甘いものを食べると癒される、と感じる人は多いです。疲れたときに甘いものを食べるとホッとする、疲れが取れるということは体感的によく知られていますが、こうした効果は科学的にも証明されています。
しかし、だからと言って甘いものを食べすぎると肥満や生活習慣病につながったり、余計にイライラしてしまったりする可能性があります。そのメカニズムと対処法について知っておきましょう。
甘いもので癒しを感じたり元気が出るのはなぜ?
疲れたとき、甘いものが欲しくなった経験は誰にでもあることでしょう。このようなとき、脳から「甘いものを摂取せよ」という指令が出ていると考えられます。そもそも「疲れ」とは、エネルギーを消費しすぎて肝臓に貯蔵していたグリコーゲンも底をつき、血中に糖分を補給できなくなったため、血糖値が著しく下がった状態のことです。
ですから、ひどい疲れを治すためには、まず血糖値を正常な状態に戻さなくてはなりません。しかし、一般的な食品では食べてから血糖値が上がるまでに時間がかかってしまいます。その点、砂糖は消化吸収が早いため、素早くブドウ糖と果糖になって血液中に取り込まれ、果糖もやがて全身の筋肉に運ばれてエネルギー源となります。食べて数分で血糖値を上げられるので、砂糖を摂取すると疲れがすぐに回復するのです。
また、砂糖は脳内の神経物質に働きかけてリラックスさせる効果があります。感情を調節する「前頭葉」という部位では、「セロトニン」という神経伝達物質が精神を安定させる役割を果たしていますが、セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれています。実際に、摂食障害・暴力行動・うつ病などの原因として、セロトニン不足が関係しているのではないかと考えられています。
セロトニンの9割は、小腸の粘膜にある細胞内に存在しているとされ、落ち込んだ心を励ましたり、感情の爆発を抑えながら心を穏やかにしたりして、気分を安定させてくれます。さらに、睡眠に関係する「メラトニン」という物質を作るのにも関わっていますので、気分を落ち着かせてくれるだけでなく、夜に眠り朝に目覚めるという1日のサイクルにも影響を及ぼします。
セロトニンは「トリプトファン」というアミノ酸から作られるのですが、ブドウ糖はこのトリプトファンを脳内に優先的に取り込まれるよう働く作用もあります。消化吸収の早い砂糖が素早くブドウ糖となり、吸収されたトリプトファンを脳内に運ぶ助けをしてくれるので、より効率的にセロトニンが作られます。トリプトファンは赤身の肉に含まれますので、肉や魚を食べた後にデザートとして甘いものを食べるとセロトニンの分泌が促進され、幸福感や満足度をアップさせられるのです。
また、セロトニンの増加には血糖値も関係すると考えられています。甘いものやご飯など糖質を摂取すると血糖値が上がり、上がった血糖値を下げるためにインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは上がった血糖値を下げるためのホルモンですが、同時に体内でタンパク質を作る働きもします。
体内でタンパク質が作られるとき、たくさんのアミノ酸が消費されます。すると、相対的に体内でトリプトファンの比率が高まり、トリプトファンから合成されるセロトニンも一時的に増加します。こうして、甘いものを食べると一時的な快楽を感じられるというわけです。しかし、これはあくまで一時的にインスリンの働きでトリプトファンの比率が高まっただけで、根本的な量が増えたわけではありません。
一時的にでもセロトニンが増加することからストレスが多い人や、抑うつ状態にある人が甘いものに依存してしまうことも多いのですが、ストレスや抑うつ状態によってセロトニンが減少している場合、トリプトファンが多く含まれた食べ物を摂取するなどしてそもそものセロトニン分泌を増やさなくてはなりません。甘いものを食べることは、根本的な解決ではないことを意識しておきましょう。
甘いものに頼りすぎるともっとイライラする可能性がある?
甘いもので疲れが取れる、ほっとすることは事実ですが、甘いものに頼りすぎることはさらなるストレスを生む可能性があります。チョコレート・クッキー・ケーキなどの甘いおやつはもちろん、清涼飲料水など砂糖を多く含む食品を摂取すると、血糖値が急激に上がり、その後急激に下がってしまいます。
このように血糖値が乱高下することに加え、甘いものの食べ過ぎで血糖値を下げる「インスリン」が多く分泌されてしまうことで脳が糖分不足に陥り、疲労・イライラ・精神不安などにつながってしまうのです。さらに、そのストレスを解消するために甘いものを食べるという悪循環に陥ると、結局はストレスを解消することができません。
また、砂糖や糖質の摂りすぎは「砂糖依存症」を招く可能性もあります。砂糖は「マイルドドラッグ」とも呼ばれるほど、薬物やアルコール並の中毒性や依存性があるとされていて、健康な人であれば食後のデザート程度の甘いものを口にすれば満足できるものの、砂糖依存症を発症した人は常軌を逸したほど大量に摂取したり、いつでも甘いものを食べていないと落ち着かなくなってしまったりしまいます。
特に、極端なダイエット、妊娠出産、成長期などで身体の栄養バランスが大きく変化しているときは注意が必要です。何らかのきっかけで砂糖を常用するようになり、耐性ができてしまうと、砂糖の摂取をやめたときに禁断症状を引き起こしてしまうかもしれません。
砂糖依存症は、必ずしも甘いもの好きの人だけに起こるとは限りません。糖質はパンやスープなどの加工食品、調味料などにも含まれていて、普段は甘いお菓子を食べないという人でも、無意識に糖質を摂取してしまっている可能性があります。イライラするといつも砂糖を食べてしまうという人は、他のストレス解消法も取り入れていきましょう。
こんな人は要注意!砂糖依存症のセルフチェックをしてみよう!
砂糖依存症は、甘いもの好きが必ずしも発症するわけではなく、逆に甘いものを食べない人でも糖質から発症する可能性があります。例えば、炭水化物過多になりやすいファストフードや惣菜パン、コンビニ弁当、レトルト食品などの食事が多い人は注意が必要です。また、具体的に以下のような症状が出ている場合は砂糖依存症の可能性があります。
- 甘いものを食べていないと落ち着かず、我慢しているとイライラする
- ストレスを感じると、甘いものが食べたくて仕方なくなる
- チョコレートやアメを持ち歩き、ことあるごとに甘いものを食べてしまう
- 妙に疲れやすいが、甘いものを食べると元気になる
- 短時間の労働などでめまいや立ちくらみなどを感じる
他にも、以下のような疲労や抑うつ症状が出る可能性もあります。
- 頭痛がする
- 集中力がない
- 落ち込みやすい
- 怒りっぽい
- 手足が冷える
- 朝、起きるのが辛い
こうした症状は、低血糖やビタミンB1不足によるものだとされています。大量の糖質を摂取すると、摂取した糖質をエネルギーに変えるためにビタミンB1が大量に消費されてしまうため、ビタミンB1不足に陥ることもあるのです。上記のような症状が長期間続くようなら、一度専門の医療機関に相談してみましょう。
甘いものに頼り過ぎないようにするための対処法は?
最初にご紹介したように、ストレスが多い人や抑うつ状態の人が甘いものに依存してしまうケースは多いのですが、砂糖依存症になるほど甘いものを食べてしまうと余計にストレスを溜め込む結果になってしまいます。そこで、まずは砂糖依存症にならないための対策を3つ見ていきましょう。
- 甘いものを身の周りに置かない
- 会社のデスクの引き出し、キッチンの戸棚など、目に入りやすい場所やすぐ手が届く場所にお菓子を置かない
- 通勤の行き帰りや待ち合わせ時など、なんとなくコンビニに寄ってお菓子を買わない
- おやつにはフルーツ、芋、栗などを食べる
- 小腹が空いたり、甘いものが食べたくなったりしたときはフルーツやドライフルーツ、さつま芋、栗などの精製された砂糖が使われていないものを食べる
- 飲み物にはちみつなど、天然由来の甘みをプラスしても良い。食べ過ぎには注意
- ビタミン、ミネラルを豊富に含む食事を心がける
- 玄米、豚肉、野菜を中心としたビタミンB群やミネラルが豊富に含まれる食品を摂取する
- 糖質を代謝するために、消費された栄養素を補うことが重要
また、疲れたときには甘いものを食べることではなく、ゆっくり休むことで疲れをとりましょう。イライラして仕方がない日が続くなら、ウォーキングやストレッチなど身体を動かすのもストレス解消には効果的です。夜更かしをやめて十分な睡眠をとる、食事の時間やバランスを見直す、といった規則正しい生活を心がけることも重要です。
そして、ストレスや抑うつ状態で減少したセロトニンは、以下のような方法で増やすことができます。
- 朝日を浴びる
- ウォーキング、自転車、階段の上り下り、咀嚼などリズミカルな運動をする
- 肉類、赤身魚、バナナ、豆乳、ひまわりの種など、トリプトファンを含む食材を積極的に摂取する
- トリプトファンをセロトニンに変換してくれるビタミンB6、Cを摂取する
- 深呼吸、ヨガ、座禅など意識的に呼吸をする
- 早寝早起きなど、規則正しい生活をする
ただし、抗うつ剤を服用している人や、深刻な肝機能障害がある人、妊娠している人などはトリプトファンの摂取量に制限がありますので、主治医と相談しながら摂取しましょう。また、通常の食事の範囲であればまず問題ありませんが、摂取量の制限がなくても、サプリメントなどによる大量摂取をしないよう注意しましょう。
上記のような対策を行っても、セロトニンが活性化されるまでには少なくとも3ヶ月程度が必要とされています。できることから無理なく始め、焦らず継続していきましょう。
おわりに:甘いものの癒し効果は一時的。他の方法でセロトニンを増やそう
甘いものの癒し効果は決してまやかしではなく、体内で心を安定させる働きをする「セロトニン」を一時的に増やす作用があります。しかし、砂糖や糖質を摂りすぎたり、ストレスを感じるたびに甘いものを摂取したりしていると逆に「砂糖依存症」を招く危険性があります。
砂糖依存症にならないためには、原料となるアミノ酸やビタミンの摂取、呼吸や規則正しい生活でセロトニンを増やしたり、別のストレス解消を行ったりしましょう。
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