人間の集中力が続く時間は、一説には45分とも90分とも言われています。つまり、集中して成果を発揮し続けられる時間は2時間に満たず、適度に休憩を入れるとパフォーマンスを改善できるとされています。
近年、こうした研究結果をもとに、オフィスにリフレッシュルームを設置する企業が増えています。リフレッシュルームの効果と、メリットを発揮するための対策について見ていきましょう。
リフレッシュルームとは?
リフレッシュルームとは、従業員が仕事からいったん離れて休息をとるために利用する「癒し空間」のことです。仕事中は基本的に集中しているものですが、脳も身体と同じように長時間酷使していると疲れてしまい、やがて十分なパフォーマンスを発揮できなくなってきます。そこで、長時間連続して仕事を行うときには、その合間に適度な休憩を挟むと脳の疲れがリフレッシュでき、再びパフォーマンスを発揮できるようになると考えられています。
実際に、ボストン大学不安関連症センターのエレン・ヘンドリクセン博士が2017年に行った研究によれば、45分のタスクを実施する間、5分の休憩をとったグループととらなかったグループでは、休憩をとったグループの方が優れたパフォーマンスを発揮したことがわかりました。
しかし、日本では仕事中の休憩を気分転換ではなくサボりと捉えてしまう傾向が強く、リフレッシュルームの重要性は知られてきていたものの、なかなか普及・導入は進みませんでした。海外での導入例やその効果が伝わるにつれて、ようやく日本のオフィスでも徐々に浸透し始め、現在では企業によって独自の工夫をこらしたリフレッシュルームを設置するところもあります。
リフレッシュルームの導入を後押ししたもう一つの理由が、メンタルケアの必要性や緊急性が取り沙汰されるようになってきたことです。労働安全衛生法の改正により、2015年12月から50人以上のスタッフが在籍する職場において、ストレスチェックの実施が義務化されました。仕事や業務に対する強い不安やストレスはスタッフの精神状態を悪化させ、業務効率を下げることがようやく注目されてきたのです。
実際に、厚生労働省が発表した「過労死等の労災補償状況」によれば、精神障害で労災補償を請求した件数は2017年の時点で1,732件となっており、この数字は2013年の1,409件の約1.2倍です。実際に決定された件数も1,193件から1,545件と約1.3倍に増加しており、4年間でメンタルの不調はどんどん増えていると言えます。
ストレスチェック制度自体は、基本的には経営者から従業員全体に目が行き届きにくい大企業向けの施策ですが、中小企業であっても、スタッフの人数が少なくても、メンタル面のケアが重要であることには変わりません。すなわち、単なる気分転換のための場所としてリフレッシュルームを設置するのではなく、スタッフのメンタルケアという面からもリフレッシュルームを重要視し、設置している企業が増えているというわけです。
また、リフレッシュルームにさまざまな部署のスタッフが集まることで、コミュニケーションの活性化や新しいアイデアが生まれるなど、思わぬ効果が得られる可能性もあります。このように、リフレッシュルームは食堂や休憩室のように用途を厳密に定めるのではなく、会社の目的やスタッフの要望に応じてさまざまな用途で活用できるよう「多目的スペース」として設置するのが良いでしょう。
リフレッシュルームに期待できる効果やメリットとは?
では、リフレッシュルームを設置することでどのような効果が期待できるのか、詳しく見ていきましょう。
リフレッシュや休憩の質をアップ
仕事中のリフレッシュといえば、従来は喫煙所で一服するか、自分の席でコーヒーを飲んだりするかといったもので、いずれも利用できる人が限定されていたり、周囲の目があってリフレッシュにはつながらないといった難点がありました。しかし、リフレッシュルームなら誰でも利用できますし、いったんデスクを離れることで心身ともにリフレッシュできます。
会社によっては飲み物が常備されていたり、寝転がれるよう畳が設置されていたりと、質の良いリフレッシュや休憩、気分転換ができるようさまざまな工夫がされています。休憩の質がアップすれば効果的に疲れが解消されますので、仕事に戻った後は再び集中して高いパフォーマンスで業務を行えるようになるでしょう。
また、仕事のアイデアに煮詰まったとき、あえてリフレッシュルームで心身ともに気分転換することで、従業員のクリエイティビティを高めるという効果も期待できます。ソフトウェアやAIの開発でルーティンワークはどんどん人の手を離れて自動化され、そのぶん人間にはよりクリエイティブな仕事が求められるようになりました。ですから、従業員のクリエイティビティを刺激できるような環境を用意することも企業として重要なことなのです。
社員同士のコミュニケーション活性化
リフレッシュルームは単なる休憩の場ではなく、ソファやテーブルのほか、ゲームや運動器具などを設置して社員同士の交流の場にもできます。普段は顔を合わせる機会がない他部署の人や執務スペースでは気軽に話せないことも、リフレッシュルームで雑談を兼ねて話すことができれば、新たなアイデアや発想が生まれるかもしれません。
社内コミュニケーションは、人間関係の改善や生産性アップにも有効だと考えられています。逆に、コミュニケーション不足で行き違いや不満が溜まって人間関係が悪化すると、離職率が高まったり情報共有が上手くいかず、業務が効率的に進まなくなったりする可能性があります。こうした状況を防ぐ、あるいは改善するため、リフレッシュルームを設置する企業も増えています。
離職率低下、採用に良い影響
慢性的な人手不足に悩まされている企業では、社員の離職率低下が非常に重要な課題の一つです。特に、入社3年目までの離職率は3割前後と高いことがわかっていますので、どれだけ社員にとって働きやすい環境を作れるかどうかが重要なのです。離職理由は人によってさまざまですが、多いのは仕事内容への不満、人間関係や賃金への不満というデータもあります。
仕事内容や人間関係への不満は、どうしても大きなストレスとしてのしかかってきます。そこで、仕事の疲れを感じたときはリフレッシュルームで気分転換したり、何気ないコミュニケーションで人間関係のわだかまりを解消したりすることがストレスや不満の解消につながり、ひいては離職率の低下をもたらすと考えられるのです。
また、日本でもリフレッシュルームを導入する企業が増えてきたとはいえ、海外に比べればまだまだ普及率が低く、日本企業全体からするとその割合は少ない傾向にあります。ですから、リフレッシュルームを設置しているということは従業員を大切にする企業であるという対外的なイメージアップにつながり、優秀な人材の応募・採用にも良い影響をもたらすと考えられます。
多目的スペースになる
最初にもご紹介したように、リフレッシュルームは休憩室としての限定的な目的だけでなく、部署や役職に関係なく誰でも利用できる多目的スペースとして柔軟に使うのが良いでしょう。一般的な「休憩室」と同じ扱いにしてしまうと、どうしても休憩時間でないと利用しづらくなってしまいます。業務中に気軽なリフレッシュができるよう、いつでも誰でも利用可能なスペースにしましょう。
また、リフレッシュルームを誰も利用していないときは、ミーティングルームや採用活動の場として使うこともできます。近年では業務効率化のため会議の回数を減らしたり、フリーアドレス制を導入して同じ部署の人でもあまり顔を合わせなくなったりしている企業もあります。しかし、リフレッシュルームを利用して気軽に集まり、簡単なミーティングをして短時間で解散すれば、かしこまった会議も個人のデスクも必要ありません。
採用活動においても、リフレッシュルームを利用すれば固くなりすぎず、リラックスした雰囲気の中で応募者とゆっくりコミュニケーションしやすくなります。会社の良いところをアピールするとともに、応募者の人となりを知るのにもよりよい面接を行えるでしょう。
リフレッシュルームを作るときの注意点は?
一口にリフレッシュルームと言っても、仕事の内容や会社の環境によっても求められる空間が異なってきます。例えば、具体的に以下のようなケースが考えられるでしょう。
- 常に動いている人が多い
- ゆっくり休憩するよりちょっとしたコーヒーブレイクしたい、という場合
- スタンディングテーブルで飲み物とちょっとしたおやつ程度でOK
- ずっとパソコン作業をしている
- 家のリビングのように、ほっとくつろげるスペースが欲しいという場合
- 柔らかいクッション性のあるソファ、運動器具などを設置
- 周囲に飲食店がなく、カフェ代わりに利用したい
- カフェメニューを充実させ、ミニカフェのような空間にしてしまう
このように、求められるリフレッシュルームは業務内容によっても働くスタッフによってもさまざまです。特に、そもそも在籍しているスタッフの要望に沿わないリフレッシュルームを設置しても、思ったような効果は得られません。
ですから、リフレッシュルームの導入を考えるならまずは従業員にアンケートを取りましょう。インテリアにこだわりたい、飲み物がたくさん無料で置いてあると嬉しい、来客との打ち合わせにも使えるようなスペースがいいなど、どんなニーズがあるのかしっかり知ることが重要です。また、どんなリフレッシュルームを作るときにも、以下の5つのポイントを意識しておくと良いでしょう。
- 人の往来の多い場所に設置する
- デッドスペースではなく、人がよく通る場所、往来が多い場所に作る
- 例)オフィスに入ってすぐの場所、オフィス全体を見たとき中心になる場所など
- 歩いているついで、他の部署に行ったついでなどにちょっと寄れる場所にすれば、人が集まりやすくなり、部署の垣根を超えたコミュニケーションができる
- 眺めの良いところに設置する
- パソコン仕事で疲れた目には遠くの緑が良いので、できれば外が見える場所に
- 窓が大きく、景色が見える部屋なら目の疲れだけでなく、気持ちもリフレッシュできる
- 執務室と全く違った雰囲気にする
- 執務室がシンプル・スタイリッシュなら、リフレッシュルームは温かみのあるナチュラルな雰囲気に
- がらっと雰囲気を変えることで、気分転換や頭の切り替えがしやすい
- 淡いベージュ、柔らかいパステルカラーなどをメインに使い、リラックスできる雰囲気にする
- 明かりも間接照明や色味の変更などで、休息・癒し効果アップ
- 夜間まで使用する場合を考え、調光可能な照明にする
- リラックスにつながるBGMを流す
- 心地よい音楽を流してリラックス効果アップとともに、周囲の雑音を隠すマスキング効果も
- オフィス用BGMサービスも普及してきたので、好みのジャンルでBGMを流せる
- 特に、ヒーリングミュージックやイージーリスニングなどがおすすめ
- 観葉植物を飾る
- 大手企業の中には床を芝生にしたり、壁面を緑化したりするところもあるほど、植物の癒し効果は重視されている
- 鉢植えを置いたり、観葉植物の写真や絵を飾ったりするだけでも効果が期待できる
- リフレッシュルームを作ったら、まず写真や絵でも良いのでぜひ飾って
リフレッシュルーム導入後に起こりがちな問題と解決方法
上記のように、企業側がさまざまな工夫をこらしてリフレッシュルームを作っても、活用されない場合があります。具体的には、主に以下のようなケースでリフレッシュルームが活用されにくいようです。
- サボりと思われたくない、という心理が働く
- リフレッシュルームに行くとサボりと思われるのではないか、と心配する人は多い
- ずっと同じ仕事を続けるより、適度な気分転換をした方が逆に仕事の効率は上がる、ということを社内に浸透させる工夫が必要
- リフレッシュルーム設置の際は、休憩とサボりは違うことをしっかり周知する
- 作りが魅力的に感じられない
- 椅子とテーブルしかない、会議室のような殺風景すぎる部屋でリフレッシュにならないなど
- リラックス・リフレッシュできる色使いや、くつろげる家具などの工夫が必要
- 狭い
- 使う人数と部屋の広さが合っていないと、使いづらく人が集まりにくくなってしまう
- テーブルの数が少ない、隣の人との距離が近すぎて逆に疲れてしまう、など
- 休む以外に何もない
- リフレッシュのためには、飲み物やお菓子の設置など頭の切り替えになるものも必要
- 何もないスペースでは本当に休憩しかできず、リフレッシュという本来の目的が果たせない
- 執務スペースから遠すぎる
- オフィスの中でも奥の方のデッドスペースに作られることが多いが、行くのが面倒になっては本末転倒
- わざわざ遠くまで行って休憩しなくても良いか、と感じてしまう
上記のうち、部屋の広さや場所については従業員の数やオフィススペースのレイアウトなどによっても変わってきますので、各企業によって対応の仕方が異なります。リフレッシュルームを作ることを考えるときに、あらかじめ同時に利用する人数、室内の動線などを考えて設置する場所や広さを検討しましょう。
他の3つのケースについては、どんなリフレッシュルームであってもある程度汎用的な解決方法が考えられます。それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。
解決法①:リフレッシュをサボりと誤解されないために
リフレッシュルームが日本でなかなか普及しづらい原因として最も多いのは「サボりと思われたくない」という心理ではないでしょうか。そこで、上記のように休憩はサボりではないこと、適度な休憩が業務効率をアップしてくれることを周知するのはもちろんですが、さらに以下のような対策をとることで、リフレッシュルームを利用する抵抗感や罪悪感を減らすことができます。
- 上司も積極的に使う
- 上司がずっと仕事をしているのに、部下が席を外してリフレッシュルームには行きにくい
- 管理職こそ積極的に休憩を取り入れたり、部下に話しかけたりしてコミュニケーションを活性化させる必要がある
- 適度な休憩は頭の切り替えになり、より良い仕事の助けになるということを実践する
- 図書スペースを設ける
- 業界や会社の事業に関わる書籍や雑誌を置いておけば、調べ物という形で休憩・気分転換しやすくなる
- このとき、普通に休憩したい人のために、全く関係ない書籍や雑誌も置いておく
- 一見関係ない書籍や雑誌がインスピレーションの源泉になることも、コミュニケーションのきっかけになることもある
- 仕事もできるようにする
- リフレッシュのとき、仕事を絶対にしてはいけないというわけではない
- 自席で仕事をしていてもなかなか良い案が浮かばないというとき、場所を変えるだけでも頭がすっきりして仕事が捗るようになる
- LAN環境を整える、一人で集中できるようなブースで区切ったスペースを作る、など
意外と見落としがちなことですが、管理職が率先して休憩をとらないと部下が休憩をとりにくい、というのはよくあることです。また、サボりと思われないためには、仕事のための書籍を置いたりブースを作ったりするのも良い方法です。もちろん、それを口実にして休憩しても構わないことを折に触れて伝えていく必要はありますが、ちょっとした工夫があれば従業員からの理解も得られやすいでしょう。
解決法②:行きたいと思えるスペースにする
そもそも、リフレッシュルーム自体に「行きたい」と思える魅力がなければ、わざわざ移動して休憩しようという気持ちにはなれません。そこで、リフレッシュルームを魅力的な場所にするため、以下のようなことに気をつけましょう。
- くつろいで話せる空間にする
- 入るだけでも疲れがとれるよう、くつろげる色やインテリア、家具の配置など工夫する
- オフィスらしくないデザインのソファを置いたり、思いきって畳を敷いて靴が脱げるようにしたりする
- 観葉植物を置く、アロマを炊く、など家のリビングにするような工夫を
- プライバシーを保てるような工夫をする
- ソファでゆっくりしたり、10分程度の仮眠を取ったりしたい人のために
- 例)パーテーションを置く、背の高いソファにする、家具で仕切るなど
- 短時間でも、一人でゆっくり休むと頭がスッキリして疲れもとれることが多い
- 疲れがとれるようなアイテムを設置する
- 例)こだわりのソファ、マッサージチェア、つぼ押しグッズ、ホットアイマスクなど
- パソコン仕事の多い人は、特に肩こりや眼精疲労がつらい
- 疲れを癒してくれるアイテムがあると、自然と休憩室に足が向きやすい
リフレッシュルームを魅力的にするためには、くつろぐための工夫が肝心です。色味や家具の配置は基本的なことですが、もう一歩進んでプライバシーを保てるような工夫をしたり、癒しグッズを置いたりして効率的に疲れを解消できるようにしておくと良いでしょう。
解決法③:リフレッシュのための工夫をする
リフレッシュルームを単なる休憩室にするのではなく、積極的にリフレッシュするための部屋にすることも重要です。例えば、以下のようなポイントに注意すると良いでしょう。
- カフェスペースとして
- 休憩時にコーヒーのほか、ノンカフェインのハーブティーなどもあるとよい
- コーヒーメーカーや電気ポットを用意し、飲み物を自由に飲めるようにしておく
- 本物のカフェのようなスペースを設置して、アイデアが生まれやすくする
- 食事もできるように
- オフィスの近くに食事できる店がない場合など、ランチルームとしても使えるように
- デスクで食べるより、雰囲気の良いリフレッシュルームで食べると美味しく感じられる
- 席を離れて気分転換することも大切なので、いつでも使えるように開放しておく
- あえて遊びを取り入れる
- 卓球台、ビリヤード台、フィットネスマシンなど身体を動かすものがおすすめ
- 座りっぱなしで悪くなった血行を良くし、脳に酸素や栄養を運んで業務効率アップ
- この場合の遊びもサボりではなく、業務の一環として行うという意識を浸透させることが必要
リフレッシュルームは休憩室としての一面もありますので、カフェスペースやランチスペースとして快適に利用できるような工夫をするのも良いでしょう。特に、デスクワークが多くクリエイティブな発想を多く必要とする業種なら、身体を動かしながら頭の体操として遊べるようなゲーム、マシンを設置するのもおすすめです。
また、使っていないときにはサークル活動・誕生日会・クリスマス会など、社内のイベントスペースとして利用し、楽しみながら社内コミュニケーションの機会を増やすのも人間関係の改善や、風通しの良さにつながります。この場合は多目的スペースとしても利用できるよう、あらかじめ置く家具の種類や配置を工夫すると良いでしょう。
おわりに:リフレッシュルームの効果を引き出すには、ニーズと工夫が重要
リフレッシュルームは単なる休憩室や食堂とは異なり、従業員がいつでも気軽にふらりと立ち寄って気分転換できる空間でなければなりません。ですから、場所やインテリアにこだわるのはもちろん、従業員のニーズにも合わせる必要があります。
また、サボりと誤解されないよう設置の目的を周知したり、プライバシーに配慮したりして心地よくリフレッシュできる工夫もしましょう。執務室とはがらりと違う雰囲気にするのもおすすめです。
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