「ストレス」という言葉は我々の日常の中にすっかり定着し、ストレスによってホルモンの分泌が促され、それによって身体にさまざまな変化が起こることや、ストレスを溜め込みすぎると身体に不調が生じることなども知られてきています。
ストレスによる不調を防ぐためには、どんなことに気をつければ良いのでしょうか。今回は、ストレスとはそもそもどんなものか、という基本からご紹介します。
- この記事を読むとわかること
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- ストレスのうんちく、雑学、定義
- ストレスが原因で起こる不調や症状
- ストレスが引き起こす病気
- ストレスのセルフチェック
ストレスとはどういうもの?
ストレスという用語は、もともとは物理学の分野で使われていた用語です。意味は「物体の外側からかけられた圧力によって、物体に何らかの歪みが生じた状態」のことで、これが転じて「外部からの刺激によって心や身体に何らかの歪みが生じた状態」のことを指す言葉として使われるようになりました。
心や身体を風船に例えると、風船を指で押さえると形が凹みます。このとき、風船を指で押さえる力(ストレスの原因となる刺激や出来事)のことを「ストレッサー」と言い、風船が凹んだ状態(ストレッサーに適応しようとして、心身に起こったさまざまな反応)のことを「ストレス反応」と言います。
ストレッサーにはさまざまなものがありますが、大きく分けると以下の6種類が考えられます。
- 物理的ストレッサー
- 温熱、寒冷、気圧など気象の変化、騒音や混雑など
- 環境的(化学的)ストレッサー
- 公害物質や薬物、酸素の欠乏や過剰、一酸化炭素、たばこなどの空気汚染、照明、振動など
- 社会的ストレッサー
- 仕事が忙しい、残業や夜勤、重い責任、借金、家庭の問題など
- 肉体的ストレッサー
- 病気、けが、不規則な生活、睡眠不足、疲労など
- 精神的ストレッサー
- 家族や親しい人の病気や死、失恋、解雇、倒産、挫折など
- 対人関係ストレッサー
- 職場や家族、親戚、近所づきあいや友人間のトラブルなど
ストレッサーとなるものはなにも特別な天災や人災などとは限らず、日常生活の中で感じるさまざまな変化(刺激)がストレスの原因となりえます。一般的には嫌だと感じる出来事によりストレスを感じやすいため、例にはマイナスの要因を多く挙げましたが、進学や就職、結婚、出産などといった喜ばしい出来事も環境が大きく変化するため、ストレスの原因になるのです。
ストレスには「良いストレス」と「悪いストレス」があるって本当?
ストレスは悪い意味で使われることが多いのですが、前述のように良い刺激もストレスになります。つまり、ストレスとは本来悪いだけのものではなく、ストレスを感じる本人にとって「良いストレス」と「悪いストレス」があるのです。同じ出来事でも、感じる人の受け取り方によって「良いストレス」になることも「悪いストレス」になることもありえます。
例えば、学校で遠足に行くことが決まったとき、ある子どもはそれを楽しみにしてわくわくし、どんなお菓子を持っていこうか、誰と一緒にお弁当を食べようかなどと考えて心待ちにするでしょう。このようなストレスは「適度なストレス(刺激)=良いストレス」であり、本人にとっても心地よいストレスと言えます。
しかし、車酔いしやすい子どもは遠足でバスを使うことに対し、不安や緊張を覚えるでしょう。これはストレスが心身に悪影響を及ぼす「悪いストレス」と言えます。心が拒否反応を示し、不安や抑うつ状態になったりすることもあります。身体がストライキを起こし、遠足の日の朝に腹痛を起こしてしまうなどということもありえます。
また、良いストレスの場合でも興奮しすぎるとストレスが大きくなりすぎて、先程の遠足の例では前の晩に全く寝つけなくなってしまうといった場合もあります。こうなると過剰ストレスと考えられ、悪性ストレスとまではなりませんが、心身に強い刺激を受けたことで身体がなかなか休息モードに入れなくなってしまうという状態を引き起こします。
このように、ストレスには良いストレスと悪いストレスがありますので、「全くストレスを感じない状態」は必ずしも人間にとって良い状態とは限りません。ストレス=刺激が少なすぎる「過少ストレス」の状態では身体も心も緊張がなく、いずれ鈍って退化していってしまいます。例えば、定年で退職した人が仕事のストレスや緊張から解き放たれた代わりに趣味がなく、一気に老け込んでしまったり認知症が進行してしまったりすることがあります。
これは刺激=良いストレスが少なすぎることが原因と考えられます。ストレスを良いものにするか悪いものにするかは「刺激そのものの性質」と「個人の資質」によって決まりますので、同じ出来事に対して良いストレスと感じる人もいれば、悪いストレスと感じる人もいます。悪いストレスを感じ続けていると、ストレスがもとになって起こる「心身症」「うつ病」「神経症」などのストレス病にかかってしまう可能性もあるでしょう。
ストレスで起こる体の変化や症状は?
前述のように、悪いストレスを感じ続けているとストレス病と呼ばれる疾患を発症してしまうこともあります。とはいえ、このような「ストレス病」はある日突然現れるわけではなく、多くはストレスによるさまざまな症状を経て、最終的に心身症やうつ病などの大きな疾患へと進行して行きます。具体的に見ていきましょう。
まず、ストレスを受けたとき、私たちの身体には「情動変化」から「身体変化」、そして「行動変化」といった生体反応プロセスが起こります。
- 情動変化
- 不安、怒り、失望、恐怖などの感情が現れる
- 活気が低下する、イライラ、気分の落ち込みや興味・関心の低下となることも
- 身体変化
- 動悸、震え、息苦しさ、冷や汗などの変化が身体に現れる
- 身体の節々の痛み、頭痛や胃痛、肩こり、腰痛、目の疲れ、息切れ、食欲低下、便秘・下痢、不眠などが現れることも
- 行動変化
- 情動変化や身体変化を解消しようと、せかせか行動したりタバコやお酒を飲んで気を紛らわそうとしたり、行動に変化が現れる
- 仕事でのミスや事故、ヒヤリハットが増えることも
このような変化は全て、自分を守るための「防御態勢」と考えられています。身体変化や情動変化では、心身の働きの中でも特にストレッサーの攻撃に弱い部分に現れ、該当部位の機能障害を引き起こすものとされています。そのため、ストレス反応には個人差があり、循環器系に問題が現れる人、消化器系の働きが悪くなる人、頭痛に悩まされる人などさまざまです。
ストレス状態が続くと、身体のさまざまな部位にストレスによる初期症状が現れてきます。具体的には、以下のような症状が続くようであれば注意が必要です。
- 全身症状
- 疲れやすい、身体がだるい、気力が湧かない、立ちくらみしそうになるなど
- 筋肉系症状
- 肩が凝る、首が凝る、手足がだるい、関節痛、偏頭痛、背中や腰が痛くなるなど
- 感覚器系症状
- 目が疲れやすい、めまいがする、多汗になる、音に対して過敏になるなど
- 睡眠障害
- 寝つきや寝起きが悪い、眠りが浅い、早く目が覚めて再び寝つけない、夢ばかり見ていて寝た気がしない、頭が重くすっきりしないなど
- 循環器系症状
- 心臓がドキドキする、胸が痛くなる、脈がとぶ、手や足が冷たくなりやすいなど
- 消化器系症状
- 食欲不振、胃がもたれる、吐き気や嘔吐、よく下痢をする、便秘になりやすいなど
自分がストレス状態にあるとすぐに気づければ良いのですが、多くの人は自分がストレス状態にあるとは気づいていませんし、このような症状が出ていたとしてもストレスから来るものだと気づくのは容易なことではありません。ですから、周囲の人たちが変化に気づくことが最も重要です。周囲の人にこうした不調を相談されたら、ストレスを疑うことも促してみると良いでしょう。
また、さらにストレス状態が続き、慢性的にストレスを感じている状態になると、以下のような症状へと進行していく可能性もあります。
- 何かするとすぐ疲れてしまい、その疲れがなかなかとれなくなってしまう
- 腹が張ったり痛んだり、便秘や下痢がよく起こる
- 以前は気にならなかったようなことで腹が立ったり、イライラしたりしてしまう
- 他人と会うのが億劫になったり、仕事をする気が起こらなかったりする
- 口の中が荒れたり爛れたり、舌が白くなったりする
- よく風邪を引いてしまい、しかもなかなか治らない
- 深夜に目が覚めた後、なかなか寝つけない
- 好きなものでもあまり食べる気がしない、この頃体重が減った
この頃になると、生活に深刻な悪影響を及ぼすようになってきます。ストレスを軽視せず、早めに専門医の診察を受けましょう。
ストレスはどんな病気を引き起こすの?
ストレスの原因が取り除かれず、ストレス反応が慢性化していくと、前述のようにさまざまな身体症状となって現れてきます。最終的には、以下のような心身症(ストレスに関連する疾患)などの疾患を引き起こすかもしれません。
- 呼吸器系
- 気管支喘息、過換気症候群
- 循環器系
- 本態性高血圧症、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞など)
- 消化器系
- 胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、心因性嘔吐
- 内分泌・代謝系
- 単純性肥満症、糖尿病
- 神経・筋肉系
- 筋収縮性頭痛(緊張型頭痛)、痙性斜頸、書痙
- 皮膚科領域
- 慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症
- 整形外科領域
- 慢性関節リウマチ、腰痛症
- 泌尿・生殖器系
- 夜尿症、心因性インポテンス
- 眼科領域
- 眼精疲労、本態性眼瞼痙攣
- 耳鼻咽喉科領域
- メニエール病
- 歯科・口腔外科領域
- 顎関節症
もちろん、これらの疾患の原因が全てストレスというわけではなく、例えば高血圧の場合、ストレスによるものとその他の原因によるものがあります。疾患の発症や経過にストレスが関係していればストレスが関与していると判断され、身体の治療とともにストレス状態の改善についても考慮しなくてはなりません。ストレッサーに対する対処方法(コーピング)の工夫などは、ストレスが原因となる疾患にとっても有効な改善方法の一つと言えます。
また、ストレスによる精神的な疾患としては、気分障害や不安障害が挙げられます。
- 気分障害(うつ病・躁うつ病)
- うつ病とは、心身の働きが極端に低下し、日常生活に差し支えるような状態に陥る疾患のこと
- 物悲しい、憂鬱、悲観的な気分、イライラなどの強い抑うつ状態や、物事に対する意欲の低下などの精神症状に加え、睡眠障害や食欲不振などの身体症状がほとんどの人に現れる
- 最も注意が必要なのは、初期や治りかけの頃に発作的に起こる自殺
- 心理的な刺激がストレスとなって起こることが多いが、早期発見して適切な対応をとることで完治できる疾患
- 近年では、従来の「定型うつ病」に加え、特徴が異なる「非定型うつ病」が増えている
- 非定型うつ病では憂鬱な気分や意欲の低下はあるものの、楽しいことに対しては一時的に気分が明るくなったり、過眠や過食に陥ったりする
- 20代〜30代の女性に多く、自己否定や自責の念には乏しいこともある
- 不安障害
- 不安障害とは、ストレスが心に現れ、その影響で心身にさまざまな症状を引き起こす。神経症とも呼ばれていた
- 不安が中心にあることが共通している他は、心身両面の症状が多彩
- 必ず精神的な悩みや葛藤などの原因があるのが特徴で、原因が解消されれば自然と症状もおさまることが多い
- 単なる心配性との違いは、耐え難い極度の不安が終始つきまとい、日常生活や社会生活に支障をきたすほどであるということ
- 極度の不安が1ヶ月以上続くようなら、不安障害と考えてよい
- 生まれ持った資質や性格、ストレス、ショックな出来事や経験などが積み重なって発症すると考えられている
心身症の場合も、精神的な疾患の場合も、本人は自分の異常に気づかない場合がほとんどです。周囲から見て「最近なにかおかしい」「異常な印象を受ける」といった場合には、なるべく早く専門医による診察を受けるよう促してみましょう。特に、心の病気の場合でも決して治らない疾患というわけではありませんので、早期発見を心がけることが大切です。
ストレスはどうやってチェックすればいいの?
ストレスの影響で心や身体に何らかの悪影響が出ているかもしれない、と思ったら、まずはセルフチェックをしてみましょう。前章でも書いたさまざまなストレス反応による症状を並べたものですが、症状に心当たりが多いほどストレスを感じていると考えて良いでしょう。
- よく風邪をひき、それが治りにくい
- 手や足が冷たいことが多い
- 手のひらやわきの下に汗をかきやすい
- 急に息苦しくなったり、動悸を打ったり、胸が痛くなったりする
- 頭がすっきりしない(重い)、めまいや立ちくらみが起こりやすい
- 目が疲れやすい
- 鼻詰まりや耳鳴りが起こる
- 口の中が荒れたり、爛れたり、舌が白くなっていたりする
- 喉が痛くなりやすい
- 好きなものでも食べる気がしない
- いつも食べ物が胃にもたれているような気がする
- 腹が張ったり痛んだり、下痢や便秘をよくすることがある
- 肩が凝ったり、背中や腰が痛くなったりすることがよくある
- なかなか疲れが取れない、なにかするとすぐ疲れてしまう
- 気持ちよく起きられない、寝つきが悪い、夜中に目が覚めてしまう
- 最近、体重が減ってきた
- 仕事をする気になれない
- 夢を見ることが多くなってきた
- 人と付き合うのが億劫になってきた
- 以前は気にならなかったようなことで腹が立ったり、イライラしたりしてしまう
このようなサインは、心身のストレス反応です。これらのサインを放置していると、ストレス性の心身症など、治療が必要なレベルに進行してしまう可能性があります。精神的な症状としては「悲しみや憂鬱感、不安やイライラ、緊張感、無力感」などが現れることもあり、これらの精神的・身体的症状が2週間以上続く場合は精神科や心療内科などに早めに相談してみましょう。
また、ストレスによる身体的・精神的な不調には、多くの場合その背後にストレッサー(ストレスの原因)が潜んでいます。例えば、以下のような出来事です。
- 生活上の出来事
- 自分や家族の誰かが病気・怪我・災害などの被災体験をした
- 子どもの進学・夫婦や親子の不和など、家庭内の人間関係の問題が起こった
- ローンや借金、収入減少などの金銭問題が起こった
- 引っ越しや騒音など、住環境の変化があった
- 職場での出来事
- 仕事上の失敗やミスがあって、責任を問われることがあった
- 仕事の量や質、勤務時間などが変化した
- 上司や同僚、部下など、人間関係でのトラブルが起こった
- 昇進や配置転換、転勤など役割や身分の変化があった
多くの場合、ストレスを受けた本人はストレスの原因に気づきにくいものです。精神的・身体的症状からストレスに気づいた場合は、ぜひ自分がどのような体験をしたのか一度考えてみましょう。思い当たることがあれば、家族や職場の上司・同僚、産業保健スタッフなど相談しやすい人に相談し、ストレッサーを取り除くよう働きかけてみると良いでしょう。
おわりに:ストレスとは心身への刺激のこと。悪いストレスには早めの対処を
ストレスとはもともとは物理学用語で、転じて医学・心理学用語として「外部からの刺激によって心や身体に何らかの歪みが生じた状態」を指すようになりました。ストレスには良いストレスと悪いストレスがあり、悪いストレスが心身への悪影響を及ぼします。
悲観的な気分や憂鬱感、不安感などの心の症状、食欲不振や睡眠障害、免疫力の低下などの身体の症状が見られたら、ぜひ早めに精神科や心療内科を受診するのが良いでしょう。
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