心身にストレスがかかると、身体にさまざまな悪影響が現れます。心配ごとや悩みごとがあると眠れなくなったり、胃腸の働きが悪くなったりするのはよく知られていますが、他にもさまざまな症状を引き起こすことがわかっています。
そこで、今回はストレスが原因で起こる耳鳴りについてご紹介します。ストレス以外の原因や、放置しているとどんな危険があるのか知っておきましょう。
耳鳴りとは?どんな種類があるの?
耳鳴りとは「本来聞こえるはずのない音が耳の中で聞こえる」という症状のことです。つまり、周囲に明らかに音の発生源となるものがないにも関わらず、音を感じる状態です。耳鳴りで聞こえる音は、「キーン」「ピーン」という金属音や電子音に似た高音のほか、「ブーンブーン」「ボー」「ゴーッ」「ジィー」といった低音など、さまざまな報告があります。
ただし、ほとんど音のない状態の部屋にいるとき「シーン」という音を感じるのは、誰でも体感することですので、耳鳴りや何らかの異常ではありません。耳鳴りは世界の人口のうち約15〜20%の人に生じるとされ、他に疾患や異常のない健康な人でも見られる症状の一つです。65歳以上の高齢者では聴力の低下とともに耳鳴りが増え、30%以上が耳鳴りの症状で苦痛を感じているとされています。
耳鳴りが慢性的に続く場合、耳や脳の疾患が潜んでいることもあります。さらには、耳鳴りが続くことで集中力が下がったり、眠れなくなったりと日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。耳鳴りの症状が重くなると、不安からうつ病など精神的な疾患を引き起こす場合もありますので、耳鳴りの症状が続いて辛いときは耳鼻科などの専門医を受診しましょう。
耳鳴りには、大きく以下の2種類があります。
- 自覚的耳鳴
- 患者本人だけが音を感じる耳鳴りで、通常は耳鳴りと言えば自覚的耳鳴を指す
- 自覚的耳鳴の場合、体内に音源はない
- 多くは内耳の蝸牛(鼓膜などから伝わった音の心動を電気信号に変える器官)や、脳の中にある聴覚中枢の感覚器、神経などの障害によって引き起こされる
- 他覚的耳鳴
- 患者本人の体内に音源があるため、他者にもその音を聞き取れる耳鳴り。頻度はまれ
- 血管性耳鳴(拍動性耳鳴):耳周囲の血流異常が原因で、雑音が聞こえる。ドクンドクン、ザーザーなど脈拍に連動した雑音なのが特徴
- 筋性耳鳴:耳周囲の筋肉の収縮リズムの異変が原因で、雑音が聞こえる。カチカチという硬い機械のようなクリック音が特徴
耳鳴りの原因は?ストレス以外もあるの?
耳鳴りが起こる具体的な原因としては、ほとんどの場合難聴と考えられます。難聴がなくても耳鳴りがある場合は「無難聴性耳鳴」と呼ばれますが、無難聴性耳鳴と診断される場合であっても、検査では現れないような潜在的な難聴があるのではないかと考えられる場合が多いです。例えば、有毛細胞という音を感じる細胞が数割程度障害されても聴力検査では変化が現れないのですが、脳はそのダメージを感じ取って耳鳴りを引き起こしているのかもしれません。
一方、難聴で耳鳴りが起こるのは、耳が悪くなって本来の状態よりも脳に音の情報がわずかしか届かなくなり、脳が音をもっとよく聞き取ろうとどんどん感度を上げているうち、音が実際には発生していないのに音を感じ取る回路が固定されてしまうためだと考えられています。実際に、耳鳴りは聴力が落ちている高さで起こることが多いです。
難聴による耳鳴りには、大きく分けて以下の4つの要因が考えられます。
- ストレス
- 仕事や人間関係の悩みなどからくる精神的なストレス、不規則な生活習慣による身体的なストレスなど
- ザーザーという血流音や、呼吸音などが耳鳴りとして聞こえる場合が多い
- ストレスによって自律神経が乱れ、脳で音の選別をしにくくなって耳鳴りが起こる
- 楽しいことをしていると耳鳴りを意識しないが、イライラしたり眠れなかったりというときには耳鳴りを強く感じる
- 耳鳴りがあること、耳鳴りを意識すること、耳鳴りを苦痛に感じることは全て別の現象
- 加齢
- 耳鳴りの原因として最も多く、誰でも程度の差はあれど加齢で聞こえが悪くなる
- 高音域から聞こえにくくなるのが特徴で、聞こえにくくなった音を聞き取ろうと耳鳴りを発症する
- 騒音
- 大きな音にさらされると、内耳の蝸牛がダメージを受け(音響障害)て耳鳴りが出現することがある
- 難聴とともに耳鳴りを引き起こすことがあり、より大きな音だとより短時間で難聴になりやすい
- 建設現場の騒音、コンサートの音楽など、日常的に遭遇する音でも音響障害を引き起こす可能性がある
- 近年ではイヤホンやヘッドホンで大音量を流し続ける「スマホ難聴」も増えている
- 大きな騒音がある場所で仕事をするときは耳栓をする、大きな音で音楽を聴かないなどの対処が必要
- 長時間大きな音を聞いてしまった後は、しっかり耳を休ませる時間をとることも大切
- ※85デシベル以上の騒音下で5年以上働いて難聴や耳鳴りが生じると、職業生難聴として労災の対象にもなる
- 薬の副作用
- 薬によっても難聴と耳鳴りが起こることがある
- 市販薬や一般的に使われる処方薬であれば、用法用量を守っている限り、難聴や耳鳴りが起こることはまずない
- 一部の抗生物質や抗がん剤などには難聴や耳鳴りを起こすものがあるが、これらは使うメリットがデメリットを上回ると考えられるときにだけ、同意を得てから使われる
また、耳の病気の中には、難聴から耳鳴りの症状を引き起こすものもあります。例えば、以下のような疾患が代表的です。
- 突発性難聴
- 突然、耳の聞こえが悪くなる難聴。ほとんどは片耳に起こるが、原因は不明
- 治療で完治することもあれば、よくならない場合もあり、早期に治療開始することが重要
- めまいを伴うこともある
- メニエール病
- 激しくぐるぐると自分や周囲が回るようなめまいが生じ、ブーンという耳鳴りと難聴を伴う疾患
- 繰り返し引き起こされるのが特徴で、繰り返すうちに難聴と耳鳴りが固定してしまうこともある
- 内耳にリンパ液が溜まりすぎてしまう「内リンパ水腫」と考えられている
- 耳硬化症
- 中耳にある、音を鼓膜から内耳に伝える「耳小骨」の動きが悪くなって起こる疾患
- 初期は音の伝わりが悪くなる「伝音難聴」だが、進行すると「感音性難聴」が加わることも
- 治療に際して、手術が選択されることもある
- 慢性中耳炎
- 鼓膜の奥、中耳に慢性炎症が起きている状態
- 通常は鼓膜に穴があいていて、症状が悪化すると耳垂れが出ることもある
- 中でも、「真珠腫」と呼ばれる骨を溶かしながら浸潤していくタイプだと内耳やごくまれに脳に到達してしまうこともあり、危険
- 聴神経腫瘍
- 耳と脳をつなぐ「聴神経」に良性腫瘍ができた状態
- めまい、ふらつき、難聴、耳鳴りが起き、腫瘍が大きくなるにつれて症状が進行していく
- 大きくなって脳を圧迫するようになると麻痺などの症状が出ることもあるが、近年ではMRIなどの普及によってその大きさになるまで発見されないことは珍しい
- 手術や放射線で治療を行うほか、ごく小さな腫瘍の場合は経過観察で済ませることも
他にも、耳垢が溜まったり(耳垢栓塞)、高血圧があったりして耳鳴りが生じることもあります。飛行機に搭乗したり台風が接近したりすることで急激に気圧が変わって耳鳴りが起こったり、風邪を引いて耳の中にまで風邪の原因菌が侵入して炎症を引き起こし、耳鳴りを起こしたりする場合もあります。
また、子どもが耳鳴りを感じる場合、耳垢や風邪以外にも異物の侵入やストレスが原因となることが多いです。子どもが耳に違和感を感じると訴えてきたり、耳をしきりと触っていたり、音にストレスを感じたりしている場合は、早めに病院を受診しましょう。
ストレスによる耳鳴りも甘く見てはいけない理由は?
前述のように、耳鳴りを引き起こす原因はさまざまであり、多くは加齢や騒音、何らかの原因疾患によって難聴が起こり、それによって耳鳴りが生じるという経過を辿ります。しかし、ストレスによって難聴を引き起こし、それが耳鳴りを引き起こす場合も、決して少なくはありません。しかも、ストレスから生じる耳鳴りを甘く見てはいけないのです。
なぜなら、ストレスから生じる耳鳴りは悪化しやすいからです。人間の本能には、環境に予期せぬ変化が起こると、反射的にそちらに注意を向けるようなプログラムが備わっています。これは、突然襲いかかってくる敵を察知していち早く逃げたり、戦ったりするための機能で、本来は身を守るために備わっているものです。
しかし、急に鳴り出す耳鳴りも同じように危険なものとして脳が注意を向けてしまうのです。長体がわからない音なので、非常に気になり、不安を感じてしまいます。このような、いわば「注意の脳」が働き始めると、耳鳴りがしているかどうか無意識に細心の注意を払うようになってしまいます。
今日も音が鳴っているかどうか、耳鳴りの大きさはどうかなど、常に耳鳴りを確認しなくては気が済まなくなってしまうのです。朝起きたときから夜眠るときまで、1日中耳鳴りを気にかけるようになると、神経の休まる暇がありません。さらに、耳鳴りを強く意識することで、脳内にさまざまな感情や考えが浮かび、連動して働くようになっていきます。
「耳鳴りはこのまま治らないのではないか」といった不安が生じたり、「耳鳴りのせいで仕事や勉強に集中できない」とイライラが高まったりします。すると「注意の脳」と「苦痛を感じる脳」が連動し、苦痛のネットワークが形成されてしまうのです。このような「苦痛のネットワーク」が形成されると、耳鳴りから注意を逸らすのが難しくなり、苦痛が強まっていきます。
強まっていく苦痛は、自律神経にも強く影響を与えることから、不眠・動悸・冷や汗などの身体症状を引き起こすこともあり、さらにストレスを強め、難聴や耳鳴りを悪化させてしまいます。場合によっては、医師の「耳鳴りは一生続く」「患者さんが神経質だから」といった不用意な言葉が苦痛のネットワークを強めて不安や心配、イライラを悪化させてしまうこともあります。
ストレスによる耳鳴りは、血液が血管を流れるザーザーという「血管雑音」や心臓の音、コツコツという喉の筋肉の収縮音、「スー、ハー」という呼吸音などが聞こえるのが特徴です。また、ストレスからの抑うつ状態が感覚を鋭敏にし、耳鳴りを強く感じたり、苦痛を感じやすくなったりすることもあります。
このように精神的な苦痛が強い場合は、耳鳴りの治療と並行して、心療内科や精神神経科などで精神面の治療を行うことが勧められます。
自律神経失調症になるとどんなサインが現れる?
ストレスからくる耳鳴りとして、自律神経失調症の症状の一部である場合もあります。この場合も放置してしまうのは危険ですから、思い当たる場合は以下のチェックリストで自律神経のバランスが崩れているかどうかチェックしてみましょう。
- めまいや耳鳴りが多い、または立ちくらみをよく起こす
- 胸が締めつけられる感じ、または胸がざわざわする感じがときどきある
- 心臓の拍動がいきなり速まったり、脈拍が飛んだりする
- 運動しているときではないのに、息苦しくなるときがある
- 夏でも手足が冷えることがある
- お腹がすかない、胸焼けするなど、胃の調子が悪いときが多い
- 便秘や下痢が多い、あるいは繰り返してしまう
- 肩こりや腰痛がなかなか治らない
- 手足がだるいときが多い
- 顔だけ、または手足だけに汗をかく
- 朝、起きるときに疲れを感じる
- 気候の変化に弱い
- やけに眩しく感じるときがある
- 寝ても寝ても寝たりない
- 怖い夢をよく見る、または金縛りに遭う
- 風邪でもないのに、咳がよく出る
- 食べ物を飲み込みづらいときがある、喉に違和感がある、呂律が回らないときがある
当てはまる項目が0〜1個であればほぼ心配はいりません。2〜3個であれば自律神経に負担がかかっている可能性があり、4〜6個であれば自律神経失調症になりかけている可能性があります。いずれの場合も規則正しい生活リズムや十分な睡眠、適度な運動、バランスの良い食生活などの生活習慣を見直し、自律神経のバランスを整えましょう。
7個以上当てはまる場合は、自律神経失調症の可能性が高いと考えられます。すぐに休養をとるとともに、できるだけ早く専門医に相談しましょう。また、上記のチェックリスト以外にも、片頭痛やほてり、微熱、手足のしびれ、口やのどの不快感、頻尿や残尿感、イライラや不安感、疎外感、感情の起伏が異常に激しくなる、落ち込み、無気力などの症状が現れることもあります。
このような症状が現れるのは、自律神経が全身の器官をコントロールしているからです。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、通常は活動モードの「交感神経」と休息モードの「副交感神経」が適切に切り替わることでストレスに上手く対処したり、夜にしっかり休息したりしているのです。
しかし、自律神経のバランスが崩れると、ストレスに抵抗する力が弱くなってしまったり、休息すべきときに眠れなくなったりしてしまいます。そのため、全身にさまざまな悪影響が現れます。最近では、内科や整形外科などでさまざまな検査をしても異常が発見されない場合は、神経科や心療内科などの専門医を紹介されるケースが増えてきました。
とはいえ、自己診断で自律神経失調症と決めつけてしまうことは、何らかの疾患にかかっていた場合、早期発見を逃してしまう可能性もあります。耳鳴り以外にも思い当たる症状が多く、自律神経失調症かもしれないと思ったら早めに病院を受診しましょう。
おわりに:ストレスが原因の耳鳴りは、血流音や呼吸音などが特徴
ストレスが原因とされる耳鳴りの場合、血液が血管を流れる音、呼吸音などを感じるのが特徴です。耳鳴りは基本的に難聴から引き起こされますが、難聴が起こる原因には他にも加齢や騒音、何らかの基礎疾患などが考えられます。
ストレスが原因の耳鳴りは、脳に苦痛のネットワークが形成されることで悪化しやすいため注意が必要です。また、自律神経失調症の一部の可能性もありますので、思い当たる場合は早めに病院を受診しましょう。
コメント