今や「ストレス社会」と呼ばれるほどになった現代社会では、ストレスを上手に発散したり、ストレスと上手に付き合ったりする方法が求められています。その中でまた重要視されているのが、ストレスに耐えられる度合い「ストレス耐性」です。
今回はストレス耐性の高い人・低い人の特徴や、ストレス耐性をセルフチェックする方法をご紹介します。ぜひ、実際にやってみてください。
ストレス耐性って何?
ストレス耐性とは言葉通り「ストレスに耐えられる力」のことを指します。仕事をしているときはもちろん、私たちは生きている以上、全くストレスを感じずに過ごすことはまずできません。そこで、ストレスに対してどのくらい適応し、対処できるのか、どの程度耐えられるのかを「ストレス耐性が高い・低い」というように表します。
ストレス耐性を決める要素は、主に以下の6つだとされています。
- 容量
- ストレスを受け止める容量のことで、自分の中でどのくらいストレスを溜めていられるか
- ストレス容量が大きいということは、許容範囲は大きいということでもあるため、ストレス反応が出にくい
- ストレス容量が小さいと、小さなストレスでも耐えられず、心身に問題をきたしやすくなる
- 処理
- ストレスを処理する能力で、ストレスの原因(ストレッサー)そのものをなくしたり、弱めたりすることができるかどうかという意味での処理能力
- 仕事の量的負担が大きくストレスを感じるというとき、効率よく仕事をこなす方法を考えて実行する、など
- ストレッサーとなる問題を臨機応変、かつ有効な手段で解決する能力が高い人は、ストレス耐性が高い傾向にある
- 感知
- ストレスを感じ取る能力のことで、ストレッサーに気づくか気づかないか
- ストレッサーに気づかなければ、ストレスを感じることもない
- いわば「鈍感力」とも言えるもので、感知能力が低いほどストレスに強いと言える
- おっとりしている人はストレッサーに気づきにくいなど、個人の性格などにも左右される
- 経験
- ストレスを受けたとき、どの程度どのように対応したかという経験値
- 何度も同じようなストレスに直面すると、徐々にストレスに慣れて感じにくくなることがある
- 一方で、何度も同じストレスに晒されることで逆にストレス耐性が弱まることもあるので、注意が必要
- 同じ失敗をしたとき、「以前にも経験したから、また同じように乗り越えられる」と思うか、「また同じ失敗をしてしまった。自分はダメだ」と思うかの違いによると考えられる
- 回避
- ストレスを回避する能力のことで、ストレスを感じやすいか、細かいことが気になるかならないか、割り切るのが得意か不得意かなど、個人の性格も大きく影響してくる
- 回避能力は、自律神経系・内分泌系・免疫系など身体機能の安定とも関連性があるとされている
- 心身が健康で安定していると、それに比例してストレスを感じにくくなるとされる
- 転換
- ストレスを良い方向に捉え直し、転換できるかどうか
- 自分を苦しめるストレスの根本的な問題と意味について考え、ポジティブな意味に転換できる人はストレス耐性が高い傾向にある
- 例えば、上手くいかなかったとき「でも、学びがあった」「周囲の人たちと絆を深められた」など、プラスの面を見られることも転換の一種
このように、ストレス耐性を決める要素は決して生まれ持った性格や体質だけではなく、どのようにストレスを処理するか、ストレスに対してどのような経験値があるか、ストレスをどのように捉えるかなど、後天的な要素も大きく含まれます。例えば、ストレスを感知しやすかったとしても、上手に処理したり経験で受け流せたりすれば結果的にストレス耐性が高くなります。
ストレス耐性が高い人と低い人の違いは?
では、ストレス耐性が高い人、低い人には具体的にどのような特徴があるのでしょうか。具体的にそれぞれの特徴を見ていきましょう。
ストレス耐性が高い人の特徴とは?
ストレス耐性が高いと言われる人は、概ね以下のような特徴を持っていることが多いです。
- 前向きな捉え方をする
- ストレス耐性が高い人は、ピンチをチャンスと捉え、ミスや叱責を前向きに考える
- 「ここからまた頑張っていこう」と考えることで、間違いを次に活かしていける
- ネガティブな出来事をポジティブな感情や思考に切り替える能力が高い
- 困難な事態に直面しても、過去の経験などから「かつて同じことがあったから、今度は成功するだろう」と前向きに頑張れる
- 自分をありのまま受け入れている
- ありのままの自分を受け入れているので、問題が発生したときや他人から叱責を受けたとき、必要以上に自分で自分を責めない
- 他人から自分はどう見られているかという他人からの評価をあまり気にしていない
- 評価する人・状況・環境によって他人が自分を見る目は変わるので、気にしても仕方がない
- 自己評価が主軸なので、他人からの評価が悪くてもそれがストレスになりにくい
- ある種、マイペースである
- マイペースな人は、人に合わせすぎて自分の意見を押さえつけたり、周囲に合わせるために無理して行動したりしない
- 起きることのすべてに反応するわけではないため、ストレスを感じにくい
- 他人に何か言われても、マイペースを貫けるのでストレスをうまく避けられる
- あまりにマイペースすぎると空気の読めない人、と言われることもあるが、人に合わせすぎずほどよく足並みを揃える、という能力はストレス耐性に重要
- 楽観的
- 性格が楽観的だと、完璧主義やくよくよしがちな人とは対局に位置していられる
- 一つ一つの物事を認識はするものの、マイナスに捉えることが少なく、「なんとかなる」とポジティブに捉えられる
- 自分にとってイヤなこと、都合が悪いことをスルーする能力が高い、とも言える
- 気持ちの切り替えが早く、ストレスを感じても溜め込まない
- プライベートと仕事のオン・オフもはっきりしている人が多い
- 集中力がある
- 集中力が高いと、「今すること、すべきこと」に没頭でき、余計なことを考えない
- 作業に没頭している間はその他のことを考えないので、悩む余地もない
- 今なにをすべきかの判断を正確にし、それに集中できるため、仕事でも効率的に結果を生み出せる
- 休憩中のスキマ時間にちょっとした睡眠をとる、などもうまく、眠りで余計な考えを削除することも得意
ストレス耐性が強い人は総じて気持ちの切り替えが早く、ポジティブシンキングで、集中力がある、という傾向があります。ネガティブに考えがちな人がすぐポジティブシンキングに切り替えるのは難しいかもしれませんが、「ネガティブシンキングに陥っていると気づいたら、気分転換する」「今に集中できるよう訓練する」といったことなら実行しやすいです。
ぜひ、自分にできることから取り入れ、ストレス耐性を高めていきましょう。
ストレス耐性が低い人の特徴とは?
逆に、ストレス耐性が低い人は以下のような特徴を持っていることが多いです。
- 真面目
- 真面目な人は几帳面で責任感が強く、何事もきちんと取り組み、コツコツ実績を積み上げる
- しかし、真面目であるがゆえに自分にも他人にも厳しく、完璧を求めてしまいがち
- 結果を追い求めるあまり、他人に頼ることを避けてしまう傾向もあり、妥協できず自分を追い詰めてしまう
- 優秀な人が多いので結果は評価されるものの、本人の限界を超えると一気に弱ってしまいやすい
- 協調性が高すぎる
- 協調性が高い人は周囲の状況や他人に合わせて行動でき、臨機応変な対応で足並みを揃えられる
- しかし、度を越すと自分の気持ちを押し殺してしまい、ストレス耐性を下げてしまう可能性がある
- 自分を押さえつけることで疲弊したり、マイペースになれない自分にストレスを感じたりする
- さらに、そのストレスを発散する場所もなく、ひたすら溜め込んでしまうことも
- くよくよしやすい
- 気持ちを切り替えることが苦手で、セルフマネジメントが下手な人が多い
- 仕事上の小さなトラブルをいつまでも悩み続けて他の仕事が手につかなかったり、一日中そのことを考え悩んでしまったりする
- 仕事とプライベートの切り替えがうまくいかず、いつまでも気持ちを引きずる人も多い
- すると、本人も気づかないうちにストレスを溜めてしまいやすい
- 自己主張が弱すぎる
- 自分の気持ちや状況を説明することが苦手で、必要な自己主張ができない
- 仕事で無理難題を押しつけられても、自分の状況を伝えられないために断れず、抱え込んでしまう
- 人に相談することもできないため、周囲も気づかないうちにストレスを溜め込んでしまいがち
- 根本的な解決のためには、問題となっている相手(ストレッサー)と向き合う必要があるが、向き合うことが苦手なのでストレッサーから逃げてしまう
ストレス耐性が低いことは、必ずしも悪いことではありません。真面目な人は仕事で優秀な能力を発揮しますし、協調性が高い人は場の空気を上手に調整できます。しかし、それが度を過ぎてしまうと自分自身を追い詰めてしまうことがよくあるのです。自分の長所は伸ばしながら、ストレス耐性を低くしないよう自分の意見や気持ちを大切にしていきましょう。
ストレス耐性をセルフチェックしてみよう!
ストレス耐性は、セルフチェックする方法があります。以下の20の項目に回答し、それぞれの点数を合計しましょう。
【めったにない:1点、ときどき:2点、しばしば:3点、いつも:4点】
- 冷静な判断をする
- 明るく、はきはきしている
- 何らかの表現をすることが好き
- 楽しいと思う
- 動くことが好き
- 前向きだ
- 人の短所より、長所を見る
- 融通がきく
- 手紙の返事は、すぐに書く
- のんきである
- 事実を確かめる
- 人や状況に配慮をする
- 人や環境に感謝できる
- 友人が多い
- 人や物に興味がある
【めったにない:4点、ときどき:3点、しばしば:2点、いつも:1点】
- 人の顔色が気になる
- 他人や状況を羨ましく感じる
- 人を咎めだてする
- 家庭内に不和がある
- 仕事がきついと感じる
点数の合計が出たら、以下の目安でストレス耐性のセルフチェックができます。
- 80〜50点
- ストレスに強く、ストレスを感じても頑張れる人
- 50〜40点
- ストレスに対して強くも弱くもなく、平均的な人
- 40〜20点
- 生活の変化があると体調を崩しやすい、気持ちの変化が起こりやすいなど、ストレス耐性が低い人
セルフチェックはあくまでも一つの目安であり、ストレス耐性が低いと出たからといって気にしすぎる必要はありませんが、思い当たるふしがあればぜひ次章の「ストレス耐性を高める方法」をチェックし、自分に欠けているところを実践してみると良いでしょう。
ストレス耐性を高めるにはどうすればいい?
では、実際にストレス耐性を高める方法を見ていきましょう。ストレス耐性を高める、というとどうしても考え方や感情など、心理面の改革を考えてしまう人が多いのですが、生活習慣や行動を変えることでストレス耐性を高める方法もあります。しかも、生活習慣や行動を変え始めると、それにつられて心理面も変化していくことが多いです。
心理面の改革を一朝一夕に行うことは難しいですが、生活習慣や行動は今からでもすぐに始められます。そこで、まずは生活習慣や行動を変える方法から見ていきましょう。その後、考え方や感情など心理面を変えていく方法や、利他的な行動でストレス耐性を強くする方法をご紹介します。
生活習慣や行動を変えてストレス耐性をつける方法って?
生活習慣や行動で最初に見直すべきなのは、「食事・睡眠・運動」の3本柱です。運動というとスポーツや長距離のランニングなど、大掛かりな運動を思い浮かべてしまう人も多いのですが、実は身体をほぐすストレッチだけでも十分、自律神経やホルモンバランスを整えられ、自信や自己信頼感を高めてくれますので、ストレス耐性アップにつながります。
身体を動かすと「エンドルフィン」という脳内ホルモンが分泌されます。エンドルフィンは脳内モルヒネとも呼ばれ、脳に快感をもたらしてマイナス思考や不快・不満などの心理状態をプラスに切り替えてくれます。また、軽い散歩やウォーキングなどの適度な運動で体力がつくと、心と身体が活性化するので、些細なことでは気分がかき乱されにくくなります。
心理学などでよく「身体と心はつながっている」と言われますが、精神的な調子と身体の調子は切っても切り離せないものです。運動などで身体が温まると、酸素や血液が十分に身体に行き渡りますので、老廃物の排出を促し、免疫力をアップしてくれるほか、筋肉をゆるめてリラックスすることにもつながります。
筋肉がゆるんでリラックスすると、心が肯定的になるので、ストレスに影響を受けにくい状態になれます。身体を冷やさないよう、冷たい飲み物や食べ物を摂りすぎないことも重要です。冷たいジュースなどは控え、温かいお茶やミルクなどを飲むと身体が内側から温まりますので、ぜひ意識的に身体を温めてみましょう。
身体を温めるためには、栄養バランスの良い食事も不可欠です。食事は身体を動かすためのエネルギーのもとになるほか、筋肉・血液・骨などを作り、疲労を回復させ、代謝や体調を整えます。例えば、身体を健康かつ元気に保つためには、以下の栄養素が欠かせません。
- 3大栄養素
- 糖質・脂質・タンパク質
- エネルギーになったり、身体の組織を作ったりする
- 5大栄養素
- 3大栄養素+ビタミン、ミネラル
- 疲労を回復し、身体の調子を整える
- その他、ストレスに強くなる栄養素
- 気持ちや感情を安定させる:カルシウム、マグネシウム(※ミネラルに含まれる)
- ストレスへの抵抗力を高める:パントテン酸(※ビタミンに含まれる)
バランスよく栄養を摂取できると、自律神経やホルモンのバランスが整って免疫力もアップしますし、物事を否定的に捉えにくくなり、肯定的に捉えやすくなります。毎日同じ時間に規則正しく食事をとれば、身体のリズムを整えやすくなり、夜遅く食べないことで胃腸への負担が軽減されます。
また、1日のカロリー摂取量を計算し、カロリーを摂りすぎないよう気をつけられると理想的です。お米などの穀類を基本の主食とし、タンパク質とたっぷりの野菜、お味噌汁などの汁物を加えると良いでしょう。栄養バランスの整った食事を簡単に作るには、例えば以下のような「3色の食材」を揃えると良いとされています。
- 黄:お米、パン、麺類など主食となる糖質が中心
- 赤:肉、魚、卵、大豆など身体を作るタンパク質が中心
- 緑:野菜、きのこ、海藻など食物繊維が中心
栄養を十分に摂取したら、それが体内の組織に送り届けられるよう、水分補給も忘れないようにしましょう。水は血液にも体液にもなりますので、身体中に栄養素を運ぶとともに、老廃物を回収して体外に排出しやすくするデトックスの働きもして、新陳代謝を促してくれます。十分な量の水を飲むと身体が軽くなり、調子が整うことに気づく人もいるでしょう。
水を飲むときには「一度にたくさんの水を飲まず、こまめに水分を補給する」「冷たい水を飲まず、常温または白湯を飲む」というポイントに注意しましょう。冷たい水や、一度に大量の水を摂取すると腎臓に負担がかかってしまいますので、逆に身体に不調をきたしやすくなってしまいます。
また、水は1日2リットル飲むと良いとされていますが、それは食事や水分から摂取する合計の水が約2リットルになれば良いということで、とにかくたくさん飲めば良い、というわけではありません。必要な水分量の総量にも個人差がありますので、1日かけてこまめに水分補給するとともに、決して無理に飲み過ぎたりしないようにしましょう。
よく食べてよく運動したら、夜はゆっくり休みましょう。睡眠は脳・心・身体の状態をリセットし、疲労や緊張、ストレスを開放してくれます。十分な睡眠は自律神経やホルモンバランスを整えてくれますので、やはり肯定的な思考をしやすくなり、活力が高まったり、能力を発揮しやすくなったりします。
逆に言えば、睡眠が足りないと疲労や緊張、ストレスが残ったままになり、自律神経やホルモンのバランスが崩れてしまいます。慢性的に寝不足が続くと自律神経やホルモンバランスを大きく崩してしまいますので、心身の健康を損ない、最終的に精神疾患や生活習慣病、生命に関わる心血管疾患などを引き起こすこともあります。
そこで、十分かつ良質な睡眠をとれるよう、以下のようなポイントを心がけましょう。
- 電気を消す、適度な温度に整えるなど、快適な睡眠環境をつくる
- 規則正しい睡眠のパターンを作る
- できるだけ、就寝の2時間前以降に食事を食べないよう注意する
- リラックスして眠りにつけるよう、ヨガ・ストレッチや呼吸法などを行う
睡眠は1時間30分(90分)の周期を持っていて、周期の変わり目に起きるとすっきり目覚めやすいとされています。その周期に沿ったうえで十分に睡眠時間を確保できるよう、だいたい6時間、または7時間半の睡眠リズムを作ると良いでしょう。
他にも、行動を変えてストレス耐性をつけるには、先ほどご紹介した呼吸法を行ったり、瞑想をしたり、姿勢を変えたり、自分の時間を持ったりする方法があります。順番に見ていきましょう。
呼吸法や瞑想法で、頭も身体もスッキリ
深い呼吸を行うと、自律神経のうち休息を司る「副交感神経」の働きが活発になります。ストレスの多い現代人は、活動を司る「交感神経」の働きすぎで自律神経のバランスを崩すケースが非常に多いので、副交感神経を活性化して交感神経を休ませることで、自律神経のバランスが整いやすくなり、リラックスできます。リラックスしていると心が安定するので、ストレスの影響を受けにくくなります。
単にゆっくりとした深い呼吸を繰り返すだけでも良いのですが、鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、お腹をへこませながら口から息を吐く「腹式呼吸」を意識すると、よりリラックスしやすくなります。だいたい8秒でしっかり息を吐き、その後4秒で息を吸うのを10回くらい繰り返すと良いでしょう。仕事の合間、朝起きたとき、夜寝る前などに行うのがおすすめです。
5〜15分程度時間がとれるなら、瞑想をすると良いでしょう。ストレスを減らしながら、ストレス耐性を上げることができます。仕事のパフォーマンスをアップしたり、人間関係を円滑にしたり、免疫力アップにも役立つとされていますので、以下のような手順でぜひ瞑想を行ってみましょう。
- 椅子、座禅、あぐらなど背筋を伸ばす、または布団に横になった状態で行う
- リラックスして背筋を伸ばし、目を閉じ、ゆったりとした呼吸を行う(前述の呼吸法を行えると理想的)
- 呼吸だけに意識を向け、雑念や思考、感情、執着などが浮かんできたらそのまま見守る
- 雑念や思考に引き込まれていることに気づいたら、呼吸に意識を戻す
さらに、瞑想と感謝を組み合わせるとより心身の健康度がアップすることも研究されていて、感謝の状態に入ると免疫力が最大6時間高まるとも言われています。そこで、瞑想しながらイメージの中で、人や物を具体的に思い浮かべながら感謝し、そのときの心と身体の感覚を全身に広げて味わいましょう。
瞑想はグーグルやアップルなど世界的な大企業が研修に取り入れているほど非常に重要なストレスマネジメント方法とされ、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、松下幸之助などさまざまな著名人が行っています。瞑想を繰り返すことで、思考や感情の執着を手放し、「今、この瞬間」に集中できるようになっていくのです。
姿勢や脳の使い方で、良い刺激を生み出そう
身体の使い方、つまり「姿勢・表情・歩き方・声・話し方・呼吸」などに気をつけることでもストレスの感じ方が異なります。健康の部分で「心と身体はつながっている」ということをご紹介しましたが、例えば辛いときにうつむきがちに歩いてしまったり、楽しいときは表情も明るく、足取りも軽くなったりします。
ということは、逆に気持ちを上向きにしたいときにはいわゆる「肯定的なパターン」の身体の使い方をすれば、それにつられて気持ちが明るくなったり、元気が出てきたりするということです。具体的には、以下のようなパターンが世界共通の肯定的なパターンだとされています。
- 背筋を伸ばした姿勢
- 頬や口角を上げた笑顔、目・口・眉間をリラックスさせた表情
- 顔が前を向いている
- 通常のスピードか、ややゆったりした歩き方
- 通常の声の大きさで、自然にまたは堂々と話す
- 深い、または通常どおりの呼吸をゆったりと行う
悲しいときでも少し頑張って笑顔を作ることで、少し悲しみが軽減されたり、気持ちが楽になったりした経験がある人は多いでしょう。それと同じように、顔を前向きにして明るい表情を浮かべ、深呼吸をすることで心身のバランスを整え、心身の緊張をほぐすことができます。逆に、以下のような否定的なパターンに陥っていたら、まず身体を肯定的なパターンにしてみましょう。
- 猫背
- 無表情やしかめつら、目・口・眉間が緊張している
- 顔が下を向いている
- 歩き方がのろのろしている
- 声が小さかったり、どもったりしてしまう
- おどおどと話してしまう
- 浅く早い呼吸
特に、呼吸が浅く早くなっていることに気づいたら、意識的に深く息を吸って、吐き出してみましょう。深呼吸を数回行うだけでも、気持ちを落ち着かせることができます。このように肯定的な身体のパターンを意識的に取り入れることで、自律神経やホルモンの働きを素早く整えられ、結果的にストレス耐性もアップさせられるのです。
こうした作用を利用して身体を良い状態に持っていく方法として、脳を利用する方法があります。例えば、レモンや梅干しなど酸っぱいものを食べることをイメージすると、自然と口の中に唾液が分泌されますが、このように脳のイメージや感じ方を利用して身体に良い効果をもたらすことができます。
脳は不快だと感じているとき、ノルアドレナリンというホルモンを分泌します。一方、心地よいと感じているとき、エンドルフィンというホルモンを分泌します。エンドルフィンは運動でも分泌されることをご紹介しましたが、このホルモンによって心身ともに肯定的な影響を受けられ、ストレス耐性をアップさせられるのです。
つまり、脳が心地よいと感じることをたくさん知っておき、気分が落ち込んだりストレスを感じたりしたらそれを行えば、脳から出るホルモンで身体を良い方向に導けるのです。心地よいと感じられることは人それぞれなので、好きな映画や漫画、ドラマなどを見たり、好きな音楽を聴いたり、好きな場所に言ったり、美味しいものを食べたりと、自分がやりたい、心から楽しい、心地よいと思えることをしましょう。
自分だけの時間を持つことがストレス解消に
前述の「脳が心地よさを感じる」ということともつながってきますが、自分のためだけの時間を持つこともストレス解消やストレス耐性アップにつながります。普段、忙しいと仕事や家族との時間を最優先にしてしまい、なかなか自分だけの時間を持てない人も多いでしょうが、1日最低30分、できれば1時間程度の時間を確保できると理想的です。
可能なら、週に1度まとまった時間を自分のためだけに使えるとより効果的です。そして、この時間は「やりたいのにやれていないこと」「やり残していて気になっていること」「普段は我慢していること」「ついつい先延ばしにしてしまっていること」などを行いましょう。先延ばしや我慢は脳の中でひっかかり、ストレスの原因になってしまいます。ぜひ、適度に自分だけの時間を作り、脳のひっかかりを解消してしまいましょう。
心理面を変えてストレス耐性をつけるにはどうする?
心理面を変えてストレス耐性をつけるということは、誰しも真っ先に思いつくことでしょう。心理面からストレス耐性をつける上で最も大切なのは、そもそも「ストレスに気づく」ということです。ストレスを感じていると気づき、その原因を明確にできれば対処ができます。こうして、ストレスの影響を軽減できるというわけです。
頑張りすぎてしまう人や、辛い気持ちを溜め込んでしまう人の特徴として、「自分が何を感じているかを後回しにしすぎて、自分の心身の辛さに鈍感になりやすい」という傾向があります。そして本人も気づかないうちにストレスを溜め込みすぎてしまい、やがては限界を超えて心身の疾患や不調が生じてしまいます。
疾患や不調にまで進行してしまうと、風邪や軽度の感染症と異なり、元に戻すのは非常に大変ですから、そうなる前にストレスを感じていることに自ら気づき、ケアや対処をしていくことが重要です。そこで、以下のようなポイントを定期的にチェックし、ストレスに気づけるようにしましょう。
- 今、ストレスを感じている状態ではないか?
- 現在のストレスレベルは、10段階で表すといくつめか?
- 身体は緊張していないか?
- 違和感・緊張・プレッシャー・葛藤などを感じていないか?
- 自己否定や自己憐憫をしていないか?
- 呼吸が浅くなっていないか?
- 息抜きできているか?
- 人間関係における問題はないか?
- ストレスを感じているのなら、何に対して感じているのか?
- ストレスの根本的な原因は何だろうか?
これらのポイントは、いずれも自分自身の状態を確認するものです。自分の状態にしっかり目を向け、ポイントをチェックした経験が増えるほど感覚が研ぎ澄まされ、ストレスやその原因(ストレッサー)に気づきやすくなります。
ストレスに気づいたら、次にストレスに対処したり、セルフケアをしたりしましょう。それぞれの方法について、詳しく解説します。
ストレスに対処する方法を学ぼう
ストレスに対処する根本的な方法として、「ものの見方や考え方、捉え方を変える」というものがあります。具体的には、「ストレスにも何らかの意味がある」と考えたり、「失敗や辛い出来事も、学びや自分を褒められた点がある」と捉えたり、マイナスの思い込みがあると気づいたら、それを解除していくような工夫をしたり、ということです。
ストレスを感じるような体験や出来事をただ避けるのではなく、「人生にとって意義があること」「何らかの意味があること」と考え、自らそこに意義や価値を見出すのです。すると、人生に充実感や幸福感が生まれ、ストレスをプラスに感じられるようになり、ストレスがストレスでなくなります。さらに、目標達成や問題解決に役立つような心の状態を作り出せるでしょう。
例えば、以下のような質問を投げかけると、体験や出来事の意義・意味を見出しやすくなります。
- 良い面があるとしたら、それはどんなことだろう?
- この体験や出来事から何を得られるだろう?
- 自分は何を避けたいと思うだろう?
- この体験や出来事は何のために行うのだろう?
- 自分にとって、この体験や出来事を通じて何が大切だとわかっただろう?
同様に、過去の失敗や辛い出来事に対しても、自分のものの見方や捉え方を変えることで自分の力にすることができます。辛い出来事はどうしても「あのときああしておけば」と、マイナスのイメージや感情を繰り返し、増強してしまいやすいものですが、出来事は見る角度によってプラスにもマイナスにもなるものです。
もちろん、失敗や辛い出来事があったとき、反射的にショックを受けたり、落ち込んだりしてしまうのは仕方がありません。しかし、少し落ち着いたら、ぜひ以下のような質問を投げかけてみましょう。
- 出来事にプラスの面があるとしたら、それはどんなこと?
- もし、その出来事に-1〜-100の間でマイナスポイントをつけるとしたらどのくらい?
- 出来事から学んだこと、気づいたこと、得られたものは?
- 出来事があったからこそ手に入ったものは?
- その出来事の中で、自分を褒められるところは?
自分の行動や結果を妨げている過去の失敗やつらい経験を思い出したときは、これらの質問を投げかけ、失敗や辛い経験を自分の力に変えてしまいましょう。慣れていくほどどんどん効果がアップしていきますので、最初は苦手でも構いません。何度も質問していくうちに、「あれも良い経験だったな」と思えるようになればしめたものです。
さて、失敗や辛い出来事が続くとマイナスの思い込みが強化されていってしまうというデメリットもあります。マイナスの思い込みを心理学では「制限のビリーフ(ビリーフ=信じること、信念)」と呼びますが、例えば「自分にはできない、無力だ」「自分には価値がない、愛されない」「自分は誰にも必要とされていない」などが代表的なものです。
こうした制限のビリーフがあると、人生にとって大きな損失となり、多大なストレスを生み出してしまいます。このことに気づけないまま何十年も過ごしてしまったり、中には人生をそのまま終えてしまったりする人も少なくありません。ですから、積極的に失敗や辛い出来事の記憶の捉え方を変え、自分の力に変えていくことが重要なのです。
セルフケアでストレスに強くなろう
セルフケアもストレス耐性を高めるためには重要です。ただし、ここで言うセルフケアとは、自分の内面に対してプラスに働きかけるということで、ざっくりと言えば「自分自身を信頼する」ということに集約されます。前述の制限のビリーフとは真逆で、「自分には何だってできる」という無条件の信頼感を持つことです。
自分自身を信頼している人は、自然とものの見方や捉え方が肯定的になります。何らかの問題や失敗などが起こっても「この出来事の良い面はなんだろう」「何を学べるだろう」「これは、必要があることだった」「この出来事のおかげで目を覚ませた」など、何らかの意義や価値を見出し、ストレスをストレスとして感じにくくなります。
自分を信頼するためには、「自分は大切な存在である」「自分は必要とされている」「自分は愛されている存在である」という「自己重要感、自己肯定感」を高めなくてはなりません。自己重要感はなかなか自分自身では高めにくいと思っている人も少なくありませんが、決してそんなことはありません。具体的には、以下のようなことを実践してみましょう。
- 自分の良いところや、好きなところを紙に書き出してみる
- 毎晩、今日自分の良かったところや成長したところ、学んだところを紙に書き出す
- 自分がやると決めたことを守るなど、小さな達成を積み重ねていく
- 自分を褒める、ねぎらう、感謝する
「自分がやると決めたことを守る」と言うと、なにか大きな目標を達成することを考えてしまう人も多いのですが、「朝起きたら、水を1杯飲む」といったごく小さなことで構いません。小さな目標を決め、それを達成したという実績を積み重ねていくことで、「自分はやると決めたことを守れる人間である」という自信につながります。
自信がついてくると、根拠があってもなくても「自分にはできる」と肯定的に物事を捉えられるようになります。自分への強く揺らがない信頼があるので、得られる成果や可能性に目を向けられ、プレッシャーを感じるような大きな目標や困難な問題も自分を成長させられる「プラスのストレス」へと変えられます。
他にも、自分に自信をつけるためには必要な知識、スキルを学んだり、体力や気力を高めたりする方法もあります。これもやはり小さな目標から始めると良いでしょう。例えば、「週に1回は新しい本を読む」「週に1回、散歩やウォーキングをする」など、無理のない範囲で目標を設定し、達成の実績を積み重ねていきましょう。
ある程度「自分との約束を守る」ということに慣れてきたら、少し未来のことについて目標を立てると良いでしょう。やりたいことやなりたい自分など、目標がある人ほどストレスが少ないとされています。周囲から見ると困難な状態に見えても、本人にとって魅力的・理想的な未来に向かっていれば、一見困難な状況も楽しめてしまうということはよくあるものです。
先ほどもご紹介したように、ものの見方や捉え方でストレスはマイナスにもプラスにもなる、と健康心理学でも明らかになっています。さらに、目標が明確かつ魅力的で、本人にとって理想的であるほどストレスはプラスになり、出来事は意義や意味、価値がある必要な経験になり、人生をより豊かで健康的なものにできるとされています。
そんな未来の目標を描くためには、以下のポイントを意識して設定すると良いでしょう。
- 仕事・人間関係・健康など、何の未来を描きたいか決める
- 2年以上先の理想的な未来を、できるだけ具体的に描く(いつ、誰と、どこで、何を達成しているのか)
- 理想的な未来を手にすることで、何を得られるのか深く掘り下げる
- どうしてそれを手に入れたいのか、理由を明確にする
- 現状、その未来と比べてどのように異なるか確認する
- 理想的な未来を手にするためには、何が必要なのか考える
心理学では、現状とゴールをどれだけ具体的に鮮明に描くかで結果に違いが出るとされています。イメージトレーニングなどでも、単に「試合に勝つ」とだけ考えるのではなく、「試合の流れがこうで、戦い方がこうで、だから試合に勝つ」と具体的にイメージできる方がその通りの結果を得られやすいことはよく知られています。
ですから、理想の未来を描くにあたってもできるだけ具体的に描くとともに、なぜそれを手に入れたいのか、現状とどのようなギャップがあるのか、そのギャップを埋めるためには何が必要なのかしっかり考えることが必要です。できればノートなど紙に描き出し、必要なものや理由を書き出していくとより準備しやすいでしょう。
経験がストレス耐性に!大きめにメンタルセットするのがポイント
ここまでご紹介してきた心理面からのストレス耐性アップ方法について、一つの共通点として「経験を積む」ということが挙げられます。もっと言うと、経験した出来事の捉え方を良い方向に工夫し、経験をどんどん良い経験に変えていくということも同時に行う必要があります。
例えば、初めて人前で挨拶をするときは緊張しますが、次はこうしよう、ここを直そうと経験を糧にすることで、2回目や3回目にはだんだん緊張することも少なくなり、マイナスのストレスを感じにくくなっていきます。人によってはその状況を「プラスのストレス」として楽しめるようになることもあります。
このように、ストレスを感じる出来事があったとしても、それをプラスのストレスとして捉えられれば、多くの出来事は自分を成長させてくれる大切な経験になるのです。そして、ストレス耐性が高まるほど、そのレベルに合わせてストレスの悪影響を受けにくくなっていきます。そのためには、時々以下のようなポイントを自分で振り返ってみるとより良いでしょう。
- ストレスは決して悪いものだけではない、と知る
- 以前と現在の自分を比較し、ストレスに強くなっていることに気づく
- 以前ストレスを感じた出来事から得たものを振り返る
- 今後感じるストレスから、何を得られるか考える
ただし、すべてのストレスが捉え方でなんとかなる、とは限りません。大きすぎるストレスは心身への悪影響も大きいため、決して無理をしないよう注意しましょう。
また、出来事をプラスの経験として自分の糧にするためのポイントとして、「あらかじめ、大きめにメンタルセットしておく」というものがあります。「メンタルセット」とは心の状態を作る枠組み、心構えのようなもので、起こるだろう事柄や出来事よりも少し大きめの出来事が起こるつもりでメンタルセットしておくと、その分余裕が生まれるというものです。
例えば、半年後にハーフマラソンに出ることになったとします。そのとき、ハーフマラソンに出るつもりでトレーニングをするのではなく、あえてフルマラソンに参加するつもりでトレーニングをしておくのです。すると、大きめにメンタルセットしてあるため、ハーフマラソンを走ることに対しても大きなプレッシャーやストレスを感じにくくなります。
このように、大きめのメンタルセットをするためには、以下のようなポイントを明確にしておくと良いでしょう。
- 望んでいる状態や目標、起こるべき出来事を明確にする
- 現状、その状態や目標、出来事についてどのような状態かはっきりさせる
- 望んでいる状態と現状の間のギャップを具体的に洗い出す
- ギャップを埋めるために、何をしたら良いかという必要条件をはっきりさせる
- 起こるかもしれない最悪の事態を想定したり、想定よりも大きめの目標に向かったりする気持ちを持つ
- 想像以上に悪い出来事が起こる可能性もある、と想定してある程度の対策を講じておく
抱えきれないほどのストレスは、たいてい想像もしていなかった悪い出来事や大きなプレッシャーなどからやってきます。ですから、あえて大きめにメンタルセットしておくことで、「これも想定の範囲内」と余裕を持って対処できれば、ストレスを感じにくくなったり、感じるストレスが少なくなったりするでしょう。
利他的な行動がストレス耐性を高くする?
健康心理学や、アメリカで約1,000人に行った研究によれば、他人を思いやることに時間を費やした人の死亡率は下がるとされています。自分以外の誰かを思いやると、脳・身体・心臓に良い影響をもたらす「オキシトシン」というホルモンが分泌されるのです。
さらに、オキシトシンが共感や思いやりを生むので、ストレスに強くなるだけでなく、人間関係をより良い状態にできます。これを利他性と言いますが、思いやりがオキシトシンを生み、オキシトシンが人間関係を良くし、温かな人間関係がさらに思いやりの心を生む、といった好循環を生み出すこともできるでしょう。
例えば「おもてなし」はやはり利他性から生じています。お客様に喜んでもらおう、感動してもらおう、満足してもらおう、心地よく感じてもらおう、といったことを心がけているお店は、いつもお客様の求めるものや行動に目を向けているのです。こうした姿勢に学ぶ利他性のポイントは、例えば以下のようなことです。
- 相手の心、求めるもの、行動に目を向ける
- 人の幸せを祈る
- 人が幸せな状態を手にしている姿をイメージする
- 人の喜びや感動、満足、心地よさなどを意識する
- 人とコミュニケーションを取る
- 誰かのために行動する
大切な人やいつもお世話になっている人など、ぜひ「おもてなし」の心で接してみましょう。人は「誰かのために」と考えることで、いつも以上に力を発揮できることも少なくありません。大切な人のために結果を出し、かつストレスに強くなり、より健康になることができるという素晴らしい方法です。ぜひ、できることから実践してみましょう。
おわりに:ストレス耐性は高められる!できることから始めよう
ストレス耐性は容量・処理・感知・経験・回避・転換の6つの要素で決まるとされていて、中には自分の考え方や行動を変えることで強くできるものもあります。一つの目安として、現在のストレス耐性をセルフチェックしてみるのも良いでしょう。
ストレス耐性を強くするには、心理面からのアプローチだけでなく、生活習慣や行動、姿勢など身体の使い方、時間の使い方などを変える方法もあります。自分に合った方法を実践しましょう。
コメント