リラックスするためにはさまざまな方法があります。好きな音楽を聴いたり、癒しスポットに行ったり、お風呂に入ったりと、休憩時間や休日には思い思いの方法でリラックスしている人が多いことでしょう。
今回はそんなリラックス方法の中でも、特に手軽にできる腹式呼吸をご紹介します。場所を選ばず簡単に行えますので、休憩時間や通勤・通学中などにぜひやってみてください。
- この記事を読んでわかること
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- 呼吸とリラックスの関係
- 腹式呼吸のリラックス効果の秘密
- 正しい腹式呼吸のやり方
- 浅い呼吸や口呼吸のデメリット
- 腹式呼吸を身につけるコツ
呼吸がリラックスと関係しているのはなぜ?
リラックス状態とは、人間の体の状態をコントロールする「自律神経」のうち、「副交感神経」が優位になっている状態で、呼吸や心拍が落ち着き、心拍数や血圧が下がり、胃腸の働きが活性化されます。「交感神経」によって緊張していた状態がゆるむので、体も心もゆったりと穏やかな感覚が得られます。
自律神経は活動を司る「交感神経」と、リラックスを司る「副交感神経」の2つから成り立っていて、これら2つの神経のバランスによって自分の意志とは無関係に体の状態や臓器のさまざまな機能を調節しています。体温調節や血圧のコントロールができるのもこの自律神経の働きによるものです。
- 交感神経
- 日中に活動するときのための神経で、体を緊張モードに切り替える。「闘争あるいは逃走の神経」とも言われる
- 運動時や緊張状態、集中時、ストレス状態などのときに優位になる
- 副交感神経
- 主に夜間に働き、体をリラックスモードに切り替えるための神経。「休息の神経」とも言われる
- 睡眠時、安静時、リラックス状態などのときに優位になる
つまり、リラクゼーションとは交感神経系の活動を抑え、副交感神経系の活動を促すことだと言えます。交感神経の働きが弱まり、副交感神経の働きが強まると、免疫力を高めてストレスホルモンの分泌を抑制するとともに、緊張をゆるめて疲労感・不安感・心配などを減らし、爽快感をアップします。
もちろん、いつも副交感神経が優位であることが良いわけではありません。活動時には交感神経が、リラックス時には副交感神経が優位になるというように、場面に応じて交感神経と副交感神経が切り替わり、バランスのとれた働きをすることが大切なのです。例えば、仕事や料理をするときなどは、交感神経が優位になることで適切な集中力が発揮できます。
交感神経と副交感神経のバランスを整えるためにはさまざまな方法がありますが、最も手軽にできる方法として呼吸があります。気持ちを落ち着かせるために深呼吸をすることはよく知られていますが、このように呼吸をコントロールすることで自律神経に働きかけ、心身をリラックスさせられるのです。
普段の生活で呼吸を意識することはあまりないでしょうが、呼吸は体温や免疫機能、消化機能、心拍などと同じように自律神経系で調節されているものです。自律神経系が調節する機能の中で唯一、自分の意志でコントロールできるのが呼吸ですから、リラックスするための呼吸法を意識することで、副交感神経を働かせやすくなるわけです。
とはいえ、ただ深く息を吸い吐きするだけではリラックス効果が得られるとは限りません。効率よくリラックスするために、次章から正しい呼吸法について見ていきましょう。
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リラックスには腹式呼吸が良いのはなぜ?
呼吸には大きく分けて、浅い「胸式呼吸」と深い「腹式呼吸」の2種類があります。
- 胸式呼吸
- 息を吸うと胸のあたりが膨らむ、速く浅い呼吸
- 深い呼吸でも、「胸いっぱいに空気を吸い込む」など、肺を意識した呼吸は胸式呼吸
- 胸の筋肉が大きく動いて肺が大きくなるので、息を多く吸い込めるがリラックスはできない
- 腹式呼吸
- 息を吸うとお腹のあたりが膨らむ、深くゆったりとした呼吸
- 下腹部を膨らませたりへこませたりして行う呼吸で、呼吸そのものは難しくない
- 歌手や俳優など声を使う職業の人で、声量を増やすために訓練することも
肺は肋骨の間にある「肋間筋」という筋肉と、肺の下部にある「横隔膜」という膜に囲まれています。胸式呼吸ではこの肋間筋と横隔膜の両方を動かして空気を取り込みますが、腹式呼吸では主に横隔膜が上下する動きで空気を取り込みます。そのため、胸式呼吸では胸が大きく膨らむのですが、腹式呼吸では胸はあまり大きく膨らみません。
この特徴から、腹式呼吸はリラックス効果をもたらす呼吸法としてだけではなく、息切れや肺疾患の患者さんに有効な呼吸法として指導が行われることもあります。
腹式呼吸でリラックスできるのはなぜ?
腹式呼吸は上記のように肺への負担が少ないだけでなく、ゆっくりと息を吐くことで副交感神経を優位にする働きがあることはもちろん、全身の筋肉を緩ませたり、横隔膜を上下させて腹圧を変化させることで便通を改善したりする働きがあるとされています。就寝前に腹式呼吸を数回行ってから布団に入れば、副交感神経が優位になり穏やかに落ち着いた状態で眠りやすいでしょう。
腹式呼吸では、最初にゆっくり深く息を吐ききります。このとき、胃腸などの臓器が詰まっている腹部のスペースがしぼみ、静脈が圧迫され、血液が心臓に戻りにくくなります。すると、血液を流すための交感神経にスイッチが入ります。そこでお腹を緩めて息を吸うと、交感神経の働きも手伝って一気に血液が心臓に戻ります。
そこで、体は慌てて副交感神経を活性化させ、血流を中心とした体のバランスを取ろうとします。この繰り返しによって、だんだんと副交感神経の働きが強まっていくのです。腹式呼吸によって副交感神経が活性化される流れをご紹介すると、以下のようになります。
- 息を吐ききって止めると、腹部のスペースが小さくなる
- 胸腹腔内圧が上昇し、血液が心臓に戻りにくくなる
- 心拍出量が低下し、血圧が下がる
- 交感神経が活性化し、末梢血管が収縮して頻脈になる
- 息を緩めると、静脈から一気に血液が心臓へ戻る
- 心拍出量が増加し、血圧が上がる
- 副交感神経が活性化し、末梢神経が拡張して徐脈になる
この一連の流れが滞りなく行われることで副交感神経が活性化し、リラックス効果がもたらされますので、まずは最初の「十分に息を吐ききって止める」ということをしっかり意識して行いましょう。
浅い呼吸は体に負担がかかるって本当?
深くゆったりした腹式呼吸とは逆に、浅く速い呼吸は体に負担をかけるとされています。これは、ストレスを感じると呼吸が浅く速くなることに関係しています。浅く速い呼吸は肩や胸だけを使って行い、十分な量の空気(酸素)を取り込めないことから、肺の一部にしか酸素を送り込めず、血液中の酸素が少なくなってしまいます。
すると、体のさまざまな臓器に十分な酸素を送り届けられず、すぐ疲れやすくなったり疲労感が続いてしまったりします。酸素が届かないことで最もダメージを受けるのは脳で、通常の筋肉細胞が消費する酸素の量を1とすると、脳の神経細胞が消費する酸素の量は20とされているため、十分な量の酸素が供給されなければすぐに働きが弱まってしまうのです。
また、常に浅く速い呼吸ばかり続けていると、副交感神経が働くべきところでも副交感神経が働き続けてしまいます。例えば睡眠時にも胸式呼吸が多くなり、十分なリラックスに至れないことから、朝起きたときに疲労感が残ってしまうなどです。他にも、以下のようなさまざまな身体機能に影響を及ぼし、ますますストレスを増やしてしまいます。
- 自律神経失調症
- 呼吸関連の筋肉の凝り
- 背骨のゆがみ
- 胃などの内臓や肋骨の下垂
- 肝機能の低下
- 便秘
- 呼吸器系疾患
口呼吸よりも鼻呼吸が良い?
また、呼吸をする際に空気を取り入れる場所も重要だとされています。一般的に口から息を吸い込み、口から吐くのを「口呼吸」、鼻から息を吸い込み、鼻から吐くのを「鼻呼吸」と呼びますが、鼻呼吸の方が口呼吸よりも良いと言われています。これは、そもそも鼻には吸った空気を浄化する機能が備わっているため、鼻から吸って鼻から吐く「鼻呼吸」が人間にとって自然な形だからです。
鼻から空気が吸い込まれるとそこで空気中のほこりが取られ、乾燥していれば適度な湿度に調整されます。つまり、喉や肺にとって刺激の少ない空気にしてくれるのです。人間以外の哺乳動物は鼻呼吸であり、口呼吸をする動物がいないことからも、鼻呼吸が哺乳動物にとって自然な形であることがわかるでしょう。
口はもともと食事をするための器官ですから、空気を浄化する機能はありません。しかも、口呼吸によって乾燥した空気が直接口の中や喉、体内に入ると粘膜が乾燥してしまうほか、細菌やウイルスが直接侵入してしまい、風邪やアレルギーなどにもかかりやすくなってしまいます。また、顔の筋肉が弱くなって口が開きやすくなり、いびきをかきやすくなったり、顔がたるんだりして美容にも悪影響です。
このように、口呼吸には鼻呼吸と違ってさまざまな弊害があることがわかります。最近では子どもから大人まで、さまざまな要因から口呼吸をする人が増えていることが問題とされています。普段無意識に口呼吸をしてしまっているかどうかは、以下のポイントをチェックしましょう。
- 朝起きたとき、喉がヒリヒリすることがある
- 唇がいつもカサカサしている
- 何かに夢中になっているとき、口が開いていることをよく指摘される
- いびきをかく
- くちゃくちゃと音を立てて食べてしまう
- 鏡を見ると、口が「へ」の字になっていることが多い
このような人は、ぜひ意識的に口呼吸を避け、鼻呼吸ができるよう改善していきましょう。無意識に口呼吸を行ってしまう人が鼻呼吸に戻すためには、ガムを噛むのが良いとされています。口呼吸を行ってしまっている人は、ぜひ試してみてください。
腹式呼吸のやり方は?
それでは、実際に腹式呼吸のやり方を見ていきましょう。
- 息を吐く
- 体の力を抜いて、へその下あたり(丹田)に手をあて、長くゆっくりと息を吐く
- 体の中の空気をすべて外に出すつもりで、時間をかけて吐き出す
- 口をすぼめるようにして細く息を吐くと、時間をかけて吐き出しやすい
- このとき、徐々にお腹が引っ込むよう意識しながら行う
- 息を吸う
- 吐ききって下腹部が限界までへこんだら、次は下腹部に空気を入れて膨らませるイメージで息を吸っていく
- 舌を上顎につけるようにすると、鼻から息を吸い込みやすい
- このとき、できるだけ自然に鼻から空気を吸い込むこと、下腹部が膨らんでいくことを意識しながら行う
- 息を止め、再び息を吐く
- 限界まで息を吸い込んだら、3秒ほど息を止める
- 再びゆっくりと長く、吸った時間の1.5〜2倍(理想は4倍)の長さで息を吐いていく
腹式呼吸は「吸って、吐く」のではなく、「吐いて、吸う」という呼吸です。この呼吸を5〜10分程度繰り返して行いましょう。呼吸に合わせて体の緊張がほぐれていくのをイメージしながら行うと、実際のリラックス効果も高まります。具体的にお腹がへこむ様子を意識しにくい人は、お腹の上に本を乗せて行うと目で確認しやすくなります。
寝る前に横になって行うのが理想的ですが、椅子に腰掛けているときや立っているときでも構いません。下腹部に手を当て、動きをしっかり意識しながら行いましょう。
腹式呼吸をうまくできないときはどうすればいい?
腹式呼吸がうまくできず、なかなか思ったようなリラックス効果が得られないときは、特に「息を吐く」という動作に意識を集中して行うと自然に腹式呼吸になりやすいとされています。慣れないうちは立ったり座ったりした状態ではなく、仰向けに寝て行うのも呼吸を覚えやすいです。慣れてきたら座った状態や立った状態で行っても良いでしょう。
また、余計な考え事が出てきたら、呼吸に意識を向けて集中し直しましょう。軽く目を閉じて情報を遮断したり、息を吸ったり吐いたりするときには心の中で「いーち、にーい、さーん」というようにゆっくり数を数えながら行うのもおすすめです。腹式呼吸は腹筋を使う呼吸法でもありますので、腹筋の動きに意識を向けて行うのも良いでしょう。
腹式呼吸がどうしても難しいという人は、椅子に座った状態で行う座禅もおすすめです。五十音順に「あー」「いー」とできるだけ長く発声する(息を吐ききる)のと、自然に息を吸うのを交互に行うもので、発声することで他のことに意識が向きにくくなります。五十音すべて発声しきらなくても、リラックスできたなと思ったらそこでやめて構いません。
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おわりに:誰でもチャレンジしやすい腹式呼吸で、体をリラックスさせよう
人間が行う呼吸には「胸式呼吸」と「腹式呼吸」の2種類があり、ストレスがかかっているときは速く浅い胸式呼吸に、リラックスしているときは深くゆったりとした腹式呼吸になりやすいです。ですから、逆に腹式呼吸を意識的に行うことで、体をリラックスさせることもできます。
腹式呼吸は息を「吐いて、吸う」呼吸法です。まず体の中の空気を全部出すイメージで、息をゆっくり吐ききってから吸うことを意識して行いましょう。
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