タバコを吸う人が「タバコ休憩」と言って業務中にタバコを吸いに行くところを見たことはありませんか。禁煙の意識が広まった今ではかなり少なくなってきましたが、それでもまだまだリラックスするためにタバコを吸う人はいます。
そこで、今回はタバコで本当にリラックスできるのかどうかについてまとめました。タバコを辞めたいけれどリラックスしたくて辞められない、という人はぜひチェックしてください。
- この記事を読んでわかること
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- タバコを吸うとリラックスしたように感じる理由
- タバコに依存するリスク
- ニコチン依存セルフチェック
- タイプ別「禁煙方法」
本当にタバコでリラックスできるの?
タバコを吸うと落ち着く、ホッとする、リラックスできる、仕事に集中できる、という人は多いです。ストレスの多い現代社会で、イライラを解消するためにタバコを吸っている、という人もよく見られます。しかし、本当にそのイライラや焦燥感は外的なストレスによるものなのでしょうか。
タバコは吸い終わると1時間もしないうちに血液中のニコチンが減り、イライラや落ち着かないなどニコチン切れの症状(離脱症状、または禁断症状)が生じます。つまり、そもそもイライラしたり落ち着かなくなったりするのはタバコのせいであり、また新たにタバコを吸うことで解消しているだけなのです。一番リラックスしているはずの寝起きにタバコを吸いたくなるのも、睡眠中はニコチンを摂取できなかったからと考えられます。
タバコを吸うとニコチンが数秒で脳に到達し、「中脳腹側被蓋野」において、ドーパミンという神経伝達物質を分泌させます。ドーパミンはホルモンの調節、快楽を感じるなどの働きがありますが、「ニコチンによってドーパミンが分泌される」という効果を得てしまうと、手軽にドーパミンという大きな快楽を得られてしまうことから、繰り返し得たいと思うようになってしまうのです。
ドーパミンを得ることそのものは悪いことではなく、例えば脳を健康に保ち、良く働くように活性化する「アハ体験」など、新しいことや変化に気づく「脳のひらめき」でもドーパミンは放出されます。そして放出されたドーパミンによって脳の学習回路が強化され、頭が良くなると言われているのです。
しかし、タバコを繰り返し吸い続けているとニコチンによるドーパミン分泌が繰り返され、脳内のドーパミン受容体の数が減り、ドーパミンに反応しにくくなってしまいます。すると、血液中のニコチン濃度が低下することによる禁断症状(離脱症状)が強くなり、より多くのニコチンを必要とするようになってしまうのです。
これはコカイン、アンフェタミンなどの薬物依存とも同じ理屈で、覚醒剤はドーパミンを増やす効果があるため、ドーパミンを得ようと薬物に対する精神的な依存が生まれてしまいます。つまり、ドーパミンによる快楽を得るためだけに薬物を摂取する、という動機づけがなされ、どんどんやめたくてもやめられなくなってしまうのです。
タバコを吸う人は「その気になればいつでもやめられる」と思いがちですが、上記のような理由から、自分でやめたいと思っていてもなかなかやめられない人は少なくありません。例えば、厚生労働省が平成29年に行った調査によれば、タバコを吸っているけれどやめたい、と思っている人の割合は28.9%(男性26.1%、女性39.0%)にものぼります。
一方で、ある企業が行った調査によれば、禁煙に取り組んだ人のうち、3ヶ月以上続いた人は約2割でした。しかも、約半数程度は2週間未満でまたタバコを吸い始めてしまったのです。つまり、タバコをやめたいと思っている人は2〜4割程度はいるものの、実際に禁煙に到れるのはその中でもさらに2割程度、タバコを吸う人全体からすれば4%くらいなのです。
それほどタバコへの依存は強くなりやすく、自分の意志ではどうにもならない状態に陥りやすいと言えるでしょう。とはいえ、中にはタバコをやめようと思ってすぐやめられた、という人もいます。その人は、おそらく「ニコチンへの依存度」が低かったのではないかと考えられます。
タバコの本数や朝起きてすぐタバコを吸うかどうか、病気など体調が悪いときでもタバコを吸うかどうか、などによってある程度依存度の高さがわかります。依存度が高いとタバコを長時間吸わなかったときの禁断症状が起こりやすく、依存度が低いと禁断症状が起こりにくいため、依存度が低い人の方がタバコをやめやすいという一つの目安になります。
次章では、ニコチン依存症・依存度のチェック方法について見ていきましょう。
ニコチン依存症を自分でチェックできる?
前述のように、タバコによるドーパミン分泌に依存している状態のことを「ニコチン依存症」と呼び、その依存度合いは人によってさまざまです。タバコを吸ったら1回目ですぐにニコチン依存症になるわけではなく、繰り返しタバコを吸っているうちにニコチン依存症になっていってしまうのです。
ニコチンはドーパミンだけでなく、ノルエピネフリン(覚醒・食欲抑制)、セロトニン(気分の調整・食欲抑制)、アセチルコリン(覚醒・認知作業の向上)などの神経伝達物質の分泌にも関わっています。タバコでニコチンをいつも摂取していると、ドーパミンだけでなくこれらの神経伝達物質の分泌をニコチンに委ねてしまうため、さまざまなニコチン離脱症状が出てしまうのです。
ニコチン離脱症状の状態で喫煙すると、上記のさまざまな神経伝達物質が分泌されて不快な離脱症状が消えるため、離脱症状が出るたびに喫煙を繰り返すことになります。このように、離脱症状が起こるから吸う、という繰り返しによって喫煙量が増えてしまうことは「負の強化」と呼ばれています。
しかし、前章でもご紹介したようにドーパミンなど、神経伝達物質の分泌自体は悪いことではありません。問題はタバコに含まれるさまざまな有害物質や発がん物質であり、有害とわかっている物質だけでも約200種類、そのうち発がん物質は約50種類あることが知られています。さらに、タバコを吸っている人は心筋梗塞・狭心症・脳卒中などの心血管系疾患にかかりやすくなることや、20歳以前に喫煙を始めた人は男性で8年、女性で10年余命が短くなることがわかっています。
ニコチンへの依存度はどうやって判定すればいい?
ニコチンへの依存度は、以下の「ファガストロームのニコチン依存度テスト」を使うとだいたいの目安を判断できます。
- 朝起きて、最初のタバコを吸うのは何分後か
- 5分以内:3点
- 6〜30分:2点
- 31〜60分:1点
- 60分以降:0点
- 禁煙の指定がある場所であっても、禁煙するのはつらいか
- はい:1点
- いいえ:0点
- 1日の喫煙で、どちらがよりやめにくいか
- 朝の最初の1本:1点
- その他の1本:0点
- 1日に何本吸うか
- 31本以上:3点
- 21〜30本:2点
- 11〜20本:1点
- 10本以下:0点
- 起床後数時間の方が、他の時間帯より多く喫煙しているか?
- はい:1点
- いいえ:0点
- 風邪などで寝込んでいるときも、喫煙するか
- はい:1点
- いいえ:0 点
点数が高いほどニコチンへの依存度が高いと判断でき、だいたい以下のような目安と考えられます。
- 0〜3点:依存度が低い
- タバコへの依存度は低いので、やめたいという強い気持ちがあればやめられる可能性が高い
- 4〜6点:中程度の依存症
- ニコチン依存の離脱症状が妨げとなって、禁煙に失敗する可能性がある。ニコチンガムやパッチを使って対処すればやめやすい
- 7〜10点:依存度が高い
- ニコチン依存症がかなり進んだ状態のため、やめるときには強い禁断症状が出ると考えられる
- ニコチンガムやパッチを利用し、必要なら医師の指導を受けながら禁煙するとよい
タバコはどうやってやめたらいいの?
ここまでご紹介してきたように、タバコによるリラックスとは、そもそもタバコによって引き起こされる離脱症状からの改善であり、タバコを吸ったことで能力が上がるわけではないとわかりました。さらに、タバコに含まれるさまざまな有害物質が脳や身体、血管などに深刻なダメージを与えてしまうため、タバコを吸うことにメリットはなく、デメリットしかありません。
そこで、タバコをやめるための対策をタイプ別に見ていきましょう。
やめたいけどやめられない、ニコチン依存症タイプ
タバコを本当はやめたいと思っているのに、ニコチンが切れたときの辛さに耐えられずなかなかやめられない、という人はニコチン依存症に陥っていると考えられます。このタイプの人が自分の意志だけでやめようとするのは非常に困難ですから、禁煙補助剤を上手に使って上手に禁煙していきましょう。
- ニコチンパッチ
- ニコチンを含んだ円形のパッチ(シール)を皮膚に貼り、皮膚の毛細血管からニコチンを体内に吸収させる
- 1日1回皮膚に貼れば、1日中ニコチンの吸収量が一定に保たれる
- 大中小の3種類のサイズがり、貼るサイズを徐々に小さくしながらニコチンの摂取量を減らしていく
- ニコチンガム
- 一般の薬局薬店でも市販されていて、噛むとニコチンが口の粘膜から体内に吸収される
- タバコに比べてニコチンの吸収性は低いものの、比較的速く吸収されるため、吸いたくなったときの欲求を和らげてくれる
- 独特の噛み方をするガムで、1日の喫煙本数やニコチンの依存度に応じて噛む個数を決める
- 内服薬
- タバコを美味しく感じなくなる薬を飲んで禁煙する方法も
- タバコを吸っても美味しさが得られないことから、自然とタバコの本数が減り、苦痛も少ないとされる
ニコチンガムは一般の薬局などでも購入できますが、パッチや内服薬は医師の処方が必要です。逆に、禁煙外来でガムを処方してもらうこともできます。タバコをやめると口寂しくなってしまう人や、パッチが肌に合わない(肌が弱い)人はガムを、歯に問題があるなどでガムを噛みにくい人はパッチを使うと良いでしょう。
このように、タバコ以外のものでニコチンを摂取したり、内服薬の力を借りたりしながら徐々に量を減らしていくという方法なら、ニコチン切れによるやっかいな離脱症状で日常生活に支障をきたすことなく仕事や生活を続けられます。ガムやパッチ、内服薬を使う方法は成功率も高いとされていますので、かつて禁煙に失敗してしまったという人でも試してみる価値はあるでしょう。
気分転換にタバコを吸ってしまうタイプ
気分転換をしようとしたとき、ついついタバコに手が伸びてしまうというタイプの人は、生活パターンや気分転換の方法を見直してみましょう。例えば、朝の洗顔・歯磨き・朝食などの行動の順序を変えてみたり、食後はすぐに席を立って歯を磨き、口中をスッキリさせてしまったりするのが効果的です。
休憩時間には深呼吸をしたり顔を洗ったり、冷たい水を飲むなど、いつもと違う方法を取るのも良い気分転換になります。休日にすることがなくてついついタバコを吸ってしまうという人は、読書など別の趣味を見つけるか、お風呂掃除や部屋の模様替えなど家事をしてみるのがおすすめです。
また、吸わないための工夫として、日常生活で以下のようなことに気をつけましょう。
- 酒の席には出ない
- 酒席ではタバコを吸う人も多く、ついつい誘われて吸ってしまう人も多い
- どうしても出席する場合は、喫煙者の隣の席を避けたり、ノンアルコールの飲み物を用意してお酒と交互に飲んだりする
- 帰宅後に自宅での行動をシミュレーションする
- 家に帰ったら何をするかあらかじめイメージしておき、タバコに手を伸ばす時間を作らない
- 禁煙に向けて自分がどうなりたいのかをイメージし、メモやノートに書き込んでおくのも効果的
- 喫煙者に近づかない、喫煙したくなる場所に行かない
- 喫煙者と一緒でなければ、もらいタバコをしなくて済む
- いつもの喫煙場所などがあれば、それをできるだけ避ける
どうしても吸いたくなったとき、強制的に気分を変える方法として、体を動かしたり手のひらを痛みで刺激したりするのもおすすめです。体操や散歩をしたり、トイレに行ったりと場所を変えるだけでもかなり効果があります。立ち上がって背伸びするのも良いでしょう。また、ボールペンなど尖ったもので、怪我をしない程度に手のひらや手の甲を刺激してみるのも意識の変化になります。
ついついタバコに手が伸びてしまう、口寂しいタイプ
タバコでなくてもいいけれど、何かないと口寂しくてついついタバコを吸ってしまうという人は、タバコの代わりになるものを用意しておくとタバコを吸いにくくなります。
- 非常に冷たい水、あるいは熱いお茶を飲む
- 眠気が覚める程度の温度刺激を与えるとよい
- タバコに合わない牛乳やトマトジュースなどもおすすめ
- コーヒーは飲むとタバコを吸いたくなる人がいるため、避ける
- 歯ブラシをくわえたり、噛んだりする
- 食後の一服をしないため、食後すぐに歯を磨いてしまうとよい
- 梅昆布や細切りの昆布を噛む
- 手元にないときは、料理用の昆布を細切りにしただけでもOK
- 清涼菓子、糖分の少ないガムや飴を食べる
- ミント系がよい。糖分が多い菓子を食べてしまうと虫歯や肥満の原因になるため、食べすぎに注意
- 禁煙用パイプを使う
- 周囲に禁煙しているというアピールにもなり、協力を得やすくなる
- マスクをする
- 口をふさいでしまうため、無意識にタバコを吸えなくなる
ストレス発散のためにタバコを吸ってしまうタイプ
タバコによってストレス発散をしている、という人は、タバコの有害物質によってさらに心身にストレスやダメージがかかってしまうことをまず知っておきましょう。そして、ストレス解消法を徐々に健康的な方法に切り替えていくのがおすすめです。何をすればいいかわからないという人は、以下のような方法を参考にしましょう。
- 深呼吸する
- タバコが吸いたくなったときは、呼吸が浅くなっているため深呼吸してリラックス
- 息と一緒にイライラやストレスを吐き出すイメージで行うとよい
- ポジティブにストレスを吹き飛ばす方法
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- 仕事以外に没頭できる趣味を持ち、心配や嫌なことを忘れる時間を持つ
- 自分なりのリラックスタイムを持つ
- 散歩で自然を満喫したり、アロマセラピーでくつろいだり、音楽を聴いたりする
- リラックスして心身の緊張を解きほぐし、ストレスを軽減する
- 野菜を多く摂取する
- 体調が良くないとそれがストレスになり、無意識にイライラが溜まってしまう
- 禁煙中は特に野菜を意識して摂取すると、イライラもおさまり便通も良くなる
おわりに:タバコを吸わないとリラックスできないのは、ニコチン依存症かも?
タバコを吸わないとリラックスできないと考える人は多いのですが、実際にはその逆で、タバコに含まれる「ニコチン」という物質の血中濃度が減ったためにイライラや緊張している可能性が高いです。このような状態をニコチン依存症と言い、依存度は人によって異なります。
ニコチンへの依存度が高い場合は、ニコチンパッチ・ガムなどを利用して禁煙しましょう。依存度が低ければ、気分転換やストレス発散法を変えるのも効果的です。
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