水の音を聞いていると、なぜか心が落ち着くと感じる人は多いのではないでしょうか。癒しの音を流してくれるアプリや動画でも水の音を使ったものは多く見られるように、水の音に癒しを感じる人は多いのです。
このように、人間が水の音を聞くことでリラックスできるのはなぜなのでしょうか。水が持つリラックス効果や音の性質に注目しながらご紹介します。
- この記事を読んでわかること
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- 水のリラックス効果の秘密
- 1/fゆらぎと水の関係
- 水の音の癒やし効果を手軽に日常に取り入れる方法
水が持つリラックス効果とは?
水が持つリラックス効果は、主に4つあると考えられます。飲む・聞く・見る・入る、それぞれの効果を見ていきましょう。
- 飲む
- 一般的に、水に含まれるカルシウムやマグネシウムには鎮静作用があるとされる
- 寝つけないときにコップ1杯の水を飲むと、リラックスして寝られる
- 緊張した場面で水を飲むと一息入れられるのも、こうした効果が一因かも
- 聞く
- 小川のせせらぎ、波の音、静かな雨音など、水の音で心が癒される人は多い
- 自然の音に限らず、ししおどしや水琴窟など、水を使った人工の音でも癒し効果あり
- 水の音で涼しさや清潔さなどをイメージし、谷川にいるような爽快感とリラックス効果が得られる
- 見る
- 海や川が近い地域では、ドライブに行ったり川辺に行ったりして気分転換しやすい
- 山奥の滝を見に行ったり、都会の公園で噴水を眺めたりして安らぎを得られる
- 日本庭園に池を作ったり、枯山水を作って水のある庭園に見立てたり、日本では昔から水の癒しを生活に取り入れる工夫をしてきた
- 現代では親水公園が作られたり、川沿いが整備されたりして人と水が触れ合いやすくなっている
- 入る(風呂、温泉)
- 入浴では温熱で皮膚の汗腺が開き、毛穴の汚れが落ちて清潔になる
- 血行が良くなって身体全体が温まり、老廃物が排出されて新陳代謝が高まる
- 42度くらいの熱いお湯は交感神経を刺激して気分を引き締め、38〜40度くらいの温めのお湯は副交感神経を働かせてリラックスを促す効果
- 湯の中ではあらゆる方向から同じ圧力がかかり、手足の先に滞った体液や血液が心臓に戻りやすくなる
- 呼吸機能や心肺機能の働きも活発になり、足のむくみや肩こりが改善されることも
- 温泉の場合、成分による効能や殺菌効果、保湿効果などが得られる
- 病気や怪我の治療、健康増進などにも効果が期待できる
このように、普段はお風呂に入ったりシャワーを浴びたり、飲水として接することの多い水ですが、滝や川、雨などの音を聞いたり、公園や川など景色として眺めたりすると、リラックス効果や爽快感を得る効果が期待できます。
水の音でリラックスできるのはなぜ?
小川のせせらぎや滝の音、波の音など、水が流れたり跳ねたりする音を聴いているとリラックスできるという人は多いです。実際に、スイスのチューリッヒ大学の研究者が科学誌「PLOS ONE」で発表した研究でも、ストレス防止に水の音が役立つことが報告されています。実験は60人の女性を「音楽を聴く」「水の音を聴く」「無音」の3つのグループに分けて行われました。
すると、3つのグループの中で水の音を聴いたグループが最もストレスホルモンが少なかったことがわかりました。このように、水の音にはストレスを和らげたり、防止したりする効果があることがわかります。なお、音楽についてはリラックスできるかどうかはそのジャンルや聴く人の心理状態にも関係するとされ、今回の実験では音楽がストレスを和らげるかどうかについて断定できないとしています。
水の音がなぜ人間をリラックスさせられるのかについては諸説ありますが、さまざまな心理学や科学から以下のようなことが指摘されています。
- 進化心理学
- 人間は、水が周囲にある環境で進化してきた動物だから
- 発達心理学
- 胎児のときに母体内で聴いていた音に似ているから
- 電車で眠くなるのも、同じように母体内で聴いていた音に似ているから
- 感覚知覚心理学
- ホワイトノイズ(すべての周波数で同じ強度となるノイズ)のような効果があるから
- 認知科学
- 感覚の増大(ホワイトノイズ)とニューラルネットワーク(神経回路)が結合しているから
- 行動主義、行動心理学
- 人間は、水の音とリラックスが結びついているという関係性を学習しているから
- その他
- 水の音は一定で、大きな変化がほとんどないことがリラックスにつながるという研究結果も
上記のように、水の音を聴くとリラックスできる理由はさまざまな学問や研究から説明でき、理由は一つに絞りきれないことがわかります。しかし、最後の「一定の音だから」という理由は、雨や滝・波などの水音が「1/fゆらぎ」という特徴を持っていることが関係していると考えられます。「1/fゆらぎ」とは、どんな音のことを指すのでしょうか。
「1/fゆらぎ」でリラックスできるの?
「1/fゆらぎ」とは、自然界に存在する音の多くが持っているリズムの特徴とされ、一見規則的に見える音の中に独特の不規則さがあることを言います。じっと雨の音に耳を傾けていると、均一なようでも強くなったり弱くなったり、数秒の間に細かく変化を繰り返しています。一つ一つの雨粒の大きさの違い、風に吹かれることでの変化、アスファルト・土・草木など雫が落ちる場所による音の違いなどがそのゆらぎを形作っているのです。
「1/fゆらぎ」は外の自然界だけでなく、人間の身体の中にもたくさんあります。心臓の拍動や呼吸、体温の変化、これらもすべて一定のようでいて不規則なゆらぎを持つものです。人間も動物であり、やはり自然の一部と考えると、このように自然の特徴を持っていることや自然の持つ音を心地よく感じるのは、むしろ当然とも言えます。
また、炎のゆらめきや月の光、木漏れ日などもやはり「1/fゆらぎ」のリズムと考えられています。焚き火を見てホッとする人、木漏れ日で安心する人は少なくないのではないでしょうか。波が砂浜に打ち寄せる様子は、視覚的な「1/fゆらぎ」と聴覚的な「1/fゆらぎ」の両方を感じられます。
雨の音でリラックスできるのは他にも理由がある?
雨の音でリラックスできる理由は、他にも以下のような理由があると考えられています。
- 高周波で脳からα波を
- 雨の音をはじめとした自然音には、人の耳では聞こえない高周波が含まれる
- 人の可聴域を超えた高周波(ハイパーソニック)と耳で聞こえる音を一緒に体感すると、身体や心を司る脳機能が活性化される
- ハイパーソニックに触れると脳からα波が発生し、脳がリラックスする
- 水で洗い流されるイメージを持てる
- 雨の音は、水滴が次々に落ちて流れる音なので、水で洗い流されるイメージを持てる
- 鬱屈とした心や疲れなどを洗い流してすっきりした気持ちになれるため、リラックスに適している
α波で脳がリラックスすると、安眠できたり十分な休息をとれたりすることにもつながりますが、逆に脳の集中を活性化する力もあります。人の集中力はリラックスしているときにこそ発揮されると言われていますので、効率よく仕事を進めていく上でも、脳をリラックス状態に導くことは重要なのです。
休憩時間に雨の音を聴き、リラックスした後で再び仕事に臨めば、緊張して筋肉がこわばった状態から解き放たれて集中しやすくなり、仕事の効率アップにもつながるでしょう。雨の音によるリラックス効果は落ち込んだ気持ちを切り替えるのにも役立ちますので、そういった気分転換に利用するのもおすすめです。
波の音でリラックスできるのは他にも理由がある?
波の音は、母親の体内で羊水につかっていたときの音によく似ていると言われています。そのため、波の音を聴くと母体回帰をしたような安心感を覚えてリラックスできるのだと考えられます。海の青さを見ることにもリラックス効果がありますし、波の音や満ち引きの1/fゆらぎと考え合わせても、海でリラックスを感じるのは非常に理にかなっていると言えるでしょう。
こうしてリラックスできると、質の良い睡眠を取れてストレスが緩和され、疲労や体調不良が回復する効果も期待できます。波の音は特に躁状態やパニック状態を落ち着かせるのに効果的とされていますので、気分があまりにもハイでコントロールできなくなったり、気持ちが混乱して何をどうしたらいいのかわからなくなってしまったりしたときにもぴったりです。
心を落ち着けるという意味では、瞑想するときやヨガをするときにも良いでしょう。身の置き所がないと感じるような焦燥感も、穏やかな状態へと落ち着かせてくれるはずです。リラックスや集中が必要なとき、より大きな効果を得られるでしょう。
ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズはどう違うの?
水の音でなぜリラックスできるのかを研究した学問のうち、認知科学や感覚知覚心理学では「ホワイトノイズ」という音を理由に挙げていました。ホワイトノイズとは前章でも書いたように、すべての周波数で同じ強度となる(すべての周波数を均一に含む)ノイズのことであり、安眠を促すとして既にさまざまな製品やアプリ、動画などが開発されています。
また、同じように安眠やリラックスを促す音として、「ピンクノイズ」「ブラウンノイズ」という音も効果的だとされています。これらの音には「ずっと均一な音が流れる」「音のカーテンの役割を果たす」という役割があり、入眠時や睡眠中に雑音を感じにくくなることなどから、睡眠の質が向上し、朝スッキリ起きやすくなるというメリットがあります。
入眠にはオルゴール音やピアノ音などの音楽が有効とする意見もありますが、睡眠中までかけ続けてしまうと雑音と脳に判断され、睡眠の質を低下させてしまう可能性もあります。そのため、オルゴール音やピアノ音は睡眠前のリラックスに使い、睡眠時の「音のカーテン」としてはホワイトノイズやピンクノイズなどを使うのがおすすめです。
では、それぞれの音とどれがいいのかについて詳しく見ていきましょう。
ホワイトノイズってどんな音?
ホワイトノイズは一般的に「テレビ番組がないときの砂嵐の音」「それなりに激しい雨の音」と表現されます。砂嵐とはアナログテレビの時代、テレビ番組が放送されていないときにテレビのスイッチを入れると「ザーッ」と画面に白黒の光が点滅するとともに雨や嵐を連想させるような均一な音が流れていたことに由来します。
これがなぜホワイトノイズと呼ばれるようになったのかというと、ホワイトノイズは「すべての周波数を均一に含む音」だからで、すべての色の波長を含む光が白く見えることにもとづいています。このような特徴を持つホワイトノイズはあらゆる音を吸収する性質があるため、睡眠中の雑音をかき消してくれることから「音のカーテン」とも呼ばれています。
ただし、これは睡眠中に窓の外の音がうるさい、一緒に寝ている人のいびきや歯ぎしりがうるさい、という人に対して有効な方法であり、もともと睡眠中はほぼ無音の環境を作っているという人では、逆にホワイトノイズをかけることで睡眠の質を下げてしまう可能性がありますので注意しましょう。
また、ホワイトノイズは同じ理由で入眠時に音が気になって眠れないという人の悩みも改善してくれます。冷蔵庫や扇風機の音がうるさい、アナログ時計のチクタク音が気になってしまう、足音や車の運転音で目が覚めてしまうというような人は、ぜひホワイトノイズをかけてみてください。
ピンクノイズってどんな音?
ピンクノイズはホワイトノイズよりも優しく、リラックス効果が高い音とされています。ホワイトノイズよりも低音を強調した音で、一般的には「滝壺の音」「優しく包み込まれるような音」と表現されることが多いです。ホワイトノイズと同様、低周波数の音を強調している=長い波長である赤い要素が強い、ということでホワイト+レッド=ピンクノイズと呼ばれています。
ピンクノイズにもホワイトノイズと同様の安眠効果があるとされ、実際に2012年に中国の北京大学で行われた研究でも脳のリラックス効果があると報告されています。この実験では、昼寝と夜間睡眠時、ピンクノイズを聴いたときにどのくらい睡眠中の脳波が安定するのか調べたところ、昼寝では45%以上、夜間睡眠時では23%以上の被験者がピンクノイズによってより落ち着いた脳波になることがわかりました。
さらに、被験者にアンケートをとったところ、75%がより良い睡眠をとれたと答えたそうです。とはいえ、この実験では年齢・性別・周囲の騒音・疲労度合いなどの条件や状況が一切不明なため、絶対にピンクノイズに効果があるとは言いきれません。あくまでも、脳のリラックス効果を高める効果がありそうだ、と捉えておくのが良いでしょう。
ブラウンノイズってどんな音?
ブラウンノイズは別名レッドノイズとも呼ばれ、ピンクノイズよりもさらに低周波の音を強調した音で、3つの中で最も刺激が少ないと感じられます。「日本海の波音」や「波の音を連続したような音」などと表現されます。
ブラウンノイズの「ブラウン」は光の波長から名づけられたものではなく、植物学者のロバート・ブラウンが発見した微粒子の「ブラウン運動」から取られたものです。ブラウンノイズを図に表すと、この「ブラウン運動」の運動パターンに非常に似た形になることから名づけられました。
ブラウンノイズはピンクノイズよりもさらに音が低くて優しい印象が強いため、比較的静かな部屋における脳のリラックス効果が高いと考えられます。ただし、その分ホワイトノイズのように「音のカーテン」として雑音を吸収する性質は低いため、騒音に悩まされて眠れない、起きてしまうといった人の睡眠を改善する力は少ないかもしれません。
ブラウンノイズはホワイトノイズやピンクノイズと比べて睡眠を取り扱った研究が少ないため、効果についてもまだまだこれからの研究が待たれます。
結局、どの音が一番いいの?
ホワイトノイズ・ピンクノイズ・ブラウンノイズはいずれも脳をリラックスさせ、睡眠の質を高める効果が期待できます。とはいえ、それぞれの音によって多少特徴が異なります。具体的には、睡眠の環境によって以下のように使い分けると良いでしょう。
- ホワイトノイズ
- 「音のカーテン」として、入眠時や睡眠時の騒音に悩まされる人におすすめ
- 騒音に悩まされていない場合は、ホワイトノイズが睡眠の質を低下させるリスクもあるため注意
- ピンクノイズ
- 入眠時の騒音を軽減しつつ、睡眠時の脳波を安定させたいという人におすすめ
- 中国の実験で脳波の安定=脳のリラックス効果の可能性が示唆された
- ブラウンノイズ
- 騒音には悩まされていないが、脳をリラックスさせたいという人におすすめ
- 「音のカーテン」としての効果はあまり期待できない
このように分類はしたものの、やはり最も重要なのは自分で実際に聴いて心地よく感じられるかどうかという問題です。また、同じ音だと飽きるという人は、3つの音を使い分けるのも良いでしょう。ぜひ、実際に色々試してみて、自分に合った音を見つけてください。
おわりに:水の音がリラックスに役立つのは、1/fゆらぎやホワイトノイズと関係
水の音でリラックスできる理由はさまざまな学問や研究から考察されていますが、主な理由として1/fゆらぎという特徴を持っていることや、ホワイトノイズと呼ばれる音の特徴に近いことが挙げられます。
このような特徴を持つ音は脳波に働きかけたり、生体リズムに近かったりして脳や身体をリラックスさせる効果を持っています。ピンクノイズやブラウンノイズも睡眠には効果的とされますので、ぜひ好みの音を見つけてみてください。
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