保つためにも欠かせないホルモンの一つです。抗炎症作用の働きがあることから、ステロイド系炎症薬として治療にも使われています。
コルチゾールはどうやって分泌されるの?
我々の身体に備わっている免疫機能は、病原体が侵入してくるとさまざまな段階に及ぶ免疫システムを稼働させ、それに対抗しようとします。それと同じように、心身がさまざまなストレス要因(ストレッサー)を受けると、体内でさまざまな反応が起こり、神経やホルモンなどから身体中に指令が飛び、ストレスに対抗しようとするのです。
心身がストレスを受けると、まず大脳新皮質でキャッチされ、刺激の種類に応じた神経伝達物質が分泌されます。さらにそれを受け取った大脳の視床下部から、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌されます。その後、内分泌系(主にホルモンによって制御されるルート)と、自律神経系のルートによってストレス反応が起こります。
コルチゾールが働くのは、この「内分泌系」と呼ばれるルートの方です。CRHが分泌された後、視床下部の下にある「脳下垂体」という部分からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とβ-エンドルフィン(脳の神経伝達物質の一種)が分泌されます。β-エンドルフィンは別名「脳内麻薬」とも呼ばれており、痛み・不安・緊張などを和らげる作用があります。
ACTHは、腎臓のすぐ上にある「副腎」にある「副腎皮質」を刺激してコルチゾールの分泌を促します。分泌されたコルチゾールが代謝活動や免疫系を活性化させ、さまざまなストレッサーから心身を守る働きをするというわけです。
コルチゾールはバランスが大切って本当?
コルチゾールは一日の間でも増減します。例えば、分泌が最も多い時間帯は一般的に朝とされていて、夜には少なくなり、身体の活動リズムを整えてくれる働きがあります。このように、コルチゾールは生体に欠かせないホルモンなのですが、一方でコルチゾールが長期間、大量に分泌され続けると、やがて代謝のバランスが崩れてしまいます。
通常、分泌されたコルチゾールの濃度が高くなると、脳の「ネガティブフィードバック」という機能によって分泌が抑制され、濃度が高くなりすぎないよう調整されています。しかし、過剰なストレスを受け続けると、ネガティブフィードバックが機能しなくなり、コルチゾールの分泌が慢性的に増えてうつ病や睡眠障害、生活習慣病などのストレス関連疾患を引き起こす要因となることがわかっています。
最初にご紹介したように、ストレスには楽しいストレスもあります。旅行に行く、結婚式などのイベントを執り行うなど、良いことであってもいつもと大きく変化することは心身にストレス負荷をかけます。ですから、良いことであっても悪いことであっても、変化の後には十分に休息やリラックスの時間を設け、コルチゾールの分泌バランスが高くなった状態が続きすぎないようにすることが重要なのです。
ストレスも原因?副腎疲労症候群とは?
前述のように、ストレスホルモン(ストレスに対抗するためのホルモン)であるコルチゾールは腎臓にある副腎の中の「副腎皮質」から分泌されています。ストレスがかかり続けるとコルチゾールが過剰に分泌され続け、副腎がだんだんと疲労し、やがては全身の慢性疲労や抑うつ状態へと進行していきます。これを「副腎疲労症候群」と言います。
副腎疲労症候群の最も大きな要因はストレスで、人生の一大事や慢性的なストレスが続いてコルチゾールがどんどん分泌され、副腎が疲弊してしまうと、やがてさまざまなホルモンを十分に分泌できなくなってしまいます。すると、ストレスに対処しきれなくなり、慢性疲労や抑うつ状態など副腎疲労症候群の症状が見られるようになってきます。
他にも、睡眠不足や栄養不足も副腎疲労症候群の要因として挙げられます。
- 睡眠不足
- コルチゾールは朝に多く、夕方以降は減少する(ホルモンの日内変動)
- 夜遅くまでの残業や夜更かしで睡眠不足が続くと、副腎が疲弊してホルモン分泌が減る
- 朝起きられなくなったり、起きたときから疲れていたりする「副腎疲労症候群」になってしまう
- 栄養不足
- コルチゾールを含むさまざまな副腎皮質ホルモンはコレステロールから作られる
- コレステロールからホルモンを作る過程で、ビタミンB・C、マグネシウムなどが必要になる
- これらの栄養素が不足すると、ホルモンが十分に作れなくなってストレスに弱くなる
副腎が疲弊したり、栄養が不足したりしてコルチゾールを始めとしたホルモンの分泌量が減ると、以下のようなさまざまなホルモン不足の症状が見られるようになります。
- コルチゾール
- 低血糖、集中力の低下
- アルドステロン
- 低血圧、立ちくらみ
- DHEA
- 抗酸化作用
- 性ホルモン
- 月経不順、性欲低下
副腎疲労症候群かもしれないのはどんなとき?
副腎疲労症候群になると、前述のようにさまざまな身体症状が出てきます。そこで、副腎疲労症候群で見られる代表的な症状を以下にまとめました。 3項目以上当てはまる場合は、副腎疲労症候群の可能性が高いと考えられます。ぜひ、早めに病院に行って医師の診察を受けましょう。
- 朝起きられない、起きるのがつらい
- 熟睡できた感じがせず、目が覚めても疲れがとれない
- 立ちくらみがする(起立性低血圧)
- エネルギーが不足している感じがする、元気が出ない
- 身体が重い、だるい
- やる気がしない
- 気持ちが落ち込み、人生に何の意味も見いだせなくなる、楽しいことがないなど抑うつ症状がある
- 記憶力や集中力が低下し、ぼーっとしたり物忘れしたりすることが多くなった
- 頭が働かず、今までできていた日常的なこともやるのに一苦労する
- 甘いものが欲しくなり、食べると元気になるが、その後だるくなる
- 塩分が濃いもの、しょっぱいものが食べたくなる
- 食事を1回抜くとぐったりしてしまうなど、低血糖症の症状がある
- コーヒーやコーラ、チョコレートなど、カフェインの入った飲み物や食べ物を口にしないとやる気が出ない
- 風邪や呼吸器の感染症にかかりやすく、かかると治りにくい
- ぶつけたり、ケガをしたりした傷が治りにくい
- 午後3〜4時ごろはぼんやりしてしまうのに、夕食後や午後6時以降には元気になってくる
- ストレスにうまく対処できず、小さなことでもイライラして八つ当たりしてしまう
- 我慢できなくなり、急にキレてしまうようになった
- PMS(月経前症候群)が悪化し、頭痛や肩こり、便秘などの症状が激しくなった
- 性的な興味が低下したり、失われたりした
副腎疲労は食事で回復できる?
副腎疲労症候群に陥らないためには、副腎から分泌されるさまざまなホルモンの原材料となる栄養素を適切に摂取することと、副腎に負担をかける食物をなるべく避けることが重要です。具体的には、ミネラルやビタミンB群、オメガ3脂肪酸、良質なタンパク質や脂質をしっかり摂取しましょう。
- ミネラル・ビタミンB群
- ミネラルや亜鉛:海藻・海苔・魚介類など
- カルシウム:チーズ・小魚など
- ビタミンB群:豚肉・玄米など
- オメガ3脂肪酸
- サンマ・アジ・イワシなどの青魚
- エゴマ油、アマニ油など、α-リノレン酸が含まれる植物油
- 良質なタンパク質・脂質
- 良質なタンパク質とは、アミノ酸がバランス良く含まれているタンパク質のこと
- 良質な脂質とは、飽和脂肪酸やオメガ脂肪酸類など
- タンパク質:肉類、魚介類、牛乳・乳製品、卵類、大豆・大豆製品など
- 脂質:牛肉、卵、バター、ココナッツオイル、オリーブオイル、アボカド、大豆油、ごま油など
副腎疲労の人は、主にビタミンB群やミネラル(中でもカルシウム)などが不足していると考えられています。副腎が疲労している状態では腸にも影響が出てしまい、副腎疲労の回復に必要なカリウムやナトリウムの吸収率も下がってしまいます。ビタミンB群やミネラルの不足はメンタルの不調にもつながりやすいとされていますので、意識的に摂取しましょう。
オメガ3脂肪酸は体内で作れませんので、食事から補わなくてはなりません。このため、「必須脂肪酸」とも呼ばれていて、健康維持に大切な役割を担っています。特に、魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)は脳の重量の約8%を占めるとされていて、「魚を食べると賢くなる」と言われる所以でもあります。
また、肉類は健康に悪影響だと考えられてしまうことも多いのですが、動物性のタンパク質はアミノ酸をバランス良く含んだ良質なタンパク質の源です。特に、メチオニンを始めとした「必須アミノ酸」と呼ばれる、体内で作り出せないアミノ酸を含むため、適切に摂取していきたい食材です。
メチオニンは硫黄を含むアミノ酸で、体内で「グルタチオン」という解毒酵素に関係します。つまり、十分なメチオニンがないと身体に備わっているデトックス機能が低下してしまい、副腎の働きも弱ってしまうのです。肉類を極端に避けるのではなく、どの食材もバランス良く摂取することを心がけましょう。
そして、副腎疲労の根本的な回復として体内に蓄積される有害物質や重金属を排出することが重要です。体内に入ったこれらの物質は、本来肝臓からデトックスされるのですが、現代の食生活では肝臓機能も落ちやすくなっていることから、肝臓機能を高めてくれる以下のような食材も摂取しておくと良いでしょう。
- 玉ねぎ、にんにく、パクチー、生姜などの薬味
- フレッシュなハーブ野菜
- 緑黄色野菜など、色が濃く苦味のある野菜
緑黄色野菜には抗アレルギー作用や抗酸化作用もありますので、ぜひ積極的に摂取しましょう。
副腎疲労を避けるために、控えるべき食べ物は?
上記のように副腎の働きを助けてくれる食材もあれば、副腎を疲れさせてしまう食材もあります。具体的には、以下のような食材は控えておきましょう。
- 食品添加物、化学合成物質
- 副腎を刺激するアルコール、カフェイン
- 白砂糖やスイーツ(精製された砂糖を使っているもの)
- 食品添加物の多いジャンクフード
また、近年では小麦や大麦に含まれるグルテンを控えるのが良いのではないか、という説も広まっています。実際に、グルテンに過敏な人がそうとは知らず毎日パンを食べ続けていると、副腎に負担がかかりっぱなしになってしまうのです。
とはいえ、こうした物質は完全に避ければ絶対に副腎が疲れないというわけでもありません。つまり、何事もバランスが重要なのです。体内環境には個人差も多いことから、自分の体調や体質を鑑みて、摂取しすぎないように気をつけましょう。
おわりに:ストレスによる副腎疲労は、休息や睡眠、食事で回復しよう
ストレスを受けると、人体はストレスに対抗しようとさまざまな生体反応を引き起こします。反応を起こす主なホルモンに「コルチゾール」があり、コルチゾールは腎臓の上の「副腎」にある「副腎皮質」から分泌されます。
ストレスが続くと副腎が疲労してしまい、ホルモンが正常に分泌されなくなります。そこで、休息や睡眠とともに、ホルモンの材料となる食材を食べましょう。同時に、副腎を疲れさせる食材を控えるとより効果的です。
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