マッサージを受けると癒されると感じる人は多いです。身体面でも緊張していた筋肉がほぐれたり、血行が良くなったりしたと感じることも多いのではないでしょうか。マッサージがもたらすこのような癒し効果には、科学的な根拠があるのでしょうか。
今回は、マッサージの効果とその科学的な根拠、効果をより高めるためにできる対策についてご紹介します。
マッサージにはどんな効果があるの?
マッサージは、一般的に静脈やリンパの流れを良くする目的で行われます。美容のためだけでなく、最近では医療現場やスポーツの前後にも行われるようになりました。マッサージの効果としてよく知られるものには、以下のような効果があります。
- 血流を良くする
- リンパの滞りを改善する
- 筋肉の緊張をほぐす
- 筋肉痛を和らげる
- 便通を良くする
- リラックス効果
- 心の緊張をほぐす
- 一時的な疲労を和らげる
マッサージによってこのような効果が引き出されるのは、身体にさまざまな「刺激を受け取るためのセンサー」があるからです。
- 触圧覚:皮膚や真皮などの表層部に存在する受容器
- 筋紡錘・ゴルジ腱器官:筋肉の長さや張力を感知する受容器
こうしたセンサーが受け取った情報は、神経を介して脳に伝えられ、身体が起こす反応も変わってきます。同じ「触れる」という行動をしても、情報の受け取り方が異なるのはこのように一度脳を介するためで、例えば街中で突然知らない人に腕を掴まれたら驚きますし、身体は拒絶するように反応しますが、信頼できる人にマッサージしてもらうのは心地よいと感じます。
身体のセンサーは上記のように皮膚と筋肉に多く存在しますが、特に皮膚に存在するセンサーは少しの刺激で身体を変化させられます。これを利用した「触圧覚刺激法」というテクニックは、リハビリテーションの専門家である理学療法士を中心に行われるケア方法です。例えば、ある研究によると、ある部位に触圧覚刺激を与えることで、関節の可動域が広がること、その反応は平均20時間程度続いたことが報告されています。
この報告からわかるのは、直接触れて圧を与えることで、一定時間筋肉の緊張が和らぐということです。この実験によれば、その強さは「沈み込みを感じる程度の圧」とされていて、それほど強い力ではないことがわかります。ぎゅうぎゅうと力を込めなくても、筋肉に触れてセンサーに働きかければ十分に効果は期待できるということです。
皮膚の表皮の内側、真皮や筋膜・被包筋膜などの皮下組織には「自由神経終末、メルケル細胞、パチニ小体、ルフィニ小体、マイスナー小体」などのセンサーが多数存在しています。前述の触圧覚刺激法のほか、深部リンパマッサージなどでこうした受容器に働きかけると、関節組織の内圧を減少させ、可動域の向上に有効であるという研究報告もあります。これは、関節内部にリンパ液が滞って内圧が上がると、柔軟性が損なわれるためだと考えられます。
スポーツの現場では、有資格者トレーナーによって「スポーツマッサージ」が行われています。例えば、競技開始前には3〜5分間の短時間、比較的早いテンポで軽擦(さすること)や揉捻(こねるように揉むこと)を行って筋肉を興奮させたり、競技後にはゆっくりと時間をかけてマッサージを行い、筋肉の緊張や精神的興奮を鎮静させたりと使い分けられています。アマチュアのみならず、一流アスリートのコンディショニングにも用いられる方法です。
また、母親が赤ちゃんに対して行う「ベビーマッサージ」の研究では、母親が生後3ヶ月の赤ちゃんに1ヶ月間、毎日ベビーマッサージを行った後、母親の心理的ストレスが軽減したという報告があります。つまり、マッサージはされる側だけでなく、する側にも心のリラックス効果が期待できると考えられます。
マッサージをすることで、逆に身体の状態に気づけることもあります。例えば、足つぼマッサージを行ったときに痛みを感じる場所で、疲労が溜まっている部位がわかったり、病気の予兆がわかったりすることがあります。このように、マッサージによって疲労具合や身体の不調、臓器の健康状態やむくみなどに気づけるかもしれません。
前回マッサージしたときには痛みを感じなかった場所でも、今回は痛みを感じるという場合、疲労や不調が溜まっている可能性があります。自分の身体の状態をチェックするのにも、マッサージは大切なのです。
マッサージで癒されるのはなぜ?
マッサージによって、心にも以下のような良い効果がもたらされます。
- リラックス効果
- マッサージで血流やリンパが改善されると、筋肉がほぐれ身体が温まり、脳のストレスも解消されて深いリラックスに
- 忙しく生活していると、どうしても緊張が溜まりやすい
- マッサージを受けることで、身体の緊張をほぐしてリラックスする効果が得られる
- ストレス解消効果
- ストレスがかかると抗ストレスホルモン「コルチゾール」の分泌が増えるが、マッサージを受けるとコルチゾールの値が下がる
- マッサージで肌表面を撫でさすることで、癒しホルモンや幸せホルモンの分泌が高まる
- 不安なとき、親しい人から優しく背中を撫でてもらうととても安心できたりするのは、こうした癒し効果によるもの
- 安眠効果
- マッサージによって自律神経のバランスが良くなれば、自律神経の乱れによる不眠なども解消されやすくなる
- 適切な睡眠時間は人によってさまざまだが、寝つけない、途中で起きてしまうといった場合は注意が必要
このように、マッサージを受けるとリラックスしたりストレスが軽減されたり、十分な睡眠がとれたりして仕事にも人間関係にも良い影響が期待できます。こうした良い効果が期待できるのは、マッサージによって以下のような神経伝達物質(ホルモン)が分泌されるからだと考えられています。
- セロトニン
- 別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、幸福感や安心感といった心のバランスを整えて安らぎを与えてくれる
- 健康的な食欲や睡眠にも関係し、痛みを緩和したり、体内時計を調節したりする働きも
- マッサージなどで肌が触れ合うほか、成功体験や楽しい思い出、太陽の光などによっても分泌が促される
- ドーパミン
- 喜び・快楽・やる気・学習能力・運動能力などを司る「報酬系」のホルモン
- 何かを達成した記憶や、気持ち良いという感情に伴って分泌され、快楽という「報酬」から「意欲(モチベーション、やる気)」を作るホルモン
- 不快感であるストレスを打ち消す働きがある
- オキシトシン
- 別名「愛情ホルモン(癒しホルモン)」とも呼ばれ、他者への信頼や関わりへの興味を高めてくれる
- 体温の上昇、美肌、記憶力の回復などにも効果が期待できる
- 人と人の身体的な接触やボディタッチで分泌され、代表的な例は赤ちゃんと母親
これらの神経伝達物質は、メンタルをポジティブに保ったり、幸福感を感じたり、健康的な生活を送るための重要なカギでもあります。不足してしまうと、緊張・不安・寝つきが悪くなる・イライラしやすくなる・肩こりや集中力が欠ける・感情的になりやすくなるなどの状態に陥ってしまうこともあるからです。
マッサージの効果を高めるためにできる対策は?
マッサージは、特別な準備をせずに受けても一定の効果が期待できるものではありますが、できれば以下のようなことを心がけるとより効果を高められると考えられます。もちろん、全部を一度に行わなくても、できることだけで構いません。いくつか組み合わせて実行すると、より効果アップを実感できるでしょう。
- 施術の前後は、水分をたくさん摂る
- 水分を多めに摂取することで、老廃物が体外に排出されやすくなる
- ジュースやお茶などの飲料でなく、できれば常温の水で。寒い季節には白湯やハーブティーもおすすめ
- 栄養バランスの整った食事
- マッサージ後は、野菜・果物・肉・魚・炭水化物などのバランスが取れた食事を摂取する
- ジャンクフードや脂っこい食べ物などを避ける
- 湯船につかるなどして、身体を温める
- マッサージ効果でも身体が温かくなるが、できればシャワーで済ませず、湯船につかると良い
- 老廃物の排出が促され、リラックス効果も高まるので、ぐっすり眠りやすくなる
- ただし、マッサージ当日は温めた身体が冷めていくときに筋肉が緊張してしまうことから、熱い湯にしっかりつかるのは避けた方が良い
- 施術後は早めに就寝する
- マッサージ後はできるだけ早く家に帰り、早めに寝床に入って疲労回復を促す
- 遊びの予定を入れないことはもちろん、血行が良くなって酔いが回りやすくなっているので、アルコール類を飲まないよう注意する
- 定期的にマッサージを継続する
- 1回のマッサージで効果を感じることはあるものの、体質の改善はすぐにできない
- 特に、ストレスの強い生活を続けていると1回の施術ではすぐ元に戻ってしまう
- 定期的に施術を受け、根本的に体質改善を行うのがおすすめ
マッサージや整体は何時ごろ受けると効果的なの?
マッサージや整体を受けるにあたり、ベストな時間帯というのは一概に決められませんが、人間の生体リズムの特徴から適した時間を推測することはできます。これは、人間の身体に太陽の動きと連動した「サーカディアンリズム(概日リズム、体内時計)」が存在するため、1日のうちで最も体調が良くなる時間帯や、一番リラックスできる時間帯がだいたい決まっているからです。
サーカディアンリズムとは、地球の自転周期に合った約24時間周期の体内リズムのことで、朝日がのぼると血圧・心拍数が上がりはじめ、昼に血中ヘモグロビン濃度がピークに達し、夕方には体温が上昇し、夜には尿の排出量が多くなるといった体内の変化が毎日規則的に繰り返されることを指します。この規則的な繰り返しは生命活動を行う上で重要な役割を担っていると考えられ、人間だけでなく他の動物や植物にも存在します。
このサーカディアンリズムをもとに、マッサージや整体に適した時間帯を考えてみると、午後5時ごろと推測できます。それは、体温が午後5時ごろにピークを迎えること、関節や筋肉など身体の可動域が1日のうちで最も広くなり、身体を動かすのに最も適した時間帯とされることなどの理由によります(※ただし、起床時刻が午前6時の場合なので、起床時刻が大幅にずれる人の場合は異なります)。
また、リラクゼーションを主目的としたソフトな指圧やマッサージの場合、副交感神経が優位になる日没後の時間帯もおすすめです。日没後は自律神経が活動を司る「交感神経」から休息を司る「副交感神経」に切り替わり、脳内がリラックスモードになるため、心身ともにリラックスしやすい状態になっているからです。
副交感神経が優位な状態では、体内の血管が拡張されてホルモン分泌が増加される働きもあります。ですから、血流を良くしたりリンパの流れを促したりする施術を行うと、より良い効果が期待できると考えられるのです。
おわりに:マッサージの癒し効果は、ホルモンなどの効果から科学的にも明らか
マッサージによって癒し効果が得られる理由として、身体にとっては皮膚や筋肉の受容器を刺激することで緊張をほぐしたり可動域を広げたりすることが、心にとってはセロトニンやオキシトシンなどのホルモン分泌が促されることが挙げられます。
マッサージ効果を高めるには、水分や栄養バランスを整えたり、背術後は身体を温めて早めに休んだり、時間帯を選んだりする方法があります。できる範囲で行い、上手に効果を高めましょう。
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