リラックスやストレス解消のためにはさまざまな方法がありますが、中でも運動は非常に良いリラックス法、ストレス解消法として知られています。とはいえ、やみくもに激しい運動をしてもリラックスやストレス解消にはつながらないこともあります。
では、どんな運動をどのように行えば良いのでしょうか。運動でリラックスやストレス解消になる理由も含めて見ていきましょう。
- この記事を読んでわかること
-
- 運動に期待できるリラックス効果
- ストレス対策やリラックスにおすすめの運動の種類
- 運動で疲労を溜めないようにするためにできること
運動するとリラックスやストレス解消できるのはなぜ?
運動した後、気分がスッキリしたり身体の緊張がほぐれたりした経験がある人は少なくないでしょう。厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動基準2013」でも、身体活動(運動)は将来的に生活習慣病などの疾病リスクを下げるだけでなく、気分転換やストレス解消につながり、メンタルヘルスの不調を改善するためにも有効だと書かれています。
さらに、アメリカ・プリンストン大学の研究チームが行った動物実験によれば、運動をすることで脳のストレスへの反応が弱まり、不安を感じにくくなることもわかっています。ハーバード大学の研究結果では、身体活動の多い人や運動を頻繁にする人では、うつ病の罹患率が20〜30%低いことも報告されました。
つまり、運動の習慣が身についていると、ストレスによって憂鬱な気分になったり、過剰にストレスホルモンが分泌されるのを抑えられたりするため、うつ病を予防する効果があると考えられます。うつ病からの回復に運動療法を取り入れるところもあるように、運動は身体的にも精神的にも良い効果をもたらすと言えるでしょう。
以上のことから、運動の効果は以下の4つにまとめられます。
- 気晴らしになる
- 運動は脳だけでなく、人間の気分や感情にも直接的な変化をもたらす
- スポーツ選手は激しいトレーニングを行いながら、落ち込んだ気分を引きずることはない
- スポーツ選手はある目標に向かってトレーニングすることに集中し、落ち込みや不安を捨て去れるから、と考えられる
- 何らかの運動(エクササイズなども含む)に集中すると、ネガティブな考えや気分を捨てられる
- 自信回復できる
- 運動を行うことで、満足感や達成感などの快感が得られる
- 「前よりも速く走れるようになった」「身体が軽くなった」などの変化を感じると、さらに快感を感じられる
- 自分に自信が持てるようになり、自然と気持ちも明るくなってくる
- 身体が温まる
- 運動で筋肉の緊張が解けたり、リラックス時に働く副交感神経が働いたりする
- そのため、入浴と同様に気分が良くなったり、ストレスが軽減されたりする
- よく眠れる
- 脳と身体の疲労のアンバランスを解消し、睡眠障害を改善する
- 睡眠は、1日のストレスをリセットするための大切な習慣
- 運動不足で血行が悪くなると、血液中に疲労物質「乳酸」が溜まりやすくなる
- 乳酸は神経を高ぶらせる作用があるため、睡眠を妨げる原因になる
このように運動が心を安定させてくれるのは、交感神経が優位になっている時間が長くなり、ポジティブで活動的になりやすいということのほか、軽い運動であってもストレスを解消できて心を穏やかに安定させられるホルモン「セロトニン」や「エンドルフィン」が分泌されるからだと考えられています。
セロトニンとは、精神の安定・安心感・平常心など心を落ち着かせてくれるほか、頭の回転を良くして直観力を上げるなど、脳を活発に働かせるカギとなる物質です。特にストレスに対しては大きな効果を発揮し、人間が体内で自然に作り出す物質でありながら、精神安定剤とよく似た分子構造をしています。
エンドルフィンとは、痛みを和らげたり免疫力をアップしたり、心身をリラックスさせたりと気分を良くしてくれるホルモンです。エンドルフィンの分泌量が減ると代わりにノルアドレナリンという興奮ホルモンの分泌量が増加してしまい、常に不安や興奮を感じるようになってしまいます。
つまり、日常的に運動を続けるとセロトニンやエンドルフィンが安定的に供給されますので、ストレスに強い心身をつくることができます。さらに、運動をするともちろん疲労しますが、疲労感は睡眠を求めるサインとなり、心地よい疲れがぐっすりと深い睡眠に導いてくれます。運動は安眠による疲労回復やストレス解消にも良い効果があると言えそうです。
逆に、布団に入ってから眠れずにさまざまな考え事をしてしまうと寝つきが悪くなり、睡眠中も脳が働き続けてしまうことがあります。すると眠りが浅くなり、夜中や早朝に目が覚めてしまったり、朝にスッキリと目覚められなかったりすることもあります。つまり、運動不足は不眠症につながりますので、夜眠れないという人が適度な運動習慣を持つことは重要なのです。
リラックスやストレス解消にはどんな運動がおすすめ?
ここまでご紹介してきたように、運動は心身ともにリラックスやストレス解消につながることがわかっていますが、精神的な安定のためには具体的にどのような運動をどのくらい行えば良いのか、といった部分はまだ解明されていません。WHO(世界保健機関)が健康のために推奨している以下のような運動は、一つの目安になるでしょう。
- 少し息が上がるが、会話はできる程度の運動(中等度)を1週間あたり150分程度
- 息が上がり、会話ができない程度の運動(高強度)を1週間あたり75分程度
- 上記いずれかに加え、体幹に近い大きな筋群のトレーニングを週2回以上行うこと
もちろん、もともと運動習慣がない人がいきなり週に150分も運動するのは難しいでしょう。しかし、運動習慣がなかった人が少しずつでも運動を始めることは、疾病リスクを大きく下げられることがわかっています。最初は5分や10分からスタートしても構いませんので、少しずつできる範囲の運動をしていきましょう。
おすすめの運動は、ウォーキング・軽いランニング・サイクリング・ダンスなど、身体に新鮮な空気を取り込みながら行う有酸素運動です。気分転換のために外に出て散歩をしたり、緑の多い公園で活動的に過ごしたりするだけでも、心身のリラックスやストレス解消に効果があるとされています。
また、週に150分だからといって1日に2時間半たっぷり運動し、週の他の日は全く運動しない、というよりは、運動時間を1日20分程度に設定し、毎日運動する方がより効果的だとされています。腹式呼吸でリラクゼーション効果の高いヨガや、筋肉の柔軟性を高めて血流を改善するストレッチなども良いでしょう。身体が温まり、軽く汗ばむ程度の運動でスッキリしましょう。
運動を趣味として、レクリエーション的に楽しむのもおすすめです。ハイキングやテニス、卓球など、誰かと一緒に行えば続けやすいでしょう。さらに、新しく始めたスポーツや運動で人と交流し、新たな人間関係を築くことは生活の幅を広げてくれます。無理せず、楽しくできる運動を続けていきましょう。
以上のことをふまえて、リラックスやストレス解消に良い運動のポイントをまとめると、以下の4つが挙げられます。
- セロトニンが活性化する「リズム運動」をしよう
- 一定のリズムを繰り返す運動を行うことで、セロトニンの分泌が高まる
- ウォーキング・ジョギング・サイクリングなどはいずれも一定の動きを繰り返すもので、セロトニンの活性化に適している
- 意識して行う呼吸法(ストレッチやヨガなど)もリズム運動の一つ
- 気持ちの良いペースをキープする
- 最適な運動強度や時間は、体力や年齢・性別など個人差が大きい
- 他人が勧める運動が必ずしも自分に合っているとは限らないことを念頭に置く
- 疲れたり飽きたりする場合は、運動強度や時間、運動の種類を見直す
- ダイエットや競技のための運動ならともかく、ストレス解消のための運動で不快な感情を感じては本末転倒。快感を毎日感じられるように運動する
- ながら運動を行わず、運動のための時間を確保する
- 1日20分〜30分でも、時間を確保して集中して運動することが重要
- 筋肉の動きや呼吸、リズムを意識して行わないと、運動効果や快感の感じ方が弱くなる
- 空間移動を兼ねた運動を行う
- ジムのように、いつも同じ壁を見るだけの運動は飽きてしまいやすい
- ウォーキングやサイクリングなど、空間を移動する運動を組み合わせてみよう
- 空間移動で快感や高揚感をたくさん体験することも、心のリラックスやストレス解消に重要
また、人によっては一人きりで行う運動ではやる気が出ないという人もいます。そんなときは、同じ運動をやる人と交流したり、同じくらいの体力の人に交じって行ったりすると継続しやすいでしょう。スポーツクラブやサークルに入ったり、運動イベントに参加してみたりするのも良い方法です。ぜひ、自分に合ったやり方で運動を続けてください。
運動で疲れを溜めないようにするにはどうすればいい?
そもそも、運動で疲れを感じるのはなぜなのでしょうか。最初にご紹介したように、運動によってポジティブで活動的になれるのは、自律神経のうち主に昼間の活動モードを司る「交感神経」の働きが活性化することが一つの要因だと考えられていますが、この交感神経が働きっぱなしになってしまうと興奮や緊張状態が長くなり、心身ともに疲れてしまいます。
自律神経には交感神経のほか、リラックスを司る「副交感神経」という神経もあり、これらがバランス良く働くことで呼吸・血液循環・胃腸の消化活動など、主に自分の意思でコントロールできない身体活動を自動的に調整しています。自律神経の働きのうち、人間が自分でコントロールできるのは「呼吸」のみです。
ゆったりと深い呼吸をすると、副交感神経が刺激されて血流が良くなり、心身ともに緊張が解けてリラックスできます。一方、浅く速い呼吸をしていると、交感神経が優位になって興奮や緊張状態が続いてしまいます。そこで、運動するときには意識的にゆったりと深い呼吸を行えば、副交感神経を刺激して血流を良くし、より疲れにくい状態で運動できるでしょう。
副交感神経を刺激するための呼吸法としては、腹式呼吸が最も効果的です。これは体幹のインナーに存在する筋肉をしっかり使って鍛えることになりますので、立派な運動の一つと言えるでしょう。もともと運動習慣がなかった人は、以下の手順で呼吸法を身につけるところから始めるのもおすすめです。
- 口をすぼめて大きく息を吐き、同時に腹筋を使ってお腹をしっかり凹ませる
- ゆっくりと時間をかけて鼻から息を吸い、同時にお腹を膨らませていく
- 息を吸い終えたら、また口をすぼめてゆっくりと息を吐いていく
大きく息を吐くと自然に大きく息を吸うことができますので、吸って吐くのではなく、吐いてから吸うのがポイントです。息を吐くときの口は「う」と発音するような形、またはストローを吸うときのような形を意識しましょう。下腹の腹筋と体幹のインナーにある筋肉を使い、完全に息を吐ききってお腹を限界まで凹ませ、その筋肉を使ってゆっくり吸っていきます。
有酸素運動を行うときも、この呼吸法を意識しつつ、隣の誰かと話しながら行える程度の強度を意識すると良いでしょう。もちろん、このときに口をすぼめながら息を吐くのは難しいでしょうから、腹筋やインナーマッスルを意識し、お腹を膨らませたり凹ませたりしながらゆっくりと深く呼吸を行う、というポイントだけ忘れずに行いましょう。
特に、朝に陽の光を浴びながらウォーキングをするのがおすすめです。20分くらいを目安に姿勢を正し、上記の腹式呼吸を行いながら止まらず歩き続けると、疲労回復にも脂肪燃焼にも効果的です。真夏であっても早朝の陽射しは日中ほど強くありませんので、水分補給などの熱中症対策をしっかり行った上でウォーキングをすると良いでしょう。
さらに、有酸素運動から帰ってきたら、ふくらはぎと太もものストレッチを行うことが重要です。特にふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれ、上肢から下肢に送られてきた血液や水分は、ふくらはぎの筋肉が伸びたり縮んだりすることでポンプの役割を果たし、下肢からまた上肢に送り返されます。
このポンプとしての働きが弱くなる、すなわち筋肉をあまり使わなかったり、緊張や興奮で凝り固まってしまったりすると下肢に血液と水分が滞ってしまい、むくみやすくなったり、下半身がだるくなったりしてしまいます。太ももの裏の筋肉はふくらはぎとつながっているため、一緒に伸ばしておくとより効果的です。
- ふくらはぎのストレッチ
- 1:壁に両手をつき、片足を後ろに下げて床にかかとをつける
- 2:壁を両手で押しながら前の足の膝を曲げ、徐々に体重を前に移動させて後ろの足のふくらはぎを伸ばす
- 3:両足を伸ばして座り、手は使わず片足のつま先を手前に引いて5秒キープする。反対側の足も同様に行う
- ※片足につき10回ずつを両足とも行う
- 太もものストレッチ
- 1:開脚して座り、片足を手前に曲げて伸ばしている足のつま先を立てる
- 2:立てたつま先を持ち、身体をその方向に倒していく
- 3:仰向けで寝転がり、片足のひざにスポーツタオルをかけ、両端をそれぞれ手で持って顔の方に引っ張り、もも裏の筋肉を伸ばす
- ※3のとき、タオルをかけている足のつま先を立てる
腹式呼吸でリラックスしながら有酸素運動を行うことは、単に疲れにくい運動をするというだけでなく、精神的なリラックス効果や抑うつ症状・不安症状などの軽減にもつながります。疲れているときはどうしても筋肉がこわばり、呼吸が短く浅くなりやすいですが、深くゆったりとした呼吸を行いながらあえて身体を動かせば、爽快感や達成感など心地よさを得られるでしょう。
運動を続けて体力がついてくれば、次第に疲労感を感じにくくなっていきます。精神的なリラックスやストレス解消はもちろん、疲れにくい身体づくりのためにも、ぜひ今回ご紹介したような呼吸法や運動を日々の生活に取り入れていきましょう。
おわりに:運動でリラックスやストレス解消するためには、腹式呼吸で有酸素運動を
適度な運動が生活習慣に取り入れられていると、将来的な疾病予防だけでなく気分転換やストレス解消になることは厚生労働省を始め、さまざまな研究でも報告されていますが、中でもWHOは疾病予防に有酸素運動を推奨しています。
さらに、運動時には交感神経が優位になり緊張しやすいですが、腹式呼吸を行うことで副交感神経を活性化し、より疲れにくい状態で運動できます。ぜひ、腹式呼吸しながら有酸素運動を行いましょう。
コメント