近年、さまざまな研究によって身体的なストレスだけでなく、精神的なストレスも心身に悪影響をもたらすことがわかってきました。そのうちの一つが、生活習慣病などの疾患リスクを上げる高血圧です。
ストレスがかかると血圧が上がってしまうのはなぜなのか、また、どんな種類のストレスが特に高血圧と関係しているのかを中心に、ストレスによる高血圧の予防策も含めてご紹介します。
ストレスで血圧が上がってしまう原因とは?
人間が感じるストレスには、肉体的ストレスと心理的ストレスがあります。
- 肉体的(身体的)ストレス
- 寒さや暑さ・温度などの気象条件、過労、スポーツのしすぎ、緊張、睡眠不足など
- 心理的(精神的)ストレス
- 人間関係や仕事・学業などの悩み、近親者の死、疾患、離婚・別居、怒りや興奮など
このように、人間は生きている限りさまざまなストレスを受けます。古来、前述のような身体的・精神的ストレスとは、大自然の中で暮らしていた人間という動物にとって、何らかの危険を知らせるサインでした。ですから、現代に生きる我々もまた、ストレスを感じると戦ったり逃げたりするために精神的・身体的な準備を始めるのです。
ストレスを受けると、脳の視床下部や脳下垂体(脳下垂体の前葉)から「副腎皮質ホルモン」が分泌され、その刺激を受けて、副腎からは「アドレナリン」、神経の末端からは「ノルアドレナリン」が分泌されます。アドレナリンは興奮したときに多く分泌されて心拍数を高める働きがあり、ノルアドレナリンは自律神経のうち活動を司る「交感神経」を刺激して血管を収縮させます。
これらの働きは、いずれも外部からのストレス刺激に対抗しようとする身体の防御反応なのですが、結果的に心臓からは多くの血液が送り出され、血管が収縮するため、血圧を上昇させることにつながります。
一方、身体の中ではストレスによる緊張状態を和らげるため、副腎ホルモンを分解する酵素(アミノ酸化酵素)が分泌されます。副腎ホルモンは分泌される過程でも、分解される過程でも活性酸素を多く発生させることがわかっています。活性酸素は「酸化ストレス」によって細胞を変質させたり、がんや動脈硬化などの疾患を引き起こしたりします。
最近の研究によると、活性酸素によって人間の身体が受ける「酸化ストレス」も高血圧の要因となることがわかってきました。人間の身体は酸化ストレスに対抗する「抗酸化作用」を持っていますが、酸化ストレスの大きさが抗酸化作用を超えると、身体がダメージを受けます。つまり、酸化ストレスが大きければ大きいほど身体が受けるダメージも大きくなり、血圧はもちろんインスリン抵抗性にも影響したりします。
緊張すると血圧が上昇する「白衣高血圧」って?
緊張もストレスの一つなので、血圧を上げる要因になります。よく知られているものに「白衣高血圧」があり、病院で血圧測定をするとき、医師や看護師の白衣を見ることで緊張してしまい、それがストレスとなって血圧が上がり、測定値がやや高くなる現象を指します。そのため、病院で測る血圧は、一般的に家庭で測定する血圧より高くなりやすい傾向があります。
ただし、人によっては反対に、病院で血圧を測定した方が低い場合もあります。これは、医師に診てもらうことが安心感となり、逆に緊張がほぐれるタイプの人に見られます。また、最近話題となっている「仮面高血圧」は、昼間病院で測定すると正常血圧なのに、家庭で測定すると高血圧になるタイプです。
このように、状況や時間帯によって血圧が変化することがありますので、高血圧かどうかの正確な診断のためには、家庭で時間帯を変えたり、状況を変えたりしながらある程度の期間測定したデータが必要です。
ストレスによる血圧上昇が怖いのは、脳卒中や心筋梗塞など、生命に関わる疾患の引き金となることです。例えば、スポーツ中の発作はよく知られており、ゴルフのパットやティーショットなどのときに発作を起こすケースが目立ちます。これは、緊張して息を詰めるとき、血圧が急激に上がるからです。
冬の早朝ゴルフなどの場合、寒さで全身の血管が収縮すること(気温差によるストレス)も影響しています。このようにストレスは血圧の上昇と深い関係がありますので、血圧が高めの人は食事に気を使うとともに、身体的・精神的ストレスについても気をつけておきましょう。
どんなストレスが高血圧と関係しているの?
前述のように、ストレスにはさまざまなものがあります。中でも、特に高血圧と密接な関係にあるストレスとは、「緊張状態をもたらすストレス」と言えます。怒りや不安、驚きなど感情の急激な変化による精神的なストレス、力をこめたり外気温が急激に変化したりする身体的なストレスなどが高血圧と強く関係すると考えられます。
現代社会はストレス社会とも呼ばれ、日常生活において精神的なストレスを感じることが多いとされています。こうしたストレス環境下で血圧を測ったとき、正常値より高い場合は「昼間高血圧(ストレス下高血圧)」と呼ばれ、やはり通常の血圧測定では発見しにくい「仮面高血圧」の一種と考えられています。
ストレスを感じやすい環境は人によってさまざまですが、多くの人がストレスを感じやすい状況といえばやはり仕事中でしょう。仕事中に現れる昼間高血圧については「職場高血圧」という別の名前がつけられているほど代表的なもので、肥満の人や、両親・兄弟などに高血圧の人がいるという人に多い傾向があるとわかっています。
他にも、緊張状態を引き起こすストレス要因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 寒暖差のストレス
- 寒いときは血管が収縮し、血圧が上がる
- 身体が温まると、血管が拡張して血圧が下がる
- 環境の変化
- 身近な人の死、疾患、離婚、別居、引っ越し、天災、事故、失業など
- 結婚、出産、入職、転職、昇進など嬉しい変化もストレスになることがある
- 緊張状態になりやすい性格
- 緊張状態になりやすいと、交感神経が優位になりやすいので、血圧が上がりやすい
- 完璧主義、競争心が強い、早く結果を出そうとする、いつも忙しい、早口、早足、早食いなど
- 不安が強い性格も、精神的ストレスを感じやすく血圧を上昇させやすい
ストレスというと悪いことばかりを連想しがちですが、結婚や就職、昇進など良いことであっても、環境や責任が大きく変化することでストレスになることもあります。
ストレスによる高血圧の予防対策とは?
ストレスによる血圧上昇を防ぐためには、そもそも自分がストレスを感じているかどうかに気づく必要があります。特に、真面目な人や緊張状態に陥りやすい人ほど、なかなか自分自身のストレスに気づきにくいものです。以下のような症状が出ていると感じたら、ストレスを感じていないか、思い当たるストレスがないか考えてみましょう。
- 眠れなくなった
- なかなか寝つけなくなったり、夜中に何度も目を覚ましてしまったりする
- 風邪を引きやすい
- 免疫力が低下し、風邪を引きやすくなる
- 湿疹などの肌荒れ、原因不明の咳や鼻炎などが起こる
- 胃痛・腹痛が起こる
- 胃や腸はストレスの影響を受けやすく、消化不良や胃痛・腹痛を起こしやすい
- 急な下痢や便秘も、何らかの消化管異常と考えられるので要注意
- 頭痛・肩こりが多い
- ストレスは身体の筋肉の緊張も高めるので、血液の流れが悪くなる
- 緊張性の頭痛や肩こりを引き起こしやすくなる
高血圧を引き起こすストレスに気づくための方法として、家庭血圧の変化をチェックするという方法もあります。家庭血圧は原則として、朝起きた時や就寝前などに安静状態で測定するのですが、これが普段と異なり大きく上昇している場合は、何らかのストレスを受けている可能性が考えられます。
上記のような症状はないか、疲れていないか、職場や家庭などで揉めごとや悩みはないか、不安に感じていることはないかといったように、家庭血圧の変化は自分のストレスに気づく良いきっかけとなります。ストレスを感じていることに気づいたら、まずは以下のポイントを中心に、ストレスの解消を心がけましょう。
- 睡眠前・入浴の時間を大切にする
- 睡眠と入浴は、心身のストレスを解消し、免疫力を高める基本
- ストレスがあると脳の緊張状態が続くので、不眠や中途覚醒などの症状がよく見られる
- 無理に眠ろうと意識せず、眠くなるまで好きな本を読んだり、音楽を聴いたりして脳をリラックスさせよう
- ベッドに入る30〜1時間前に、ぬるめのお湯につかるとリラックスでき、眠りやすくなる
- 音楽を聴いたり、歌ったりしながら入浴の時間を楽しむのもおすすめ
- ※入浴時、熱いお湯につかると血圧を急激に変動させるため注意
- ※寝る前の時間に飲酒・喫煙・考え事は眠りを浅くし、不眠を悪化させるため避ける
- 適度の運動を習慣づける
- 適度の運動は身体の緊張をほぐし、気分転換ができてストレス解消になる
- 血圧を下げるタウリン・プロスタグランジンEなどを増やし、血圧を上げるカテコールアミンなどを減らす
- コレステロール値を下げ、動脈硬化を防ぐので、急激なストレスによる脳卒中や心筋梗塞などの予防にもつながる
- ※既に高血圧の治療を受けている場合は、運動を始める前に医師に相談する
- 抗酸化力を高める食事を摂る
- ストレスを受けると副腎ホルモンなどの分泌が盛んになるため、タンパク質・ビタミンB群・ビタミンCなどが大量に消費される
- 胃や腸に負担を与えないよう量には注意しながら、肉や魚など良質のタンパク質と、野菜などのビタミン類をしっかり摂取する(忙しいときは野菜ジュースやサプリの利用もOK)
- 活性酸素に対抗するため、抗酸化ビタミン(C、E、β-カロテンなど)が不足しないようにも注意
- カルシウムは脳の緊張を落ち着かせる働きがあるため、牛乳や小魚類もしっかり摂取する
ここで注意したいのは、運動はあくまでも適度に行うことが重要だということです。勝負や順位、記録などを競い合うタイプの運動はやりすぎてしまい、かえって血圧を上げやすいので控えましょう。食事の1時間後くらいに、景色を眺めながら散歩やウォーキングを楽しむ、といった軽めの運動がおすすめです。
ただし、自分なりの目標を作るのはおすすめです。無理のない目標を一歩一歩達成していくと楽しみや達成感の喜びが生まれますので、ストレス解消効果も高まります。あくまでも血圧をコントロールするためのストレス解消と、身体づくりが目的であることを忘れず、無理のない運動を続けていきましょう。
ついつい忘れやすい「環境ストレス」に注意!
ストレスというと、心理的なイヤなことというイメージが強いため、ついつい忘れがちなのが寒暖差などの環境的なストレス要因による血圧上昇です。特に、冬に心疾患や血管疾患(脳卒中や心筋梗塞などを含む)が多く見られるのは、こうした寒暖差ストレスによる血圧上昇がリスク要因だと考えられています。
そこで、まずは家の中での温度差や、家から外に出るときの温度差に注意しましょう。部屋から廊下に出るときや、湯船につかるときなどは家の中でも温度変化が特に大きいので、身体に影響しないよう、衣類やヒーター、かけ湯などで調整が必要です。
- 家の中での温度差対策
- 家の中の温度をなるべく一定に保つ(寒いところには暖房器具を置くなど)
- トイレが寒くなりやすいので、暖房器具や電気式便座を取りつける
- トイレの電灯を1日中つけっぱなしにしておくのも、ほんのり温かくなる
- 外出時の温度差対策
- 暖房の効いた室内と寒い戸外の温度差を減らす
- 部屋を温めすぎないよう気をつける
- 外出時には上着を羽織り、できるだけ肌(特に「首」の部分)の露出を少なくする
また、朝起きるときにも自律神経が副交感神経から交感神経へと切り替わることで、血圧が上昇しやすいので注意が必要です。そこで、起き上がる前に布団の中で深呼吸し、交感神経が一気に活性化して血圧が上昇するのを防ぐと良いでしょう。このときの深呼吸は、お腹が膨らんだり凹んだりする「腹式呼吸」を行います。この方法は白衣高血圧の人にも有効なので、病院で診察を受ける前に深呼吸をするのも良いでしょう。
ストレスによる血圧上昇、高齢者とメタボの人は要注意
ストレスによる血圧上昇が特に疾患リスクを高めるのは、高齢者とメタボリックシンドロームの人です。高齢者は血圧を下げるシステムがどうしても即時的に働きにくくなっているため、軽いストレスでも血圧の変動が起こりやすく、環境ストレスをつい忘れてしまいやすいので注意が必要です。
特に、災害や家族関係の変化、転居など環境の変化が大きなストレスになりますので、血圧が大きく変化しやすいです。家族に高齢者がいる場合、こうした大きな変化が起こるときはできるだけリラックスできる時間や環境を用意するよう心がけましょう。
メタボリックシンドロームは生活習慣病のリスク因子としてよく知られていますが、動脈硬化の危険因子が複数あって血圧にも影響を与えやすいのです。日頃から無理のない軽めの有酸素運動を習慣づけるとともに、定期的な血圧測定による血圧管理や塩分を控えた食事などに気をつけましょう。
仕事中、運転中はストレスが溜まりやすい
職場高血圧という言葉をご紹介しましたが、実際に東京都老人医療センターの桑島巌副院長らの調査によれば、健康診断では正常血圧だった人で、仕事中は高血圧(収縮期血圧:140mmHg以上、拡張期血圧:90mmHg以上)となる人が36%もいたと報告されています。調査対象の平均年齢は40歳であり、こうした一時的な高血圧の原因は仕事のストレスだと考えられます。
特に、いわゆる真面目人間は仕事中に血圧が上がりやすい傾向にありますので、「責任感が強い」「忍耐力がある」「完璧主義」などに心当たりがある人は、職場高血圧に注意しましょう。例えば、身体がつらいときは会議中にトイレに行くふりで外気に当たったり、少し歩いたり、軽く身体を伸ばす体操をしたりしても良いのです。
また、自分の席で深呼吸したり、人にぶつからないように足を伸ばしたりしても良いでしょう。頭が疲れたら、「次の休日にはなにをしようかな」と、仕事以外の楽しいことを考えても構いません。もちろん、休憩してばかりでは仕事になりませんが、普段真面目な人がごく短い間休憩するのに支障はないはずです。
同じように、運転中も気が抜けずストレスを感じやすい傾向にあります。常に視界や操作に気を配っているので、神経がずっと緊張状態になり、脈拍数が増え、血圧が上がってしまいます。しかも、混雑や渋滞が多くより神経をすり減らしやすい都市部を運転している方が、農村部を運転しているときより約20%脈拍数が増えやすいという報告もあります。
こうした理由から、都市部ではできるだけマイカー通勤を避け、近くなら歩いて通勤したり、公共交通機関を上手に使ったりするのが良いでしょう。また、電車やバスの遅れでイライラしないよう、時間に余裕を持った通勤を心がけましょう。
高血圧の人は、何か熱中できる趣味を持った方が良いとされています。特に、見る・聞く・触れるといった五感を使った楽しみを持つと、交感神経の興奮が静まり、血圧を下げやすくなります。日頃溜まりやすい精神的なストレスも、趣味に没頭することで解消しやすくなりますので、ぜひ自分の好きなこと、興味があることを趣味にしてみましょう。
おわりに:ストレスで緊張すると血圧が上がる。環境や仕事中などに要注意
ストレスで緊張したり、酸化ストレスが増えたりすると血圧が上がってしまいます。特に冬の寒暖差は血圧上昇による心疾患や血管疾患のリスクを高めます。他にも、職場高血圧などストレスを感じる環境下での高血圧にも注意しましょう。
冬には暖房器具や衣類、お風呂に入る前のかけ湯などで急激な温度変化を避けたり、仕事中に適度にストレッチをして身体の緊張を解したりすると良いでしょう。熱中できる趣味を持つことも大切です。
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