肩こりや頭痛に悩む人は多く、たいていは筋肉の緊張によるものです。また、歯の痛みはつい甘いものの食べすぎによる虫歯かと思ってしまいがちですが、ストレスからくる歯ぎしりでこれらの痛みが生じることもあります。
今回は、こうしたストレスによる歯ぎしりが起こる理由やその対処法についてご紹介します。原因のわからない痛みに悩んでいる方は、ぜひチェックしてください。
- この記事を読んでわかること
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- 歯ぎしりの種類とメカニズム
- 歯ぎしりとストレスの関係性
- 歯ぎしりで起こる心身の不調
- 歯ぎしりの治し方
- 歯ぎしりのセルフチェック
歯ぎしりって?どんな種類があるの?
歯ぎしりとは別名「口腔内悪習慣(ブラキシズム)」とも呼ばれ、歯をこすり合わせたり、過度に歯を噛みしめたりする動作のことを指します。無意識のうちに行っているため、本人は気づいていないことも多く、眠っているときに歯ぎしりをして一緒に寝ている人や一緒に暮らしている人から指摘されて初めて気づくケースが多いです。これは、歯を噛みしめている力が強い場合、歯ぎしりをしたときに周囲に音が聞こえるためです。
とはいえ、歯ぎしりそのものは症状の程度に個人差はあるものの、ほとんどの人がやっているのです。しかし周囲に聞こえるほど強く行っている場合、歯ぎしりを放置していると歯が削れたり、歯が変形したり、睡眠時無呼吸症候群の原因になったりすることがあります。つまり、歯ぎしりが原因で他の疾患や歯のトラブルを引き起こす可能性もあるのです。
自分は歯ぎしりなんてしていない、と思っている人も、冷たいものを食べたときに歯に染みる、食べ物を噛んだときに痛いと感じる、といったことが多い場合は注意が必要です。気づかないうちに歯ぎしりをしていて、歯が消耗されたり傷ついたりしている可能性があります。最近では眠っているときのいびきなどを録音できるアプリもありますので、気になる人はぜひ試してみましょう。
また、一口に歯ぎしりと言ってもそのタイプによって、大きく以下の3種類に分けられます。
- グラインディング
- ギリギリと上下の歯をこすり合わせるタイプで、最も多くの人がしている歯ぎしり
- ギリギリと音が聞こえるのが特徴で、ほとんどの人が無意識に行っている
- 歯や顎、顎関節などに大きな圧力がかかるため、症状が悪化すると歯や顎にも影響が及ぶことも
- クレンチング
- 上下の歯を強く噛みしめるタイプで、大きなストレスなどがあるときにしやすい
- グラインディングとは異なり、音がしないのが特徴
- 無意識に歯を食いしばってしまうため、知らない間に歯を削ってしまったり、肩こりを感じたりする
- 顎のエラの部分に痛みを感じたり、上下の歯の噛み合わせ面がすり減っていたりしたらクレンチングの可能性が高い
- タッピング
- 上下の歯を合わせてカチカチ鳴らすタイプで、リズミカルにカチカチ音が鳴るのが特徴
- グラインディングとは音の種類が異なるため、聞き分けられる
- 一緒に眠っている人は、この音を聞いても何の音かわからず驚く人も多い
- 他2つと比べて顎や歯などへの影響は少ないが、ストレスや噛み合わせなど思いつく原因があれば改善を
このように、歯ぎしりをしていると知らない間に歯や顎に悪影響が及んでしまいます。しかも、眠っているときに無意識に歯ぎしりを繰り返している場合、熟睡できず不眠の原因になってしまいます。眠っているときに歯を噛みしめたり、歯ぎしりを繰り返したりしてしまうことを「睡眠時ブラキシズム」と言います。
眠っているときにする歯ぎしりの場合、無意識に行うことから起きているときと比べて抑制がきかず、歯や顎に大きな負担がかかってしまいやすいのです。ですから、セラミックスなどの素材を差し歯や歯の治療などに使っている人は注意しなくてはなりません。セラミックスは天然の歯や金属の歯に比べて脆いため、寝ている間に破損する恐れがあるからです。
睡眠時ブラキシズムはレム睡眠(浅い眠り)のときに起こりやすいため、起きている間に良くない生活習慣や寝室の環境を変え、睡眠の質を高めて熟睡できるような工夫をしておけば、深い眠りであるノンレム睡眠により、眠っている間の歯ぎしりを抑えやすいでしょう。
また、眠っている間の呼吸が止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」も、呼吸をしていないときに歯ぎしりをするのが特徴です。そのため、睡眠時無呼吸症候群を発症している人はまずこの疾患を改善するのに努めましょう。
歯ぎしりの原因とは?ストレスが引き起こすのはなぜ?
歯ぎしりの原因として考えられているのは、主に以下の4つです。
- ストレス
- 圧倒的に多いタイプ
- 習慣
- スポーツ選手等で、瞬発的に力を出すような職業に就いている人に多い
- 歯ぎしりが習慣化してしまっている
- 噛み合わせ、骨格
- 噛み合わせの異常、顎の変異、金属製の詰め物が骨や歯に合っていないなど
- 子どもに特有の要因
- 永久歯と乳歯の入れ替え時期に起こる不快感などが原因。入れ替わりが終われば治まる
ここからもわかるように、圧倒的に多い要因としてストレスが挙げられます。日常的なストレスからは誰もが逃れられないように、ストレスは「適度な緊張感」というレベルであれば、人のやる気を引き出したり活力を与えたりする良い効果ももたらすのですが、過度なストレスが続くと心身にさまざまな悪影響が生じます。
気管支喘息、高血圧症、胃潰瘍、糖尿病、蕁麻疹、突発性難聴、うつ病など、ストレスが直接的な原因となる疾患には枚挙にいとまがありません。ストレスが疾患を引き起こす仕組みをざっくりと表すと、以下のような順番になります。
- ストレスを感じる出来事が起こる
- 脳や体が危険を感じ、血圧や血糖値を上げて、戦闘態勢に入る
- 戦闘態勢が長時間続くと、本来の血圧や血糖値を安定させる機能が低下する
- 不眠や慢性的な疲労、免疫力の低下など、心身ともに大きなダメージを受ける
人間の体には通常、血圧や血糖値などを正常に保つための仕組みとして「ホメオスタシス(恒常性)」と呼ばれるものが備わっています。しかし、過度なストレスがかかり続けると、常に臨戦態勢でいなくてはならないため、このホメオスタシスが壊れてしまうのです。ホメオスタシスが壊れると、それを修復しようと「アロスタシス(環境適応)」という仕組みが働き始めます。
アロスタシスとは、ストレスが原因で起きたホメオスタシスの乱れを、あえてエネルギーを使って安定させようとする働きです。「適応」という言葉が使われていますが、例えばマラソン選手がトレーニングをすることで一般的な人よりも長く走れるように心肺機能が変化する、といったことを指しています。
このように、外部からの身体的・精神的なストレス刺激によって体の機能を変化させ、体の恒常性を保とうとする機能が「アロスタシス」です。アロスタシスは前述のマラソン選手のように良い変化ばかりとは限らず、ストレスが溜まったときに思わず怒鳴りたくなったり、ものに八つ当たりしたくなったり、大声で泣きたくなったりするのもアロスタシスの一種と考えられます。
つまり、歯ぎしりは外部からのストレス要因に対して適応しようとする「アロスタシス」の一種ではないかとも考えられるのです。人間の口は、通常「言葉を発する」「食物を咀嚼し、飲み込む」「鼻の代わりに呼吸をする」などの役割を担っていますが、太古の昔に失われた機能として「攻撃する」というものもあります。
歯ぎしりはこの「攻撃する」という口の機能を使い、エネルギーを解放するための行動なのではないかという仮説が立てられるのです。実際に、格闘技で禁じられている危険な技として「陰嚢を攻撃する」「目を攻撃する」という他に「噛みつくこと」が挙げられているのも、口が強力な武器であることの証明なのではないでしょうか。
ですから、やはり単に歯ぎしりだけを治そうとしても、かえってアロスタシスを停止させてしまい、ストレスを上手く処理できないままストレス性の疾患を発症してしまう可能性もあります。毎日のストレスから完全に逃れることはできなくても、まずはストレスという根本的な原因を解決しなくてはならないのです。
歯ぎしりはマウスピースで治せる?
前述のように、歯ぎしりを治すためには根本的な原因であるストレスを緩和する必要があります。とはいえ、ストレスの原因を探したり、解決したりしている間にも歯ぎしりは続き、歯や顎に悪影響を及ぼしてしまうことも考えられます。例えば、以下のような障害が起きてしまう可能性もあるのです。
- 歯
- 摩耗、破折、染みる、噛むと痛いなど
- 歯周組織
- 歯肉炎、歯周疾患(歯周炎=歯槽膿漏)
- 顎関節
- 顎関節痛、開口障害、カックン音など
- 全身
- 顔面痛、頭痛、肩こり、腕のしびれ、腰痛など
- その他
- 舌痛症(舌に痛みが生じる)、むちうち症状、倦怠感など
言葉を発することも食事をすることも毎日必ず行う行為であり、したがって口に何らかの異常が生じるとQOL(生活の質)が大幅に低下してしまうことが問題です。歯ぎしりの噛む力は、自分の体重の2〜5倍にもなるとされています。小柄な女性のように体重が軽い人であっても、100kg以上の力が毎日歯や顎にかかってしまう場合もあるというわけです。
ですから、歯や顎に障害が起こる前に、まず睡眠時専用のマウスピースなどを用いて歯ぎしりを緩和しましょう。睡眠時専用のマウスピースは市販されているものもありますが、できれば歯科医を受診して自分の歯や顎に合ったマウスピースを作ってもらいましょう。健康保険が適用されますので、だいたい4,000〜5,000円で作ることができます。
歯ぎしりに気づくために気をつけるサインや症状は?
歯ぎしりが寝ている間だけに起きている場合、本人は気づきにくいものです。一緒に寝ている人が気づければ指摘してもらうこともできますが、そうでなくても以下のような症状があれば、歯ぎしりをしている可能性があると考えて良いでしょう。
- 朝起きたとき、奥歯が痛い
- 朝起きたとき、口の周りが強張っている
- 朝起きたとき、顎が痛い。または疲れている
- 慢性的な頭痛や肩こりがある
- 歯が欠けたり、割れたりしたことがある
- 頬の内側に、噛んだ跡が残っている
- 昼間に集中しているとき、無意識に歯を食いしばる癖がある
- 歯槽骨にこぶのような骨隆起(外骨症)がある
- 歯の付け根が欠けている、または割れている
- 歯の噛み合わせ面が、かなりすり減っている
- 虫歯でもないのに、歯が染みる(知覚過敏)
また、歯の詰め物が一般的な人と比べて取れやすいという場合も、歯ぎしりをしていると考えられます。思い当たる症状があれば、早めに歯科医に相談してみましょう。
おわりに:歯ぎしりはストレスに適応しようとする反応かも。早めの対処を
歯ぎしりは人間誰しも行っているものではありますが、それが顎や歯に深刻な悪影響を及ぼすほどとなれば、放置しておくわけにはいきません。まずは、原因として圧倒的に多い「ストレス」を根本的に解決する必要があります。
また、すぐにできる歯ぎしり緩和対策としてマウスピースの装着が挙げられます。根本的な原因であるストレスが解決できるまでは、マウスピースを用いて顎や歯への影響を少しでも和らげておきましょう。
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