アロディニアという言葉はまだあまり浸透していないかもしれませんが、異痛症と言えばなんとなく想像がつくのではないでしょうか。本来、痛みを感じるようなことではないのに痛みを感じてしまうことを指し、ストレスが要因なのではないかとも言われています。
今回は、このアロディニアとは具体的にどんな状態のことなのか、なぜ起こるのかといったアロディニアの基本を中心に解説します。
アロディニア(異痛症)ってどんな状態のことなの?
アロディニア(異痛症)とは、通常では気にならないような圧迫・接触・温度などがきっかけとなって、身体の痛みや不快感が起こる感覚異常のことです。片頭痛、事故やケガによる神経損傷、帯状疱疹後神経痛などさまざまなケガや病気が引き金となり、神経が過剰に反応して痛みを起こす「神経障害性疼痛」の一種だと考えられています。
通常、私たちは身体に何かが触れたとき、触覚が働いて「なにかに触られたな」と感じます。しかし、異痛症ではここで触覚の代わりに痛覚が働いてしまい、「痛い」と感じてしまいます。このように、刺激に対して反応する感覚が違うため「異」痛症、と呼ばれているのです。ケガや病気が良くなっても痛みだけが残っていたり、時間が経っても痛みが続いていたりするようなら、異痛症の可能性があると考えられます。
異痛症は神経学的検査、画像検査などでも異常がないため、診断には詳しい問診や診察が必要です。精神的な影響が強いと考えられていることから、国際疾病分類ICDには記載されず、アメリカ精神医学会による診断基準DSMに記載されています。近年、国際疼痛学会によって慢性痛のうち「一次性慢性痛」「二次性慢性痛(神経障害性疼痛、侵害受容性疼痛)」などに分類されるようです。
アロディニア(異痛症)が起こるのは、心と身体が互いに影響し合っているからです。よく、心理学などで「心と身体はつながっている」と言いますが、これはまさに心と身体が切っても切り離せない関係であることを示していて、アロディニアで起こる痺れや痛みは、脳の疲れが作り出した症状だと考えられています。
脳の疲れとは、ずばり蓄積したストレスです。蓄積したストレスは、痺れや痛みという身体症状となって現れます。身体の疲れが吹き出物などで現れるように、アロディニアは心の疲れによる吹き出物とも言えるでしょう。こうした性質上、その症状の出方も少し気になるかなという程度の痺れから、いつも気になってしまう不快な痛みまでさまざまです。
ピリピリとした痛みが強くなっていくると、日常生活に支障をきたすこともあります。痛みは何らかの身体的な異常を知らせるバロメーターでもありますが、外敵と戦ったり逃げたりするときには不便なので、人間も含む動物は活動しているときには痛みを感じにくくなるよう、痛みを抑制する神経系を活性化しています。
人間の場合、手足などの末梢神経から上がってくる痛みを脳が感じにくくする「下降性痛覚抑制系」というシステムが作動しています。しかし、アロディニアを発症している人は衣服が触れただけで身体が痛いと感じたりすることから、この下降性痛覚抑制系のシステムが故障しているのではないか、と考えられています。
アロディニアと混同されやすいのが「痛覚過敏」ですが、痛覚過敏では「与えた痛み刺激よりも強く痛みを感じる」というもので、痛み刺激であることは間違っていません。アロディニアでは、痛み刺激よりもはるかに弱い触覚刺激でも痛みを感じてしまうものですから、間違えないようにしましょう。
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アロディニアとストレスとの関係って?
アロディニアの原因は、現状「脳の前頭前野の疲労」「脊髄神経の混線(クロストーク説)」「薬物中毒」という3つの説が唱えられています。
- 脳の前頭前野が疲労している
- 過剰なこだわりや心配、不安は脳を疲弊させ、触覚や痛覚を正しく判断できなくする
- 痛みのコントロールセンターである前頭前野の「背外側野、内側野、眼窩野」が疲弊すると、機能不全に陥る
- その結果、脳から最も離れた距離にある足裏や手指などの感覚を正常に感知できなくなる
- 痺れやピリピリした痛みなど、異常な感覚として知覚してしまう
- 脊髄神経の混線(クロストーク説)
- 身体の表面を覆っている皮膚は、触覚や痛覚などの刺激を受けると素早く大脳に伝える
- 情報を受け取った大脳は、外界に適応するよう身体を守る
- 触覚シグナル・痛覚シグナルは、触覚経路と痛覚経路に分かれて別々の脊髄路を辿り、大脳の触覚中枢と疼痛中枢へ
- 脳脊髄がストレスで疲弊すると、上記の経路が混線する
- その結果、触覚と痛覚が混じり合った不思議な異常感覚となって脳に伝わる
- 薬物中毒
- 水銀、鉛、カドミウムなどの重金属、アルコール、各種薬剤など
- 不適切な摂取や使用によって、皮膚に異常感覚をきたすことがある
このうち、脳の前頭前野の疲労や、脊髄神経の混線にストレスが関係していると考えられています。脳や脊髄を疲労させてしまうのは、主に以下のようなストレスです。
- 性格ストレス
- 真面目、几帳面、完璧主義、こだわりなどの性格とアロディニアには強い相関がある
- 上記のような過敏な性格の人が、心労や人間関係など過剰なストレスを受けるとドーパミンの分泌が減少し、アロディニアを発症しやすくなるとされる
- 睡眠ストレス
- 遅寝、不規則睡眠、短時間睡眠など、睡眠ストレスは脳の大敵
- 睡眠ストレスは「大脳辺縁系A10神経」の一つであるドーパミン神経回路を疲弊させるため、アロディニアを発症しやすくなると考えられる
- 運動不足ストレス
- 運動不足ストレスによる痛みは不動痛とも呼ばれ、アロディニアの重要な危険因子
- 筋肉を動かさなすぎたり、運動不足だったりすることによる痛みは「不活動性疼痛」「不動性疼痛」などと呼ばれ、アロディニアの原因の一つとしてよく知られている
- 環境ストレス
- 職場・住居環境などが原因で、光過敏・音過敏・臭い過敏などのストレス反応が起こる
- こうしたストレスが慢性化した場合にも、アロディニアを発症する可能性が高まる
このように、精神的なストレスが脳を疲弊させたり、睡眠不足が神経を疲弊させたり、過度な運動不足や環境でストレスが生じたりすることがアロディニアの原因となりえます。
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どんな痛みやピリピリ感がアロディニアの症状の特徴なの?
アロディニアの痛みは、現れる場所によって「頭部アロディニア」と「頭蓋外アロディニア」の2つに分けられます。
- 頭部アロディニア
- 頭の神経が過敏に働いてしまう感覚の異常
- 症状は頭の近くに現れ、片頭痛を持つ人に起こりやすい
- 頭蓋外アロディニア
- 頭以外の部分に感覚の異常が起こるもの
- 症状は頭部以外に現れるが、原因は脳が過敏になること
- 症状の起こる範囲が広がっていると考えられる
頭部アロディニアの具体的な症状は、以下のようなものです。
- 髪の毛を結んでいる部分や、ブラッシングをしている部分に痛みを感じる
- 髪の毛が顔に触れると、不快感を感じる
- メガネやイヤリングなどが不快に感じる
- 頭痛がある部分に枕が当たっていると、痛くて寝られない
- 頭に風が当たると痛い
- 強い光を感じると、頭痛が酷くなる
髪の毛やメガネなど、頭や顔に触れるものに不快感を感じたり、痛みを感じる部分に枕を当てると痛みで眠れなかったりと、頭部アロディニアは日常生活の中で避けようがないことが多く、厄介な症状です。一方、頭蓋外アロディニアは以下のような症状が見られます。
- 手足のしびれやピリピリ感がある
- 腕時計やアクセサリー、ベルトなどをつけると不快感がある
- 毛布や掛け布団が身体にかかると、不快で寝られない
- 気温や気圧の変化で、頭痛などの体調不良が起こる
アクセサリーやベルトなどが刺激となってアロディニアが起こるのはわかりやすいのですが、目には見えない気圧・気温・湿度など、天候や環境の変化にも敏感に反応して頭痛などの体調不良を引き起こすことがありますので、アロディニアを持つ人の中には、原因不明の体調不良に悩む人もいます。
片頭痛の症状としてアロディニアが起こることもある?
前述のように、片頭痛を持つ人がアロディニアを発症することもあります。しかもそれは片頭痛の症状の一つとして現れることが多く、片頭痛に悩む人の約7割はアロディニアの症状を経験しているともされています。片頭痛とは、主に以下のような特徴を持つ頭痛です。
- 頭に脈を打つような、ズキズキとした痛み
- 頭の片側に起こることが多いが、まれに両側に起こることもある
- 頭痛は数時間から数日にわたって続くことがある
片頭痛が起こるのは、脳内の血管が拡張することで周囲の神経が圧迫され、炎症が広がるためだと考えられています。原因ははっきりとはわかっていませんが、ストレスや自律神経・ホルモンバランスの乱れなどが指摘されています。そのうちの一つとして、自律神経を調整する働きを持つ脳内物質の一つ「セロトニン」の分泌量の変化が関わっているのではないかと言われています。
片頭痛によって脳の神経が圧迫されて起こる炎症が、顔の感覚をコントロールする「三叉神経」にまで広がると、視覚・嗅覚・触覚などが刺激を受けて敏感になります。そのため、普段は気にならない音や光、皮膚の感覚に痛みや不快感を感じてしまうようになり、アロディニアの症状が現れてしまうというわけです。
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おわりに:アロディニアの原因の多くは、ストレスによる脳疲労と考えられる
アロディニア(異痛症)とは、本来は痛みを感じるような刺激でないのに痛みを感じてしまう、という感覚異常のことで、原因としては脳や脊髄、神経などの疲労、薬物中毒などが考えられています。
脳脊髄、神経などの疲労を引き起こすのはストレスであり、心理的なものから身体的なものまでさまざまなストレスがアロディニアの引き金になりえます。また、片頭痛を持つ人がアロディニアの症状を経験する確率も高いとされています。
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