自然の多い場所に行くと、癒されると感じる人は多いです。森林浴という言葉もあるように、深い森の中は緑で目を休めたり、新鮮な酸素をたくさん吸い込んだりできます。一方、海や川ではマイナスイオンや水の音が癒しになるとされています。
このように、自然にはさまざまな癒し効果があると考えられています。今回は自然が癒しになる理由と、実際に行くのにおすすめの場所についてご紹介します。
- この記事を読んでわかること
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- 自然にふれると癒やされる理由
- 自然が持つ癒やし効果の秘密
- マイナスイオンと癒やし効果
- おすすめの癒しスポット
自然が人の心身を癒すのはなぜ?
人間も動物ですから、もともとは自然の中で暮らしていた生き物です。ですから、自然に触れることで安心感や癒しを得られるのは当然のこととも言えます。実際に、自然には目を楽しませたり、緑や青を見て目を休ませたりする以外にも、以下のような効果があると考えられています。
- 心臓や肺の健康につながる
- アメリカの研究によると、木が失われたエリアに住んでいると、心疾患や呼吸器疾患での死亡率が高まることがわかった
- ストレスホルモンを減らす
- 緑が多い地域に住んでいる人は、都市部に住んでいる人よりもストレスホルモンであるコルチゾールの量が少ない
- 実際に本人が自己申告したストレスも、都市部より緑の多い地域に住む人の方が少なかった
- ネイチャーセラピーとしての役割
- 自然の中を歩いていると、フラストレーションが軽減される
- 物事に没頭できて頭がすっきりし、集中力と肯定的な感情を高められる
- 睡眠特性が改善する
- 森林の中で2時間ウォーキングすると、睡眠特性を改善できる
- ※睡眠特性:実際の睡眠時間や睡眠の深さ、質
- よりよいストレス管理ができる
- 緑が豊かな環境で暮らすとストレスが軽減され、ストレス管理に役立つ
- 脳の疲労が減り、冷静でいられる
- 自然の中を歩くと、脳の疲れがとれることが実験からもわかっている
- 車の多い都市部を歩いているときの脳は、公園の中を歩いたときに比べて周囲に気を配らなくてはならず、イライラし興奮した状態に
- リラックスして森を散歩するとき、街中を歩くよりコルチゾールが12.4%、交感神経活動が7%、血圧が1.4%、心拍数は5.8%減少した
- 病気と戦うNK細胞が増える
- 自然の中を散歩すると、病気と戦うNK(ナチュラルキラー)細胞が増えることが実験でわかっている
- ある集団がハイキングに行った後、血液検査でNK細胞が40%増えた。一ヶ月後、15%増えたままだった
- 都市部をウォーキングした場合、NK細胞の数は変化しなかった
このように、自然に触れることは心理的な癒しの他にもさまざまな効果を得ることができます。普段都市部に住んでいる人は、休日や休憩時などに積極的に自然と触れ合うことで、自然の持つさまざまな効果を得られるでしょう。
森林浴や波の音で癒されるのはなぜ?
森林の中では独特のニオイを感じますが、これは「フィトンチッド」と呼ばれる化学物質で、植物が傷つけられたときに放出し、殺菌力を持つ物質だということがわかっています。このフィトンチッドは心理面でも癒しや安らぎを与えてくれる力を持つとされています。ぜひ、森林の中に入ったときには深呼吸をしてみましょう。
風の音や波の音は、一見単調に思えても独特の不規則さを持っています。この不規則さは「1/fゆらぎ」と呼ばれるもので、人の心を快適にしたり、癒しを与えたりしてくれるとされています。このように、自然の中にはさまざまな「1/fゆらぎ」を持つ音や光が溢れています。小鳥がさえずるのも、川の流れも、火が揺れるのも、みな「1/fゆらぎ」なのです。
さらに、自然の緑を見ると疲れた目が休まるとされますが、緑には視神経を休める効果があると考えられています。心理学的にも調和やバランスを表す色であり、心も目もゆっくり休められます。リラックスや癒しを得るには非常に良い色と言えます。
自然の中で「休息モード」になれる?
ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」は、過度なストレスを受けると増加し、心身にさまざまな影響を及ぼします。例えば、うつ病患者さんの体内ではこのホルモンが高値を示すとされています。最初にもご紹介した通り、この「コルチゾール」のレベルは、多くの緑や自然に囲まれた生活をしていると、都市部で生活をしているときよりも低くなることがわかっています。
しかし、この研究からはコルチゾールレベルの低下が自然だけの影響によるものとは言い切れません。自然に囲まれた生活を送るためには、ある程度郊外に住む必要があります。つまり、都市部で生活している人よりも日常生活の中で自然と歩く機会が増え、自然の影響に加えて普段から意識することなく適度な運動を行えていることがコルチゾールの減少につながった、とも考えられるのです。
日本でも同様の研究は行われていて、森林の中を歩くとコルチゾールだけでなく、血圧・心拍数。ストレスに対する過剰な神経反応が低下したことがわかっています。さらに、参加した被験者の半数以上で免疫力が増加し、神経の一部がリラックスしたことも確認されています。では、なぜこのようにストレスホルモンが減少したのでしょうか。
イリノイ大学の研究結果によると、自然には人間の免疫システムを強化する働きがあるとされています。また、屋外での活動は心身を「活動モード」から「休息モード」に切り替えてくれるともされています。コルチゾールは日中活動するために身体のリズムを調えるためのホルモンでもあり、最も分泌が多いのは朝です。
コルチゾールは日中を通じてゆっくりと減少し、夜、寝る前には少なくなります。こうして身体は休息モードに入り、ぐっすり眠ることができるのです。これと同じように、自然の働きでコルチゾールのレベルが下がれば、自然と休息モードに切り替わり、心身ともにリラックスできるというわけです。
他にも、サイエンス誌で1984年に発表された研究では、窓から森が見える部屋に入院していた患者さんと、自然が全く見えない部屋に入院していた患者さんでは、術後の回復や苦痛の程度が異なり、自然が見える部屋に入院していた患者さんの方が苦痛を感じにくく、回復も早かったとわかっています。
ですから、過剰にインドアで窓も開けないような生活を送ったり、孤独感やストレスを感じることが多い都市生活を送っていたりする場合は、人間の免疫システムや神経活動に悪影響を及ぼすと考えられます。休日に家に閉じこもってしまう人は多いですが、それは心身にとって良い休息とは言えません。少しでも自然のある場所に出かけて休息をとる方が、休養の効果は高いと考えられます。
自然からの贈り物「マイナスイオン」に癒し効果はあるの?
そもそもマイナスイオンとは、空気中に含まれる原子や分子などの微小な物質がマイナスの電気を帯びたものです。理科の授業で習ったことがある人も多いでしょうが、これらは電気といっても非常にわずかな量なので感電したり目に見えたりするものではありません。しかし、人間にとって快適さや清々しさを与えてくれるとされています。
理科ではマイナスの電気を帯びた原子や分子のことをまとめて「陰イオン」と呼びますが、このように空気中に存在する陰イオンのことを「負イオン」「ネガティブイオン」と呼んでいます。逆に、プラスの電気を帯びた原子や分子(理科では「陽イオン」)のことは「正イオン」「プラスイオン」と呼んでいますが、プラスイオンは人間に不快感を与えるとされているためあまり注目されていません。
このマイナスイオンですが、マイナスの電気を帯びた原子や分子が空気中に存在することは事実です。通常、原子や分子は安定した状態で漂っているので、イオン化することはないのですが、強い衝撃によってプラスの電気とマイナスの電気に分かれるのです。特に水はイオン化しやすいこともわかっています。
そのため、マイナスイオンが発生しやすいのは以下のような場所です。
- 滝
- マイナスイオンが最も多い場所とされ、癒しやパワースポットと言われることも多い
- 水が激しくぶつかり、多くの水しぶきが舞うことからマイナスイオンが非常に発生しやすい
- ストレス軽減やリラックス効果を求めて、滝のある観光スポットに行く人も多い
- 森や渓谷
- 木々が呼吸し、微細な水蒸気を発生させることからマイナスイオンが多くなりやすいエリア
- 林間内に風が吹くと木と空気が擦れて静電気が起こり、木はプラスの電気へ、空気はマイナスの電気へ変化する
- ハイキングやキャンプでも訪れやすい森は、渓谷など近くに川や滝がある場所だとさらに癒し効果の期待が高まる
- 鳥のさえずりや森林の香りなど、他の癒し効果も心を落ち着かせる効果大
- 海
- 砂場や岩場に水が衝突することで、空気中に新鮮なマイナスイオンが含まれる
- さざなみの音や海に沈む夕日を感じると、ゆったりと心が穏やかになれる
しかし、マイナスイオンが人間の心身に本当に良い効果をもたらすのかどうかについては科学的なデータがまだまだ乏しく、確実に良い効果をもたらすとは言いきれません。ドライヤーや空気清浄機など、マイナスイオンを発生させる製品はたくさんありますが、その効果についてはまだまだ未知の領域です。とはいえ、一般的には以下のような効果があると考えられています。
- 気持ちが落ち着く
- ストレス解消やリラックス効果は、マイナスイオンの効果として最もよく知られている
- 滝壺や小川など、水の弾ける場所は癒しや爽やかな気分を感じられる
- 森林ではマイナスイオンに加え、1/fゆらぎの音や光、フィトンチッドの効果も
- 深呼吸をしたり、少し身体を動かしたりしてより新鮮な空気を取り入れるのがおすすめ
- 血行を改善し、お肌をキレイに
- 血行改善に効果があるとされ、美容や健康に良いと考えられる
- 血液をサラサラにしたり、酸性気味の血液を弱アルカリ性にしてくれたりするとされる
- 日常生活ではプラスイオンが多く、タバコの煙やホコリなどで血液が酸化している
- 電子機器もマイナスイオンを減少させてしまうため、積極的に取り入れることも重要
- 疲れや不安感を解消する
- 免疫力を高め、新陳代謝に効果があると言われている
- 血行促進によって、疲労回復も促されると考えられる
- 睡眠の質を上げる
- 睡眠の質が良くなるというのも、マイナスイオンの効果として言われている
- 自然の中で新鮮な空気をたっぷり吸い込むと、自律神経のバランスが整い、落ち着いて眠れると考えられている
癒し効果が海と山で違うって本当?
なんとなく疲れたな、と感じたとき、その疲れは精神的な疲れと肉体的な疲れに大別できます。そして、疲れの種類によって癒しを得やすい場所が変わってきます。
- 精神的に疲れている場合
- ストレスを抱え込み、ストレスや眼精疲労からくる肩こりや体調不良がある場合
- 睡眠不足でも忙しさを優先させてしまうほど、体力はあっても精神的な疲れが辛い人
- イライラや精神の高ぶりをしずめ、心を穏やかにするには「海」がおすすめ
- 身体的に疲れている場合
- 朝起きられない、夜眠れない、何をするにもやる気が出ない、階段を上るのがつらい、など
- スポーツジムに行く気があっても体力がないという場合は、身体の中から浄化しよう
- 元気をもらえる「森」で身体的な癒しを得るのがおすすめ
では、それぞれの場所がなぜ精神的な癒し、身体的な癒しにつながるのか見ていきましょう。
海で精神的な癒しを得られるのはなぜ?
海は適度な湿度や塩分による保湿効果、波音などの効果で、海辺を散歩するだけでも頭と身体を解しリラクゼーション効果を得られるとされています。大海原の開放感が日々のストレスを緩和してくれたり、海の青さを見ることで精神を安定させたりするセラピー効果も感じられると言われています。
大昔から「海の向こうには楽園がある」とさまざまなおとぎ話や神話が作られ、語り継がれてきました。古事記に登場する「常世の国」、浦島太郎の「竜宮城」、沖縄の「ニライカナイ」など、海の持つ開放感や癒しの力を楽園になぞらえていたのかもしれません。浜辺や海の近くにいるだけでも、昂った精神を和らげ、平常に戻してくれるでしょう。
精神的な疲れを癒すために海に行くときは、あまり移動してあれもこれもと観光するのではなく、あくまでも一箇所にとどまってリゾートホテルや民宿などで地魚を食べたり、海を眺めて何も考えずにのんびりと過ごしたりしましょう。旅行するほどの時間が取れないという場合は、水族館でぼーっと魚を眺める、というのも非常に効果的です。
ただし、夏や冬に海に行くときは以下の点に気をつけましょう。
- 夏に海に行く場合
- 夏は紫外線が強く気温も上がるため、乾燥や暑さストレスに注意
- 海に入る場合は1〜2時間程度とし、基本はパラソルなどの日陰で過ごす
- 冬に海に行く場合
- 風が強く波が高いため、近づきすぎないように注意する
- 冬の乾燥で喉が痛い、喘息気味という場合は、温暖な熱海・伊豆・九州・沖縄などがおすすめ
森で身体的な癒しを得られるのはなぜ?
最初にもご紹介したように、森の空気にはフィトンチッドという化学物質が多く含まれていて、殺菌効果や浄化作用をもたらし、人の細胞を活性化させる働きがあるとされています。また、森の緑色は交感神経を刺激し、視覚・聴覚・味覚などの感覚や脳の働きを活発にしてくれます。このように、身体的に元気をもらいたい場合は森に行くと良いでしょう。
上記のような作用や、木々を揺らす風の音による「1/fゆらぎ」効果はまとめて「森林浴効果」と呼ばれることがあります。近年では「森セラピー」に関する研究も進んでいて、森にはまだまだ知られていない癒し効果がありそうです。また、森は森でも山に登ることも良い効果をもたらしてくれます。
山はもともと、修験道における修行の地とされていました。出羽三山や熊野、白山、大山などが今でも霊場・霊山として有名ですが、今はリゾート地として知られることが多い日光や、避暑地として知られる軽井沢にほど近い浅間山も、もともとは修行者が登るための山として知られていたのです。
山に登ることは一見肉体的・精神的に負担をかける行為のように思われますが、植物から活気をもらい、適度な運動で身体を活性化させる働きが重要なのです。さらには、登ったという事実によって達成感が得られます。自信がつき、運動によって体力の回復も図れる山登りは、現在の我々にとっても心身に良い効果をもたらしてくれるでしょう。
とはいえ、森でも山でも、過剰に無理をするのは禁物です。あくまでも、体力に合わせた高低差が少ない散策路をゆっくりと自分のペースで歩きましょう。鳥のさえずりに耳を傾けたり、野の花を見つけたりできるくらいの余裕を持てるのが理想です。夜には旅館やホテルで美味しい高原野菜を食べると、身体の奥からすっきりできることでしょう。
ただし、夏や冬に山に行くときは以下の点に気をつけましょう。
- 夏の山に行く場合
- 標高が高い山は紫外線も強く、高度があって涼しくても肌の露出は危険
- 露出しない服や日焼け止めなどを使用し、できるだけ木陰を歩いて紫外線を防ぐ
- 虫除け薬なども用意しておき、適宜使う
- 冬の山に行く場合
- 冬でも常緑樹は枯れないので、温暖な海辺の椿や柑橘系樹木などの森や山がおすすめ
- 湯河原の万葉公園、真鶴の真鶴半島自然公園など、冬でも森林浴を楽しめる場所はある
おわりに:自然は心身をさまざまな効果で癒してくれる。疲れによって選ぶ方法も
自然に触れて癒されるのは心理的な効果だけでなく、フィトンチッドという化学物質、1/fゆらぎという音の効果、色による効果、ストレスホルモンの軽減、免疫システム、マイナスイオンなどさまざまな要因が考えられています。
森林浴や滝の近くで癒し効果が得られることはよく知られていますが、精神的に癒されたいなら海、身体的に癒されたいなら森や山、と疲れや癒されたい目的によって行き先を選ぶのも効果的です。
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